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お手紙10
がたんごとん。
電車が刻む一定のリズムに耳を傾けながら、
窓の外を流れる風景を目に映す。
窓一枚挟んだその世界は、
つい最近まで俺がいた世界だった。
いつから
俺はあの世界から隔離されてしまったんだろう。
どうして此処から出られないんだろう。
どうして。
どうして。
俺だけならよかったのに。
自分の世界に篭ることには慣れてる。
10年前だってそうしたんだから。
10年前。
俺の初恋が、
終わった時に。
あぁ、
頬は、大丈夫だろうか。
痛かっただろうな。
まさか叩かれるなんて思わなかっただろうな。
あんなに優しくしてくれたのに。
あんなに
俺のこと、思って。
「…っ、」
ごしごしと、
痛いくらいに擦った。
流れる前に。
溢れる前に。
涙なんて
流す権利、俺にはない。
ないんだ。
奥歯を噛み締め、上を向く。
そこからは
何も考えなかった。
考えないようにした。
一人だった頃の暮らしを思い出すように、
コンビニで栄養補助食品を買った。
コンビニ袋をぶら下げて歩く。
がさ、がさ。
これって
こんなに歩く度、
音がするものだったっけ。
そんな
どうでもいい発見をしたりして。
マンションに着く。
エントランスでポストを一瞥した後、
そのままエレベータに乗った。
1202号室。
一度は離れかけた俺の部屋。
高野さんより早くこの部屋に入るのは、
一体何時ぶりだろうか。
鍵穴に鍵を差し込み、回す。
玄関を開けた先は。
真っ暗な部屋が、俺を待っていた。
「はは…」
そっか。
これが『一人』か。
真っ暗で、
なんにもなくて。
飲み込まれてしまいそうな、虚無。
電気をつける。
乱雑に靴を脱ぎ、まっすぐ居間へ。
至極自然にソファに座る。
定位置となった左側に。
真ん中に座ったっていいだろうに。
なぜだかそうすることは躊躇われた。
食欲は全くわかないけど、
取り敢えず何かしようと、コンビニ袋に手を伸ばした。
懐かしさえ覚える黄色い箱。
点線に指を押し込み、開ける。
二つ入っている個包装のうち一つを取り出した。
今日は、チョコ味にした。
ビスケット様のそれに齧り付き、食む。
久しぶりに食べたそれは。
「おいしく、ない」
パサパサとした、人工物の味は。
とてもじゃないけど、
これ以上食べる気にはならなかった。
殆ど手をつけずに机の上に放る。
ごろり。
ソファに横になった。
ごろごろと、
何度も寝返りをうち。
そうして。
うと、
うと。
意識が、遠くなりだした時だった。
ピーンポーン
来客を知らせる、音。
こんな時間に誰だろう。
小さな画面を覗きにいく。
そこには。
一人の人間が映し出されていた。
目深に被った帽子で見えない顔。
それでも。
直感でわかった。
迷わず玄関へと向かう。
ドアロックと鍵を解き、
扉を開け放つ。
そこにいた人と、対峙して。
「え…」
呆然、
唖然。
そんな。
まさか。
予想外の光景に、
それ以上言葉を発することができない。
「こんばんわ、律」
そんな、
気軽な挨拶とともに。
「が…っ!」
鳩尾に走る衝撃。
膝が崩れ落ちる。
意識が、
遠ざかる中で、聞こえた。
「ずっと」
「会いたかった」

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