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お手紙14
「そうね」
「全身が動かなくなる薬と、感覚神経が過敏になる薬を、注射してあげたわ」
あろうことか。
彼女はそう。
あっさりと、言ってのけた。
高野さんを、睨み返して。
それは。
さっきまで『あいして』と泣きじゃくっていた女の子とは思えないくらい、
挑発的な目だった。
「なん、だと」
やばい。
高野さんが、怒りに打ち震えてる。
「ちょ、高野さん、おちついて…」
「落ち着けるわけないだろ!」
大きな声。
びくん。
身体が震える。
震える、
からだを、高野さんが。
抱き起こす。
抱き締める。
「大事なやつが、知らない女に薬盛られて、裸にされて、舌、噛んで……平気でいられるわけ、ないだろ」
尻すぼみに小さくなっていく声が。
掠れていく声が。
すとんと、
俺の胸に落ちていく。
「たかの、さん…」
あぁ、なんでかな。
前もそうだった。
高野さんを抱きしめたい。
抱きしめ返したい。
そう、
思った時に限って。
なんで。
いっつも俺の身体って、
自由が効かないんだろうな。
もどかしい。
もどかしい。
「5時間、よ」
完全に意識の外だったところから、声が聞こえた。
「え…」
「その薬が切れるまで、大体そのくらいかかるわ」
すっと。
立ち上がり、衣服の乱れを正す。
そして。
彼女は驚くほどあっさりと、
踵を返した。
「おい、待て」
高野さんが静止の声を投げかける。
その声を聞かずスタスタと歩いて。
居間と廊下を繋ぐドアを潜る前に。
背を向けたまま、ぽつりと。
「あとは、」
「あなたが何とかしてあげて」
そう言って。
一歩、
踏み出した。
このまま。
行かせていいのか。
彼女を、
このまま。
行かせちゃ、だめだ。
「待って!」
ピタリ。
止まった足に、安堵する。
言おう。
高野さんが来るまえに、
彼女に伝えようとした言葉を。
「君は、」
「おれを愛してるって、言ったけど」
何度も。
なんども。
狂気の中に見えた、幸せそうな表情。
あれは。
きっと、偽りなんかじゃなかった。
けれど、それは。
「俺はきみのこと、名前さえ、知らなかった!」
彼女はきっと、
スタートを間違えてしまった。
ただそれだけだ。
きっとそれは。
どこも歪んでなんかない。
とても純粋な。
片思い、
だったんだろう。
少しの間。
沈黙した彼女は、振り向いて。
「こんなあたしと、」
「ちゃんと向き合ってくれて、ありがと」
それは。
とても綺麗な涙と、笑顔だった。

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