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授業
ざ・罰ゲーム日和! 後編(十神総受け/ギ)

十「……なんだ」

朝「い、いや…何て言うかさ…色々ぐちぐち言われるのかと思ってたから……」

十「お前の頭は運動かドーナツしか入らんように出来ているんだろうが。これぐらい予測していた。わかったらさっさと行け」

朝「う、うん」

一旦更衣室に分かれ、着替えていましたが…時々手が止まります。

朝「(十神…私と一緒に泳ぐのは、そんなに嫌じゃない、のかな…)」

普段あれだけ文句を言う彼だけに、こうもあっさりいくと、何だか変に意識してしまって…朝日奈さんは何度も頭を振るのでした。





朝「ふぅーっ、泳いだ泳いだーっ!」

十「全く、お前は本当に一つの事しか頭に入らんらしいな」

はん、と鼻を鳴らす十神君は、朝日奈さんとは違いプールの縁に腰掛けて、足だけを水につけていました。彼女のペースについていく事を早々に諦め、此処で寛いでいたのです。早めに上がった為に、大きめのタオルを羽織っています。

朝「えへへー、ほら、私って周りが見えなくなっちゃうタイプだからさー」

十「そんな事、今更言われなくとも知っている」

朝「んもー、そういう言い方しなくてもいいじゃん!十神の厭味人間!!」

ざばざばと水を掻き分け、朝日奈さんが十神君の隣に座りました。と、途端に始まる静寂。

朝「(…うわ…ば、バカバカ!何でこんな近くに座っちゃったの私!)」

近くに座った為に、妙に緊張してしまい何も喋れなくなってしまったようです。縮こまったまま俯く朝日奈さん。それをちらりと見遣った十神君が、いきなり溜息をつきました。

十「……はぁ……お前の馬鹿さ加減には、呆れを通り越して憐れだな…」

朝「…は…え?ぅわ、」

十神君が自然な動きで、ばさりとタオルを朝日奈さんにかけます。たった今まで、十神君が使っていた物です。

十「これに懲りたら、少しは計画というものを覚えるんだな。自分の体調ぐらい自分で管理しろ、愚民が」

そう言って立ち上がろうとした十神君。が、しかし…この場を離れるより先に、十神君の腕を朝日奈さんが掴みました。

朝「ま、待って十神!…もうちょっとだけ…お喋りしちゃ、ダメかな…?」

十「……罰ゲームの一環か?」

朝「……ぅ…うん」

淡泊な表情のまま、十神君が再び縁に腰掛けます。朝日奈さんは、タオルの裾をぎゅっと握って、小さく水を蹴り上げました。

十「で、何の話をするんだ」

朝「え…と…っていうか、お喋りってそんな決まったものじゃないし!」

十「……意味がわからん…」

朝「………あの時もさ、十神…今みたいにしてくれたよね」

十「…あの時…?」

十神君が怪訝な表情をすると、朝日奈さんは小さく笑いました。

朝「覚えてない、かな…あは、それなら別にいいんだけど…」

十「…?」

朝「(あの時も、こうして心配してくれたんだよね…)」

少し前、熱が出ているにも関わらず授業を受けた事が祟り、人気の無い場所で、一人うずくまっていた事があった朝日奈さん。その時彼女を見付けたのが、十神君だったのです。

朝「(あの時、本当に苦しかったから、助かったんだよね。…あの日からだなぁ、十神の見方が変わったの…)」

ただの高慢な奴だと思っていたのに、こんな事も出来たなんて。
朝日奈さんにとって、あの出来事はとても大きな出来事。十神君には想像もつかない程の。

十「何なんだ。いきなり黙り込んで…話す事が無いなら行くぞ」

朝「あっ、待ってってば!ある、あるから!」

十「………するなら場所を変えろ。それだから体調を崩すんだ、学ばん馬鹿め」

朝日奈さんの手を振り払い、ぶつぶつ言いながら更衣室に入る十神君。朝日奈さんは、それを一瞬ポカンと見つめ…遅れて小さく吹き出しました。

朝「ぷっ…あははっ…!何それ…何で普通に言えないかなぁ!」

まぁ、十神らしいか。そう一人頷くと、彼女も着替える為に更衣室へと向かいました。





次は腐川ちゃんだから、部屋に行ってあげて?
そう言われ、今彼が立つのは腐川さんの部屋の前。朝日奈さんと色々他愛ない話をして別れ、少し罰ゲームという存在を忘れかけていた十神君は、軽い気持ちのままチャイムを鳴らしました。

十「………?」

しかし、扉は全く動きません。もしや部屋にいないのか、と怪訝に思ったのも束の間。

十「…、っ!?」

突然扉が開いたかと思うと、中からにゅっと細い腕が伸びてきて、十神君の腕を掴み部屋の中へと引っ張り込みました。不意打ちで抵抗の隙も無く、簡単に部屋に飛び込む十神君。床に強かに体を打ち付け、思わず呻き声が零れました。

