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授業
過去拍手文5
拍手お礼文・苗十(ほのぼの)

「…どう?」

目の前で、如何にも彼が嫌いそうな、ファーストフード店のバーガーを食べる恋人。もぐもぐと咀嚼するその時間すら、何だか居心地が悪い。

「……まぁ、たまになら許せなくもないレベルだな」

「そ、そう…?良かったぁ…」

意味もなく安堵して、いやいや、と自分で自分にツッコむ。
そもそも、来たいと言ったのは十神クンなんだから、ボクがそんなに不安になる事じゃない筈なんだけど…

「…おい、苗木」

「えっ、あ、ゴメン!聞いてなかった…!何?」

「それ」

「え?…あぁ、これ?ポテトも食べたいの?」

十神クンが指差した先は、ボクが注文したポテト。十神クンの反応が気になり過ぎて、殆ど手付かずだ。まだ冷めてはないと思うけど。
取りやすいように、ポテトを十神クンの方に向ける。…と、何故か彼は拗ねたように眉を顰めた。

「……へ?」

その上、頬杖をついたまま、再びポテトを指差した。軽く口を開けて。
………え。…え!?

これは、この様子は…つまり、ボクに「あーん」してほしいって事!?あの十神クンが、こんな公共の場で!?
十神クンは律儀に、口を開けたままこちらをじっと見つめている。早くしろ、と言わんばかりに見られて、あたふたしながらボクはポテトを摘んだ。

手が…震える。確かに普段からツンばかりで、たまには甘えてくれたっていいじゃないか、と文句の一つも言いたいものだけど…いきなりこれは、ハードルが高くない!?
不意打ちの恐ろしさに今更戸惑いながらも、十神クンの口にポテトを運ぶ。手が自由になった瞬間に、ぱっと手を戻した。震えがバレるのが恥ずかしくて、ボクもポテトを食べる。

「どど、どうか、な…?」

更に誤魔化そうとして口を開いたら、声がひっくり返って残念な結果になった。
…ボクって本当ダメだなぁ…自分からするのはいいのに、どうして十神クンからされたらこんなに恥ずかしいんだろ…

「…………」

なんて、恥じらっていたら目が覚めた。
…とりあえず、この絶望感は筆舌に尽くし難い。勿論、悪い意味で。

「…何してんだろ、ボク……」

ははは、と自嘲的な笑みが零れる。周りに聞こえない程度に。何故なら、今は授業の真っ最中だから。
授業中に居眠りして、あんな夢見るなんて…やめよう、もっと絶望してしまいそうだ。

いつの間にか文字で埋まっていた黒板と、真っ白なままのノートを見遣りながら、ボクは溜め息をついた。
よく考えるまでもなく、十神クンがあんな事する訳ないよな。というか、どうせならもっとイイ夢だったら良かったのに…



(なんて、欲張りな事考えてたけど、今はそんな事ないよ)
(充分すぎるぐらいだったから、あれで)
(…正夢って、あるんだなぁ…)





拍手お礼文・苗十(ほのぼの)

チャイムが鳴り、徐に騒がしくなる教室。そんな中、ボクが真っ直ぐ向かうのは。

「十神クン!」

「…苗木」

筆記用具をしまう十神クンに、声をかける。十神クンは驚いたようにこちらを見ていた。

「どうだった?小テスト」

「お前、誰にそんな言葉を吐いている?」

「あはは…まぁ十神クンには言うだけ無駄かな…」

ふん、と相変わらずの様子で、ゆっくり椅子にもたれる。
窓際のこの席からは、中庭がよく見える。今は、何故か他クラスの人に何かを言われている葉隠クンがバッチリ見えていた。

