[携帯モード] [URL送信]
くま8
「う、わっ」
たった今締切ろうとしていた部屋の中に押し戻される。
続いて高野さんまで部屋に入ってきた。
「ちょっ、勝手に入ってこないで下さい、高野さん」
高野さんの身体を押し返そうとするも体格差には敵わない。
それでも俺は、高野さんをこの部屋に入れるわけにはいかなかった。
入ってこないでほしい。
この部屋を見ないでほしい。
一番見せたくなかった人に、
一番見せたくなかったものを見られてしまう。
その時。
時間が、
止まった気がした。
この瞬間の高野さんの顔を。
こんな顔した高野さんを。
俺はきっと、
この先一生、
忘れることはできないんだろう。
「何にも」
「残ってないんだな」
箱だけになったこの部屋には。
俺がいた形跡はもう、何処にもない。
何処にもない。
どさっ、と。
床に衝撃の走った音がする。
俺が高野さんに、押し倒された音がする。
「たかの、さん」
「また俺を置いていくつもりだったのか」
「んっ」
高野さんの顔が近づいてきて唇を押し付ける。
「んぅ、は、ぁっ」
おれが口を開かなかったから、
痛いくらいに顎を掴んで強引に抉じ開けてきた。
昨日のキスとは比べものにならない。
舌がなんども絡まって、
吸われて、
少し痛いくらいに噛みつかれて。
このまま
食べられてしまいそうだ。
息が苦しくなって高野さんの胸を叩いた。
そしたらやっと離してくれて。
俺はみっともないくらいに大きく息を吸って、吐いて。
そうしていたら。
プチ、
プチ、
釦が外されていく。
「ちょっ、た、高野さん、やめ…」
「俺の手の届かないところに、いくつもりだったんだろ」
いくつかまで外したところで、びりり、大きな音。
一つひとつ釦を外していられなくなった高野さんが、俺のシャツを裂いた音。
衝撃に耐えきれなかった釦がいくつも床を転がる。
あぁ、俺、これしか服ないのに。
なんてことしてくれるんだ。
なんてことを。
したんだろう、俺は。
どうしよう。
どうしよう。
高野さん、すごく怒ってる。
こわい。
こわくなって、
止まって欲しくて、
必死で高野さんの腕を掴んだ。
「邪魔だ」
高野さんはそんな俺の両手を掴んで、
あろうことか。
「何、して…」
自分のネクタイでぐるぐる巻きにしてしまった。
その手を、
俺の頭上に固定した。
身動きがとれなくなった事への本能的な恐怖から、体が震え出す。
そんな俺を高野さんは、
ただ、冷ややかに見下ろしていた。

[*←][→#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!