もう目の前だ
スミの言葉は正しかった。
本当に、あっという間だった。もう、目前に迫っている。中間試験が。
「……スミ。今日、この後空いてる?」
「用事あるよー」
そんなっ。
今日の授業がすべて終わり、もう帰るだけとなった頃、意を決して訊ねたらあっさりと返された。
「……また何かあったのー?」
「またって何だよー」
「だって、ここんとこニシのまわりって賑やかじゃん。不良関係で」
その認識のされ方は何か嫌だ。嫌だけど、否定できない。
「もう試験じゃん。一緒に勉強したかったってか、教えてほしかったんだよ」
「ふーん。いーよ」
「いや、いーよって」
今用事あるって言ったばっかじゃん。
「いっくんと勉強する約束してるから、ニシも来ればー?」
「いっくん?」
誰だそれ。他校の奴だろうか。スミは顔広いからなぁ。
「いいの?いきなり行って迷惑じゃない?」
「うん。連絡しとくし」
「そ?じゃあお邪魔させてもらおうかな」
良かった。どこがわからないってか、どう勉強すればいいかわからなくて困ってたんだ。
聞けば、スミの知らない人もいるらしい。本当に邪魔じゃないだろうかと思いつつ、まぁ何とかなるだろうとついていった。そうして、
「ん?」
着いたのはなぜか見覚えのある場所。
「ニシ?入んないの?」
「え?」
ここは最近何度か出入りした場所だ。リュウさんのお店。スミは気楽にクローズの札が懸かってるドアを開けた。
「こんにちはー」
「こんにちは」
中にいたのはイチさんだった。
「え?スミ、いっくんってイチさんのこと?」
「ん?うん」
何を当たり前のことをみたいにキョトンとされたけど、ちょっと待て。いつの間にそんなに仲良くなったんだ。
「何でこうなった」
「何でって……ちょっとひっかかってるとこあるんだよねーって話したら、いっくん教えるの上手だってリュウさんが。だから、教えてーって頼んだら良いよーって。あの先生の教え方合わないから助かった」
ノリが軽い。らしいっちゃらしいけど。
スミが不思議そうに首をかしげる。
「何でそんなに動揺してんの?」
「いや、何か、いきなり過ぎて」
「ふぅん?いっくーん。その子がスズ君?」
「うん」
片側が壁、というか仕切りにひっついてる四人がけの席。そこに座るイチさんの隣には、スズ君がいた。テーブルの上にはすでに勉強道具が広げられている。
スミの言っていた知らない人とはスズ君のことか。そしてオレは二人と面識あるから大丈夫ということだったのか。
「スズ。この人がスミ」
「こんにちはー。今日はよろしくお願いします」
「うん。よろしくー」
「西田さんもこの間ぶりです」
「うん。よ、よろしく」
スズ君の前、席の奥につめて座る。
スミは早速教科書を出してイチさんに質問している。オレはスミと違って、どこがわからないのか自分で把握できてない。だからとりあえず問題を解いてみて、ひっかかったら訊こう。
スミとスズ君はイチさんに教えてもらって、オレはスミに教えてもらって、そうやってしばらくたったらドアの開く音がした。
「そしたら同学年じゃん。一緒のクラスになれるかもよ。やったね」
「よくない」
聞こえた声は万里先輩とツカサさんのもの。
え?何で?先輩たちもなのかとスミを見たら、スミも不思議そうにドアの方を見てた。どうやら違うようだ。
「お、イチじゃん。そっちも試験勉強?」
「うん」
「ん?あ、西田君もいんじゃん」
「こ、こんにちは」
ツカサさんに挨拶して、ちらりと万里先輩を見る。目があってしまって、慌てて問題集に視線を落とした。
この間、変なことを口走ってしまったせいで、顔をまともに見れない。引かれはしなかったみたいで良かったんだけど、妙に照れくさい。
「何か見ない顔がいる」
「あ、スミ、友人の黛です。スミ、この人はツカサさん」
「こんにちはー」
「どーも。せっかくだからオレらもまーぜーて」
言って、ツカサさんはイスを二つひっぱってきた。イチさんの方にツカサさん、スミの方に万里先輩が座る。
「……ニシ。席代わる?」
「えっ?なんっ、何で?」
思わず声が裏返った。
「……いいならいいけど」
必死に頷く。
な、何でスミはオレが万里先輩の隣にいきたがってると思ったんだ。というか、そんなことしたら緊張で、勉強どことじゃなくなりそうだ。間にスミがいても気になって仕方ないのに。
もう一度ちらりと見る。目があって、にっこりと笑いかけられた。
「ツカサさんたちも試験勉強ですか?」
「おう。ほら、さっさと教科書出せ。どれからだ?」
「わかってる。ちょっと待て」
訊ねるスズ君は、何だかとても楽しそうだ。万里先輩がツカサさんに促されて教科書を出している。
不良が真面目に試験勉強。
こういうことを思うのは失礼なんだろうけど、でも、絵面的にツカサさんが万里先輩に勉強教えてるのって不思議な感じだ。頭の良い高校の制服着てたから勉強できるのかなとは思ってたけど。
「……人って見かけによらない」
「ん?うん」
スミがこっくりと頷いた。
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