「……苗木」

「なに?」

「………いや、何でもない」

同じく中庭を見ていた十神クンが、ボクをちらりと盗み見る。でも、ボクが十神クンの方を見ると、ふいっと逸らされてしまった。
……何か、言いたい事でもあるのかな。

「え、何?気になるよ」

「お前には関係無い事だ」

「じゃあ何で呼んだの?」

「いいから忘れろ、愚民め」

「どうして?言ってくれたっていいじゃんか」

「…休憩時間早々、お前の顔を見てウンザリしてる、と言いたかったんだよ」

「ひ、酷い…」

毒舌で返されたまま、やっぱりツンとそっぽを向かれた。…そんなに見飽きる顔なのかな。一般的だし。

でも。わかっちゃうんだ、キミの嘘は。逸らされた視線は、今もボク以外を見ているけど。
そんなにあからさまにボクを避けられると、逆にそれがわかってしまうのだから皮肉なものだ。

背後に、いつもの騒がしいメンバーの声を聞きながら、十神クンの頭を撫でる。こうすると、彼はいつもこちらに振り向くのだ。勿論それは嬉しいからとか、くすぐったいからとかじゃなくて、プライドが許さないからなんだろうけど。

でも、振り向いてくれるんだから、それを利用しない手はない。十神クンと付き合い出して、ボクは少しずつこうした悪知恵を手に入れている。
今回も例外なく、十神クンは不機嫌そうに振り向いた。その瞬間を狙って、すぐ近くに大和田クンや不二咲クンがいるのも構わずに、ボクは軽く額に口付けを落とした。

「っ、…!?」

キスされた本人は、不機嫌そうだった表情を途端に驚愕の表情に変え、ぱっと両手で額を押さえた。口を半開きにしたまま、ボクを見据える。
方向的に、ばっちり見えてしまったであろう大和田クン達は、二人して「えっ!?」と叫んでいた。……あ、これはちょっと予想外。

「ちょっ、二人共そんなに驚かないで…皆が不審がるから…!」

「ま、待て苗木、先に俺に説明しろ!」

「あ、ゴメン…いや、単純に今の話が結局何だったのか、聞き出したかっただけなんだけど…」

「そうじゃない!」

十神クンが、いつになく大声で叫ぶ。辺りの騒ぎが、少し治まった気がした。
それに気付いているのかいないのか…十神クンは何故か悔しそうにボクを見つめる。そして、下唇を噛みながら、拗ねたような口調で言葉を続けた。

「…何故わかったんだ」

「……。…え?」

「俺は、キスしろなどと一言も言わなかった筈なのに…何故わかったんだ…!?」

「…な…何故って…えーと…ていうか、えっ!?」

今度はボクが驚いて、十神クンを見つめる。座っている十神クンは、自然と上目遣いでボクを見ていた。十神クンがさっき言いたかった事も理解して、頬がかぁっと熱くなる。

成る程、だから言いづらそうだったのか…なんて事を考える余裕は、ボクにはない。その原因は、今まさにボクの目の前にある。

気付けば教室は静まり返り、恥ずかしさで倒れそうだ。十神クンはきっとわかってないだろう。いっぱいいっぱいの顔、してるもの。
こんな事なら、額じゃなくて唇にすればよかった。今更こんな状況で、出来る訳ないじゃないか!!



(上目遣いに、悔しげな表情)
(それに何より、キスして欲しい、なんて思ってた事)
(どうしよう、理性って案外脆いの、かも)





拍手お礼文・石十(ほのぼの)

「寒いな」

唐突に聞こえた言葉に、俺は視線を落としていた本を一旦閉じた。
声はすぐ傍から発せられていた。俺の前で仁王立ちする、正に日本男児と呼べるような古風な男からだ。

「知っているかね十神くん、今日は最高気温が7度、最低気温が3度だそうだよ」

「だからどうした」

吐く息が白い。この男が着ている制服のように。
まだ朝早い今は、特に冷え込む。冷たい風は、遠慮という言葉もなしに、俺の体温を奪っていた。…此処まで冷えるとは、想像以上だ…

「そんな寒い日に、しかも特に冷え込むであろう早朝に…何故君はこんな所にいるんだ。それに、その服装もだ。もっと着込むべきではないのかね」

「…お前に言われたくない」

「僕はきちんとマフラーをしているぞ!」

「…偉そうに言う事か、馬鹿馬鹿しい」

簡単にあしらって、再び本を開く。若干手間取りながらも、視線を紙面へと落とした。
少し黄ばんだその紙に、不意に交じる薄い黒色。俺より身長の低い石丸が、読んでいた本を覗き込んでいる。