十「ぅ…ぐっ……」

ジ「あはん、待ってたわダーリンッ!」

十「なっ…お、お前は…!」

ジ「呼ぉ―――ばれて飛び出てっ!!ジェーノサーイダー♪」

十「誰が呼ぶか!!」

ジ「え?別にダーリンの許可とか要らなくね?今のは決め台詞ってやつよっ☆」

茶目っ気たっぷりでウインクすると、突然、床に倒れた十神君の上に覆いかぶさりました。

十「おい、何の真似だ」

ジ「何って…あぁんアタシの口から言わせないでっ恥ずかしいから!まぁ、白夜様の素敵な白い柔肌を、アタシがこの鋏で撫で回してみたいってだけ☆」

しっかり自分の口で説明するジェノサイダーは、恍惚とした表情のまま、十神君を見下ろします。嗜虐と陶酔の色を滲ませた瞳は、腐川さんでは有り得ないものでした。

ジ「あ、大丈夫!白夜様は殺したりなんかしねーから!白夜様とはキモチイイ事しかしたくないんですものぉ♪」

十「気色悪い事を言うな屑が。さっさとそこを退け」

ジ「えぇー、さっきあの縦ロールから聞いたけどさ、コレ罰ゲームっしょ?だったら命令するのはアタシじゃね?」

にやにや笑みを浮かべながら、シャツの上からすうっと指を滑らせる彼女に…十神君の表情が青ざめます。
あの腐川だ、俺が少し強く言いさえすれば、罰ゲームなど無いに等しいだろう…そう簡単に考えていたのですが、今や相手はあのジェノサイダー。この考えが通じる相手ではないのです。

十「くっ…お前はこれに関係無い筈!でしゃばるな…!」

ジ「根暗の権利はアタシの権利、アタシの権利はアタシの権利!!」

どこかで聞いた事のあるフレーズを言いながら、ジェノサイダーは愛おしげに十神君の腰を撫で回します。その動きに身の危険を感じた十神君が、ジェノサイダーを突き飛ばしました。

ジ「ふへっ!?」

彼女の細い体は簡単に吹っ飛び、今度はジェノサイダーが床に転がります。その隙に起き上がった十神君が、真っ直ぐ扉に飛び付きました。ノブを捻り、一目散に外へ逃げ出します。

ジ「やだっ、白夜様ったら照れちゃって☆待て待て待て待てーっ!」

それを逃すまいと、素早く起き上がったジェノサイダーが十神君を追いかけます。逃げられた事に不満どころか満足すらしている彼女は、すっかり御満悦。

十「冗談じゃないっ…こんな事、甘んじて受けてられるかっ…!」

ジ「ほらほらぁ、アタシが優しく抱きしめてあげるわ〜ん♪」

十「く、来るな変質者…!」

本気で焦りながら、必死で走る十神君。食堂を通り過ぎ、教室、保健室と次々に廊下を駆け抜け、階段を上がり体勢を崩しかけながらも走っていると…

十「んぐっ!?」

横から伸びてきた手が、不意に十神君の口を覆いました。そのまま横に引っ張られ、目の前で扉が閉まりました。突如訪れる、薄暗い視界。

?「しっ」

耳元で小さく囁かれ、思わず抵抗を止めました。息を殺していると、騒がしい足音が扉の向こうを過ぎていきました。それを聞き…自分が彼女から逃げられたのだと悟ります。

?「……もういいかな…」

十「…っは………、な、苗木?」

苗「うん。何か大変だったみたいだね」

薄暗い中、目の前で苦笑しているのは、最後の(罰ゲームによる)命令権限を持つ、苗木君。
改めて辺りを見回すと…どうやら此処は男子トイレのようです。電気がついていない為、夕方の今は薄暗い空間に支配されています。

十「お前…どうして此処に、」

苗「下の階にいたんだけど、何だか騒がしかったから。多分こっちに来るだろうなって思って、待ち伏せしたんだ」

上手かったでしょ?と柔らかく微笑む苗木君に、十神君は不機嫌そうな表情を浮かべました。

十「……見てたのか」

苗「まぁね」

十「…………」

ぎゅ、と自らの腕を掴む十神君。全力で逃げていた姿を見られたのがショックだったのでしょう、キツめの目が少し伏せられています。
その様子を無言で見つめていた苗木君が、静まり返ったこの場を切りました。

苗「そんな顔しないで。ね?」

十「……苗木」

苗「ほら、今の状況考えてよ。こんな人気の無い薄暗い場所に、二人きりだよ?」

無邪気な声で、悪戯っ子のような笑みを浮かべる苗木君に、十神君が狼狽えます。ふい、と視線を逸らした瞬間、唇に触れた柔らかい感触。反射的に後ろに下がると、タイル張りの壁に背をぶつけてしまい…眉をしかめました。

