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くま2

話はいまわしきあの日に遡る。
あの日俺は初めてネームを直してみたのだけれど、自分の直し方に自信が持てなかった。
だからとてつもなく気が乗らなかったけど、高野さんに確認をしてもらったのだ。
高野さんの部屋で。
今になって思えば、高野さんを象徴するようなこの殺風景な部屋を訪れた時点でなにかが狂っていたんだろう。
そもそも俺が最後に高野さんの部屋を訪れたのは10年前。
それは即ち俺の初恋が、終わりを迎えた日である。
この部屋は、あの頃の部屋とはずいぶん違っているけれど。
それでもここは、高野さんの部屋であることに、変わりはないわけで。
って、そんなことはどうでもいいんだけれど。
とにかく。
ふと気が付けば俺は高野さんに押し倒され、
なんだか濃厚なキスをされ、
あまつさえあらぬ所を触られていたのだ。
ようやく突き飛ばして自分の部屋に戻っても高野さんに触られた所が熱を持ち、指先の感触は消えずに俺を蝕む。
ネームの内容は、とてもじゃないけど頭に入ってこなかった。
こんな状態でネームを読むなんて、一生懸命ネームを書いてくれた先生に失礼だ。
頭ではわかっているのに。
あんなことをされて。
しかもその相手は俺の隣の部屋に住んでて。
どんなに忘れようとしても、意識しないようにしても。
隣の部屋から伝わってくる、気配。
「いやだ」
こんなのいやだ。
おかしい。
おかしく、なる。
俺はただ本が好きで、この編集という仕事が好きで。
ただ、それだけだったのに。
どうしてこうなっちゃったんだろう。
どこを間違ってしまったんだろう。
考えても、考えても、答えは出なかった。
それでもひとつだけ、わかったことがあった。
高野さんとは、今以上に距離を置く必要がある。
できれば顔も見ないほどに、でもそれは難しいから。
せめて、職場以外での接触を避ける。
俺は荷物を纏めた。
仕事先に持っていく荷物と、先生が送ってくれたネームと、数日分の着替えを持って。
まだ日が登りきらない早朝に、家を後にした。
どこに行けばいいかなんてわからない。
わからないけど。
どんな手を使ったとしても、俺はしばらくここには戻らない。


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あきゅろす。
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