「…何だ、まだ何か用か」

「何の本を読んでいるのか、気になってね。君は本当に本ばかり読んでいるな」

「知識は己を裏切らない。…そういう事だ」

「ふむ。…だが、知識とは、自らが学びたいと思った時に、真に得られるのものだ。半端な気持ちで得た知識は、結局その場限りだよ」

「……言うじゃないか。石丸の癖に」

「褒めなくともいい、本当の事を述べたまでだからな!」

快活に笑うこの男を横目で見ながら、褒めてない、と呟く。どうせ聞こえた所で、聞く耳など持たないだろうし。
懲りずに覗き込む石丸を無視して、本の続きを読もうとした。…のだが。

「!」

腕を掴まれ、ずるずると校舎へと引っ張られる。制止の声も上げない内に、二人して校舎の中に入っていた。石丸が扉を閉めると、俺の体を冷やしていた冷風がぴたりと止んだ。

「…勝手な事をするな」

「十神くんは、寒空の下、大した防寒具も無しに読書をするのが趣味なのかね?」

「俺をそんな変人にするな。今日はたまたま、そういう気分だっただけだ」

「………そうか。それはすまない。僕はてっきり、」

石丸が俺に向き直ると、風の無い空間で奴のマフラーがふわりと揺れた。熱苦しさの消えない瞳が、まるで逃がさないと言わんばかりに俺を見つめる。

「僕が来るのを待っていてくれたのかと、思ったのだが」

思わず目を見開く。時が止まったかのように、体が強張る。…震えだけは、何とか捩じ伏せた。
まさか。この、鈍感で、空気が読めなくて、無駄にロマンチストぶった台詞を使う割に些細なサインに気付かないような、この男が。

「……お前の頭はまだ寝ているのか?この俺が、わざわざお前なんかを待つ為に、寒い中ずっと立っていたと…そう言いたいのか?」

「そうだ。…間違っている、だろうか?」

間違っているか、と問う癖に、その表情に戸惑いや不安は無い。そうだと確信しきっている表情だ。
どうして。何故。いつもいつも、俺の言いたい事には気付かないのに。表情にも仕種にも、そんな情報は与えていない筈なのに。

「ああ違うさ、お前の下らない推測に構ってる暇があるなら、さっきの場所でこいつを読み進めたいぐらいだ」

「…そうか」

「わかったか愚民。なら、俺は行く」

言い終わるより早く、石丸に背を向けた。ほんの少しだけ、目を伏せる。

あの場所にいる意味は、もう失くなってしまったのに。それを一番よくわかっている俺が、そこへ向かう扉を開けようとしている。…誰かが気付いたなら、即座に論破されそうだ。

「……ん、」

ふわり、と。上から布が目の前を落ちていった。それは下まで落ちずに、するすると上ってきて…俺の首に巻き付いた。
無意識のうちに、顔だけで後ろを窺う。視線に気付くと、俺が待っていた男が、ふっと笑った。

「そのままでは寒いぞ、十神くん」

「…こんな、物」

「手も冷たいじゃないか。さっき、本を開くのも苦労していただろう」

言われた瞬間、かじかんだ手をポケットに突っ込もうとして…失敗した。石丸の方が一手早かったのだ。
きゅっと握られると、温もりが伝わる。冷え切った手に、熱が移ってくる。

「こんなに冷たいのに、また行くと言うのかね?」

「…お前も外にいたのに、何故こんなに温かいんだ…」

「…?僕の手も、それなりに冷たいと思うのだが」

外はまだ、冷風が暴れている。巻き上げられる落ち葉が、外の冷たさを歌っていた。
正面には、寒々しい世界への扉。背後には、熱苦しい男の微笑。…全く、無茶苦茶な選択肢もあったものだ。

「…そこまで言うのなら…お前と一緒に、教室にいてやらん事もないぞ」



(そうか、それは良かった!君が風邪を引いては大変だ)
(…俺は十神白夜だぞ)
(十神くん、名前では風邪は防げないぞ!)



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