十「いっ………」

苗「あは、大丈夫?結構すごい音したけど」

十「あ…たりまえ、だ…」

苗「そんなに勢いよく逃げなくてもいいのに…人よりちょっと前向きなボクだけど、傷付く時は傷付くんだから」

十「…………お前が傷付こうが、俺の知った事では……」

苗「十神クン」

ぼそぼそと何か言いたげな十神君を遮り、苗木君が十神君の眼鏡をそっと外します。そのまま、空いた手で彼の目尻を優しく拭いました。

十「なえ、」

苗「悪いけど…そんな潤んだ目で言われても、信じられないよ」

十「どう見ればこの俺が泣いてるなどと…!」

苗「あれを見て?」

ぱっと指差された先に視線を走らせると…今にも泣き出しそうな表情で見つめ返してくる、十神君が映っていました。

苗「あの鏡を見ても、そう言える?」

十「……っ…」

苗「…大丈夫だよ。ボクは何処にも行かないから。十神クンを独りになんてしないよ?」

十「べ…つに、俺は…」

苗「じゃあ命令。ずっとボクの傍にいて?」

十「………そんな一生かかる命令、無しに決まっているだろう」

苗「あ、そうなの?」

残念、と小さく苦笑する苗木君をちらりと見遣り…ぱっと十神君が手を苗木君の頭の後ろに回します。わ、と声を上げるや否や、ちゅっ、と軽く落とされるキス。苗木君の大きめの瞳が、ぱちくりと瞬きを繰り返しました。

十「…俺の気が向いたら…叶えてやるよ」

苗「気が向いたら、なの?」

十「苗木…あまり調子に乗るなよ…!」

苗「そんな事ないよ!ただ、可愛い事言ってくれるなぁ、って。ボクは…」

そんなキミが好きだよ、と笑う苗木君に、十神君は壁に背を預け、顔を片手で覆います。薄紅色の頬を指の隙間から覗かせながら、小さく呟きました。

十「全く……質の悪い命令だな、苗木…」





朝「あ、十神、おっはよー!」

腐「びゃ、白夜様、おはようございます…!」

朝、教室に入った十神君に、二人が挨拶します。一瞥だけして席に着く十神君に、腐川さんが怖ず怖ずと近付きました。

腐「あ…あのぅ……」

十「何だ」

腐「き、昨日は罰ゲーム決行日でしたよね…?あ、あたしの、ば、罰ゲームは……」

十「ジェノサイダーの命令を聞いた。それで充分だろう」

腐「え…あ、あいつぅ…!?そ、そんな、あいつなんかの命令なんて…」

十「そもそもお前は俺に命令できるのか?この俺にだぞ?」

腐「い、いえっ…あたしなんかが命令だなんて…!白夜様はあたしに命令する側のお方ですから…!」

十「お前に限らんがな」

ジェノサイダーとのやり取りをしれっと曖昧にしたまま、十神君は罰ゲームをやり遂げました。それを見ていたセレスさんが、小さくぼやきます。隣では苗木君がプリントを纏めていました。

セ「まぁ、全部やり遂げたのですね。……つまらないですわ」

十「セレス…お前は絶対に許さん!待っていろ、必ずこの手で地獄に送ってやる…!」

セ「負けた方が悪いのですわ。それに、気付きまして?わたくしのお話が一番長いのです。朝日奈さんの倍程ありますわ」

朝「何で私なのよー!」

苗「ていうか、そういう話はしちゃダメ!作者事情だからそっとしといてあげて!」

焦りながら苗木君がセレスさんを止めます。セレスさんは悪びれる事なく微笑みました。

セ「管理のなってない向こうが悪いのですわ。…とりあえず、今回の罰ゲームはこれくらいにしておきましょう」

苗「セレスさんが仕切ったみたいになっちゃった…」

十「二度とするな田舎者が」

セ「そんな怖い顔で睨まないで下さる?わたくしか弱い女性ですのよ」

腐「あ、あんた、贅沢言ってんじゃないわよ、あたしも白夜様に見つめられたい…!」

苗「とりあえず、セレスさんはその氷の微笑みを止めよう?あと、見つめるじゃなくて睨むだよ腐川さん」

朝「うわぁ、苗木もうプロじゃん、プロ!」

今日も苗木君のツッコミは絶好調。皆も楽しそうに談笑しています。
こうして、波乱を呼んだ罰ゲーム決行日は、静かに幕を降ろしました。
十神君は、二度とこんな目には合うまいと意気込みながら、何とか無事に終わった事に、ホッと胸を撫で下ろしたそうな。





おしま………ん?はい、何ですって?
最後のやり取り、一人足りない……?





葉「じゃっじゃーん!これが例の物だべ!」

苗「こ、これはっ…!ど、どうしたの葉隠クン、こんな凄い写真!」

葉「ふっふっふ…皆もうちっと頭使わねーと!罰ゲームの時に撮った写真だべ!どうだ?イイ感じだろ?」

苗「何でこんな写真撮れたの!?上目遣いでこんなに辛そうな表情で…」

葉「軽くはだけた感じとか、汗や頬の染まり具合!このエロさ、カンペキだべ!?」

苗「買った!!(キリッ)」

葉「まいどありーっ!あ、あと、こっちはセレスっちの時の……」

………どうやら、彼の罰ゲームは、もう少し続きそうです…





ざ ・ 罰 ゲ ー ム 日 和 !

(これが、皆の愛の証だよ!)




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