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お手紙9
へなへなと机に突っ伏す。
全部終わった。
わけがなかった。
「残念だったなぁ、小野寺」
頭上から、高野さんの勝ち誇った声が降ってくる。
くやしい、
悔しい。
最悪だ。
いま俺は、一番最悪な状況を迎えてしまっている。
高野さんと1対1、
即ちマンツーマン。
高野さんが、
いつもは木佐さんの座っている椅子に腰掛ける。
すっかり高野さんの射程圏内に入る。
あぁ、
「じゃあ」
「始めようか、律」
もう、逃げれない。
楽しい、
愉しい、
尋問タイムが、始まる。
「で、」
「これは、どういうこと?」
俺が今朝渡した封筒を見せつけてくる。
その顔にさっきまでの笑みはなく。
目付きだけが、ぎらぎらと。
探るように。
狩るように。
「そこに、書いてある通りですよ」
負けない。
気を、しっかり持つんだ。
呑まれないように。
ここで引いたら俺は、たぶん。
後悔することになる。
それは。
根拠のない、確信。
「そうじゃない。俺が聞いてるのは理由、だ」
いきなり確信をついてくる高野さん。
こんなところは、流石と言うべきか。
理由。
それを言ったら高野さんは。
どんな反応してくれるんだろう。
どんなことも、するだろうきっと。
それは、
あまりに容易に想像できてしまった。
言えない。
この人にだけは、絶対に。
言わない。
「理由がいりますか?」
「…どういう意味だ」
高野さんの眉間に、皺が刻まれる。
「手紙の内容と、返された鍵。これだけで十分、でしょう?」
編集長のあんたに、
わからない筈ないでしょう。
わかるでしょう、高野さん。
だから。
そんな目で、俺を見ないで。
みないでよ。
そんな。
何もかも、
見透かされてしまいそうな、目で。
見られてしまったら。
キィ、
椅子が軋む。
高野さんが立ちあがり。
ゆっくり、近づいてきて。
「う、わっ!」
両肩を掴まれ、勢い良く椅子の背もたれに叩きつけられた。
視線が絡む。
捉えられ、
離すことすら許されない。
「お前が」
「言いたくなさそうだから、聞かなかった」
えぇ、知ってます。
それが
高野さんなりの優しさだってこと。
わかってるから。
言えないんです。
もし言ってしまったら、
あんた、は。
高野さんの手が視界にうつる。
俺の頬を、撫でる。
撫でる。
「もう、限界なんだろ?」
「ぁ、」
その指が。
つうっ、首筋をなぞり。
そのまま。
「こんなことするくらい、追い詰められてるんだろ?」
首の裏に添えられた手。
耳元で囁かれる言葉。
くらくらする。
温かく、
俺の心を融かす。
「言えよ、律」
「助けてって。俺が要るって、言え。」
ゆっくり近づいてくる、
高野さんの顔。
あぁ、
もう。
言ってしまおうか。
ふわふわとした気持ちに身をまかせ。
力の抜けた身体を委ね。
目を、瞑りかけ。
浮かんだのは。
『いつも、』
『お前を見てる』
唇が、触れ合う。
その瞬間。
ぱんっ。
音が響いた。
「……やめて下さい」
俺が
高野さんの頬を、叩いた音が。
「り、つ」
何が起こったかわからない。
そんな顔をした高野さんを見たくなくて。
見られたくなくて。
高野さんの声を、
聴きたくなくて。
胸ぐら掴んで、引き寄せた。
「直接的なこと、言いたくなかったけど」
「あんたうざいから、」
手が痛い。
高野さんを叩いた、手が。
高野さんも、
痛いんだろうか。
全部、
言えたらよかったのになぁ。
全部ぜんぶ吐き出して、
楽になってしまいたかった。
だけど。
俺やっぱり、巻き込みたくないや。
この人を。
この優しい人を。
巻き込まない為、なら。
「俺は…っ」
「あんたのことが、大っきらい、だ!」
それがたとえ、
どんなに高野さんを傷つけることになったとしても。

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