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お手紙5
結局。
俺の仕事の能率は上がらず、企画書以外の仕事を片付けたころには終電ギリギリまでかかってしまった。
最悪だ。
高野さんの気遣い、
無にするようなことした。
どんな顔して会えばいいんだろう。
帰って、また俺の部屋にいたらどうしよう。
帰って、また。
手紙があったら。
どうしよう。
どうしよう。
俺は、
ポストの前で、
ポストを見つめていた。
開けようか。
いや、そりゃ開けるんだけどさ。
嫌だな、
何も入ってないと、いいな。
意を決して、
勢い良く開ける。
あぁ、
どうしよう。
また入ってる。
ポストの中、白という色は一際強く目を引く色で。
嫌でも見つけてしまう。
見つけて、しまう。
恐る恐る中を見てみる。
「…っ、」
『今日は随分たくさんコーヒー買ってたな。』
やっぱり。
今日の、アレは。
気のせいじゃなかった、らしい。
ただの一文だ。
俺の日常の1ページを、報告しただけの文章だ。
それでも。
それだけのことが。
こんなにも精神的にくるものだったなんて。
はっとする。
相手は俺の家をわかってる。
また、見られてるかもしれない。
はやく。
部屋に逃げないと。
逃げない、と。
そこから。
部屋までどうやって行ったか、覚えてない。
まぁ、そりゃきっと、
エントランス突っ切って、
エレベーターに乗って、
12階について、
そんな感じだろうけど。
俺の部屋に鍵を、
刺す前にノブを回してみた。
あぁ、空いてる。
高野さんいるんだ。
会いたくないな。
今日は、高野さんに会いたくない。
一人になりたい。
一人で、
本当は。
一人はいやだ。
今は誰でもいいから側にいてほしい。
だけど。
高野さんには、ばれてる。
いやそりゃ、
まさかこんなことになってるとまでは思わないだろうけど。
何かあった、くらいは感づいてるし。
これ以上心配も迷惑も、かけたくない。
俺は。
初めて高野さんからもらった合鍵を、使うことにした。
取り敢えず。
高野さんの部屋に行こう。
そしたら会わなくていい。
それは。
いま会わないだけで、
高野さんが帰ってきたら、遭遇することになるんだけど。
それでも。
今はちょっとだけでも、
高野さんと会うのを遅らせたかった。

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あきゅろす。
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