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どうぞよろしく




 先に動きを見せたのはその人だった。何か言おうと口を開き、けれどその寸前に大きな音が響く。

「っ!?」

 ビックリして音のした方を見れば、ドアが大きく開かれていた。雷が落ちる。その光に人影が浮かび上がった。

 光は一瞬で、すぐにまた薄暗くなる。大雨を背に立っていたのは、赤メッシュ様だった。

 何という、登場のしかたを。

 こっちを見た赤メッシュ様は、あっと目を見開く。その後ろからは金髪さんが。金髪さんはびしょ濡れなのに、赤メッシュ様は全く濡れた形跡がない。この雨の中、一緒にやって来ときながら、この差とは。

「イチじゃん。来てたんだ」
「リュウさん、タオル!タオル貸して!」
「ほいよ。後でちゃんと床拭いとけな」
「うぃー」
「イチも雨宿り?」
「……そんなところ」
「ちょっと着替えてくる!」
「おーう。あ、風呂すぐ溜まるからな」
「マジで?ありがとう!」
「それ、スズの?」
「うん。借りた」

 一気に賑やかになった。

 バタバタとカウンターまでやって来た金髪さんは、リュウさんからタオルを受け取る。そして、ガシガシ頭を拭きながらカウンター横のドアから出て行った。赤メッシュ様は、今の今までオレと見つめ合ってた美人さんに親しげに話しかけている。

 やっぱり、この人もWINGsの関係者なのかな。何か、赤メッシュ様と仲良さそうだし。

 こないだの一件で、金髪さんと特に赤メッシュ様には少しばかりの恐怖心を抱いている。だからオレがここにいると気付かれないように、必死に気配を……

「歩も雨宿り?」

 ……消せませんでした。はい。

 わかってた。わかってはいたさ。こんなに近くにいるんだから、気付かれないわけないって。

 赤メッシュ様は、美人さんの肩に手を置いたまま、ニヤーと笑みを浮かべる。

「な、わけないか。……何?バンとデートでもしてた?」
「っ!?」
「ははっ、当たりか」

 さっと、実にスマートに赤メッシュ様は座った。そうして、カウンターに肩肘ついて、ついた手に頬を乗せて、美人さん越しにこちらを見る。

「んで、今一人って事は、バンが呼び出されて戻ってくるのを待ってるのか」
「なんっ」
「……サエさん、会ったことあったんだ」
「ん?あぁ、うん。この前ちょっとね」

 ちょっとって、あんな無理矢理人を連れ去っときながら。

 一呼吸おいたら落ち着いた。何でわかったかなんて、オレとここの接点なんて万里先輩ぐらいなんだから当たり前だ。

「そういや自己紹介してなかったね。オレはサエ。で、こっちはイチ」
「あ、オレは西田歩です。よろしくお願いします」
「ふぅ〜ん?」

 オレもしてなかったと、居住まいを正してぺこりとお辞儀する。したら、何か変な声が聞こえた。みると、赤メッシュ様がニヤーと笑ってる。

 な、何だ?何か変なこと言ったか?ごくごく普通の自己紹介のはずだけど。

「‘よろしく’していいんだ?」
「あ」

 しまった。とは流石に口にしないけれど。今後も交流を望む挨拶になってしまっているじゃないか。怖いから、あまり関わりたくないと思ってたのに。

「お願いされちゃ、仕方ない。‘よろしく’するか」
「う」
「サエー。あんまいじめんなよ」
「えー。いじめてないって。ちゃんと挨拶してただけ」
「そうかぁ?」

 確かに、挨拶をしていただけではあるけれど。

「で?二人は何を話してたの?」

 何を?

「まだ、何も」
「何も?」
「ちょうど、オレが座ったばかりだったから」
「そうなんだ?」

 赤メッシュ様に問われて、こくこくと頷く。美人さん、イチさんの言うとおり、まだ何も話してはいない。

「えっと、お二人はお知り合いなんですね」
「ん?うん。そう。イチはオレの子分。ね?」
「うん」

 とりあえず、当たり障りのなさそうな話題をと思い、見ればわかることを聞いてみた。何を分かり切ったことをと、冷たい反応されなくて良かった。

 それにしても、子分。

 この前、子分という言葉はと言っていたけれど、実際赤メッシュ様に子分がいるからか。

「子分ってことは、えっと、イチさんもWINGsの………?」
「ははっ、違う違う。イチはオレの子分ってだけでWINGsじゃないって」
「時々、お邪魔はさせてもらってるけど、メンバーではないよ」
「そう、なんですか?」

 メンバーではない。けれど出入りはしてるのか。

「WINGsの奴らにしちゃ、イチはレアだからな。こっちにだって、来たのは久しぶりだし。会えるのは貴重だぞ。よかったな。歩くん」
「リュウさんそんな。人を珍獣みたいに」
「ははっ」

 イチさんが困ったように言うと、リュウさんは軽く笑った。

「イベント事は手伝ってもらってるからね。その時に来れば、まぁ、ほぼ確実にイチ見れる」
「見れるって」
「イベント?」
「そ」

 赤メッシュ様が楽しそうに笑う。

「最近じゃ花見とか。準備手伝ってもらってんだよ。歩も今度来る?」
「えっ?」
「次やるとしたら………七夕か。結構先だな」
「いやいやいや。オレはWINGsのメンバーじゃないので」
「オレも違うよ」
「う」

 それは、そうかもしれないけれど。

 イチさんは赤メッシュ様と親しいみたいだし。子分とか言ってたし。対してオレは、万里先輩の子分ではないし。友達にとは言われたけれど、まだ知り合って日が浅いし。

 何より、どう考えても知らない人ばかりの、それも怖そうな人ばかりであろう場所なんてとてもとても。

「そ、それより!イベントって他には?他にはどんなことをやってるんですか?」
「お。気になる?」

 赤メッシュ様の質問に、何度も頷いてみせる。

「つっても、歩が気になるのはイベントそのものよりも、バンの様子か」
「なっ」
「リュウさん、どう思う?バン、脈ありそう?」
「どうだろうなぁ」

 脈って何ですか!?







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あきゅろす。
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