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お手紙8
「高野さん、出来ました」
高野さんのところに行き、書類を渡す。
いつもならただ仕事上のやりとりでしかないその行動は。
今日の俺にとっては、
大事な意味を持っていた。
「あぁ…、」
高野さんが、
目を通し始める前にその場を後にする。
「おい、ちょっと待て小野寺」
案の定、高野さんに呼び止められる。
予想していた俺は、
振り返り、
務めて冷静な声で対応する。
「何か、不備がありましたか」
「いや、不備はない、が」
「では、まだ仕事があるんで」
失礼します、と一礼し、
自分の席へと戻る。
何度も頭の中でシュミレーションしてきた。
上手くできた。
そう思う。
さっき。
書類と一緒に、封筒を渡した。
中には1枚のメモ紙と。
『もう俺の部屋にこないで下さい。
 鍵はお返しします。
 俺の部屋の鍵も、返して下さい。』
高野さんの部屋の、合鍵を入れた。
こんなことで。
高野さんが引き下がるなんて思わないけど。
引き下がってもらわなきゃならなかった。
昨日の手紙は。
明らかにいつもと違った。
相手は高野さんを知っている。
けれどまだ、俺との関わりを知らない。
この間、たった1度、上司と食事をした。
今ならそれで済まされる。
それ以上だと思われたら。
俺と高野さんが、
仲がいいだなんて勘違いをしたら。
もしかしたら俺を追い詰めるため、高野さんにまで手を出してくるかもしれない。
そんなことはさせない。
これは俺の問題。
俺ひとりの、問題だから。
その日。
俺は1度も席をたつこともなく、集中し続けた。
少しでも一人になるタイミングがあったら。
高野さんの尋問がはじまると思ったから。
思ったから。
早く仕事を終わらせたのに。
早く、帰ろうと。
思って。
「終わりました」
「そうか。じゃあこれ、追加だ」
コイツ。
いったい何回、仕事追加する気だ。
帰らせる気はさらさらないってか?
上等じゃんか。
やってやるよ。
他の人がいなくなるまでに、
残ってる仕事全部やればいいんだろ!
なんか久しぶりに燃え上がってきた俺は、
パソコンに向かって怒涛のタイピングを繰り広げた。
ちなみに。
このときの俺の『見えないタイピング』は、
後に伝説として語り継がれることとなる。

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