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新しい卯月2




 軽いノックの音に顔を上げると、返事もしていないのにドアが開かれた。

「勉強見てやる」
「押し売りお断り」

 当然のように部屋に入ってきた将兄に顔をしかめるが、きれいにスルーされた。

「奈月、今年受験で忙しいんだろ?代わりに勉強見てやるよ」

 部屋の真ん中に座り込まれて、ほら教科書出せよと指図してくる。はぁとあからさまにため息を吐き、読んでいた本を閉じる。

「暇なの?」
「お前、人がせっかく親切で言ってやってるのに」
「小さな親切、大きなお世話」

 寝転がっていた体勢から起き上がる。ベッドからは降りずに胡座をかいた。

「そもそも、将兄に教えてもらっても意味ないと思うけど」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。将兄勉強できないじゃん」
「どうして、そういうことを言うんだっ」

 やれやれ仕方がない。

 大袈裟に首をふって、お手上げのポーズ。ピクリと将兄の頬がひきつって、笑いそうになったけどここは我慢。

 緩慢な動きで立ち上がり、机の横のバッグから教科書を取り出す。……まぁ、国語ならいいかな。

「将兄国語ぐらいなら教えられるよね?」
「ぐらいならって何だぐらいならって」
「ほら、今ここやってるんだけど」
「………」

 文句を言われたけれど無視して教科書を広げる。ほらここと指差して、全然別のことを思い出した。

「あー…、そうだ。将兄ゴールデンウィーク何か予定ある?」
「ん?」
「そうか。あるのか。残念残念」
「えっ?ちょっ、待て!ない!何もないって!」
「えー…」

 無理に通そうとしてるんだから察してよ。てか、必死すぎ。

「何?何か誘ってくれんの?」
「てか、美幸ちゃん覚えてる?夏休みに遊びに来てた」

 目を爛々と輝かせ身を乗り出してくる将兄に、若干テンション落としつつ答える。

「明良の又従妹だろ?小学生の」
「そう。その子。四日が誕生日だから、将兄に遊びに来てほしいんだって。別荘に。泊まりで」

 夏休みに遊びに来た美幸ちゃんは、なぜか将兄に滅茶苦茶なついていた。お嫁さんになるーとまで言い出して、おじさんを慌てさせていた。

「それ、もちろん明良も……」
「そうなるね」

 一人で行かせるわけにはいかないし。奈月は受験生だし。かなり気乗りはしないけど。

「行く!絶対行く!」
「あっそ」

 やっぱこうなるかと、溜め息を落とす。

 友達と遊園地行く予定だったのに。机の中にあるチケット、どうしよう。そこまで考えて、ふと妙案が浮かんだ。





「ごめーん。ゴールデンウィークダメになった」
「はぁ?」
「……何か用事できたのか?」

 翌日の昼休み、食事をしながら残念なお知らせを友人にする。

「親戚の誕生日会に行くことになった」
「日付ずらせばいいじゃん。指定ないんだし」

 キョトンと首をかしげる友人に、苦笑いで答える。

「泊まりだから」
「どんだけ豪華なんだよ!」
「少し遠いいからだよ」

 日帰りでも行けるけど疲れるだけ。何より、美幸ちゃんが将兄と長く一緒に居たいんだろうし。

「チケットどうすんだよ」
「あ、それは任せて。どうせもう一人探してるとこだったんだし」
「まぁ…そうだけど」
「心当りはあるから」

 用意していたのはペアチケット二枚。元々あと一人誰か誘う予定だった。まだ見つかってなかったけど、でもあと二人となるとちょうどいい人物がいる。

 不審そうに顔を見合わせる二人に、太鼓判を押しといた。

 のはいいんだけど、なかなか目当ての人物に近づけない。目当ての人物がなかなか一人にならないのだ。できることなら二人きりで話したかったのだけど、しかたがない。

「六郷ー、ちょっといいー?」
「んー?何ー?」
「こっちこっち」

 放課後、友人たちと話していた六郷を呼び寄せ、人気のない所に誘導する。不可解そうな顔をしながらもついてきてくれた。

「突然ですが、ゴールデンウィークて何か用事ある」
「………まだ特にないけど」
「こんな物があるのだけどどう?」

 スッと目の前の問題のチケットを出す。

「え?坂下と?」

 スッと、一歩後ろに下がられた。それは少し傷つく。

「違う違う。砂川さんと」
「莉子?」

 眉を寄せて首をかしげる彼女に、そうそうと頷く。

「恭孝と大樹と行く予定だったんだけどオレがダメになって。どう?」

 重ねて問えば、チケットを見つめる視線に力がこもった。

「……石崎と山里?」
「そう。その二人」

 凄まじい勢いで計算している音が聞こえる気がする。こっそりと笑みを浮かべた。

「のった!」
「任せた」

 話が早くて助かる。

 視線を上げた六郷はニヤリと笑っていて。それに返す自分の表情は、きっと共犯者のそれだろう。事実、共謀して企ててる。

「詳しいことは後で連絡するね」
「お願い。結果は報告するから」
「頼んだ」
「あの二人、本当見ててもどかしいのよねー」
「ねー」

 連絡先を交換して、六郷は先に教室に戻った。その後ろ姿を見送って、ほくそ笑む。

 実は、六郷も気づいてないもう一つの企てもある。まぁ、そっちはおまけみたいなものだし、たいして進展もないだろうけど。

 さて、どうなることか。

 ゴールデンウィークは憂鬱だけど、だから少しぐらい楽しみがあってもいいと思う。





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