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お手紙13
「……知ってるわ」
彼女の口から出た言葉は、
俺を驚かせるには、十分すぎるものだった。
「え…」
「律が、高野のこと気にしてるの、知ってた」
ぽつり。
ぽつり。
すっかり大人しくなった彼女は、
少しずつ、語りはじめた。
うつむく彼女。
表情は見えない。
「律は、男の人が好きなんでしょう」
「ちが…、」
違う、と。
言いかけてやめた。
本当のことを伝えたところで。
俺は彼女を、
受け入れることはできない、から。
「だから」
「男の人になりきって、手紙をかいたわ」
するり。
彼女の指先が、綺麗な黒髪を梳く。
「……髪も、切ったの」
「ずっと伸ばしてたけど、律に、気に入ってほしくて」
「愛して、ほしくて」
俯く彼女。
ぽたり。
ぽたり。
俺の太股に落ちる、感触。
「愛、してよ、りつ」
「あたしを、あいして」
それは。
此れ迄の、どんな行動より。
ずっとストレートに。
ずっと真摯に。
俺の心に、届く言葉だった。
だから。
俺も、きちんと。
伝えようと思った。
「おれ、は…」
ピーンポーン
それは、
本日2度目の、インターホンだった。
えっと。
うーん、
厳しいなぁ。
この状況じゃ、ちょっと、出れない。
ていうか。
いま俺、動けないしなぁ。
ごめんなさい、
諦めて、下さい。
諦めて、
ピーンポピーンポピンポピーン
「う、るせぇ…」
なんだよ、
諦めろよっ、誰もいないんだよ!
そんなこと、考えてたら。
ガチャガチャ。
何だか、ノブの辺りをいじっている音が聞こえてくる。
まさか。
まさか。
いやちょっと、
この状況で、あの人が来るのは、
まずい。
まずいって、ば。
「律!」
バン、と。
居間と廊下を隔てるドアが、開け放たれた。
真っ裸で横たわる俺と、
服をはだけ泣く女の子。
最悪だ。
最悪すぎる。
これじゃ、完全に俺が悪役じゃないかっ。
殺される。
高野さんに、殺される。
そう、
思った。
のに。
高野さんは、一直線に俺のところに来て。
「お前、その血…何された、どこ怪我した!」
真っ先に、
俺の心配をした。
この状況で俺を疑いもしないなんて。
あんなこと言った俺のこと、
こんなに心配してくれるなんて。
なんて。
高野さんが、
俺の口を開かせた。
指先が、
意図せず首筋に触れる。
「ぁ…、」
どくん。
まだ残ってる薬が、
その効力を発揮する。
高野さんに触れられる。
たった、それだけで。
俺の身体は、
敏感に反応した。
「お前、」
高野さんの目が、見開かれる。
その目が、
彼女へと、向けられた。
「律に、何をした」
あぁ、
まずい。
高野さん、本気だ。

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あきゅろす。
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