忘れた頃にやって来る
「うあ〜〜」
「そんな気にするなら謝ってくればー?」
「そうなんだけどさぁ…………どっちに?」
「そりゃ万里先輩でしょー。払ってないわけないって」
「だよなぁ」
大きくため息が出る。気が重い。
丸一日ゆっくり休んで気づいた。一眠りしてしまったのと、人が増えたのとですっかり忘れてたけど、オレ、お金払ってない。
無銭飲食!と慌てたけど、多分、きっと、万里先輩が払ってくれてしまっている。申し訳なさすぎてとても顔をあわせられないけれど、きちんとお詫びせねば。
「でも、あんなあからさまに逃げておきながら………っ!」
「じごーじとくー」
さらっと返された。
正論だ。正論過ぎる。なんにも言えない。
「先輩からはなにか連絡ないのー?」
「そもそも連絡先交換してないし」
「ふ〜ん」
休み明けに屋上にいったら、また会えるだろうか。せっかくの連休なのに、こんな状態じゃ全く楽しめない。
今うろついてる場所が一昨日万里先輩といた場所に近いから、偶然出くわしてしまわないか少し緊張している。会わなきゃとは思うものの、心の準備がしっかりできてからがいい。
「早めにどうにかした方がいいよー。連休終わったらすぐ中間だしー」
「すぐってほどすぐじゃないだろ」
「油断してたらあっという間だってー」
本当に、スミは冷静だ。他人事だからだろうか。
「急に話を聞いてほしいとか言って呼び出すから何事かと思えば。せっかく寝てたのにさー」
「悪かったって。でも昼まで待ったんだからな」
スミはすいすいと進んでいく。その後をついていく。何でか、スミは人を避けて歩くのが得意だ。
「………ところで、今ってどこ向かってんの?」
「WINGsの溜まり場」
「えっ?」
「話したいんでしょー?いつもいるもんなのかは知らないけどー」
「ちょっ、まっ」
スミは躊躇なく背中を押してくれる。それはとても助かるし、確かにそれ目当てで話を聞いてもらったわけだけれど。
「一人で行くのが怖いから、呼び出したんでしょ?」
「違う!」
「違うの?」
勢いよく何度も頷く。
一旦足を止め、通行の邪魔にならないよう端による。
「前の時はついてきてほしいって話だったじゃん」
「お、屋上と溜まり場とじゃ全然違うだろ」
「そんなもん?」
思い切りが、思い切りがよすぎる。
即断即決即行動。清々しいまでの迷いのなさは尊敬するけども。
「休み明けまでに心の準備をしておきたかったわけで。てか、何で溜まり場の場所なんて知ってんの?」
「危ないからあんまそっちに近づかないようにねーって、先輩とかが。だから具体的な場所まではわかんないけど、近く行けば何とかなるかなって。てか、そのお店の人に聞いた方が早いか」
「そりゃ知ってそうだけど………っ」
ガツンッと側頭部に衝撃を感じた。一瞬、頭が真っ白になる。スミが、目を見開いている。遅れてやってきた痛み。こめかみに触れると、指先にトロリと血がついた。
「………え?」
何が起きたのか、理解が追い付かない。
少し離れた地面に、空き缶が転がっている。あれが、ぶつかった?え?何で?
「………っ!」
飛んできたであろう方を見て、息が止まる。
並木先輩が、いた。
目があうと、ニヤーっと笑みを浮かべた。でも、笑ってない。目が、めちゃくちゃ怖い。
「お前さぁ、黒猫行ったんだって?」
殴られる。瞬間的にそう思った。それも一発では済まない。きっといたぶられる。足がすくむ。恐怖で、身体が震える。
スミが、一歩前に出た。とっさにその腕を掴む。
ヤバい。スミがキレてる。並木先輩はわざとらしくゆっくり近づいてきていて。スミは、オレの手を振りほどいて並木先輩に向かっていこうとしていて。
「スミっ!」
振り返ったスミが何か言う前に、腕を強く引いて走り始める。
「ニシっ」
非難するような声に、首を振る。少しして、腕にかかっていた負荷が消えた。スミが並んで走ってる。手を離す。
「………あいつ、全力で追いかけてきてない。楽しんでる」
「………っ」
スミの言葉に、チラリと振り返る。
追いかけて、追いつめて、そうしていたぶるつもりなんだ。何で、いきなり。スミだけなら逃げ切れるだろうけど、きっとスミは納得してくれない。どうしよう。
それに、今逃げ切れたところで、学校が始まったら捕まってしまうんじゃないか。それまでに怒りが収まってる保証なんてない。
ダメだ。考えるな。今は逃げ切ることだけを考えないと。息が苦しい。早くしないと、体力が持たない。
ーーーあいつ関連で何かあったら………
万里先輩の言葉が、脳裏をよぎった。
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