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お礼を言いに




 何でこんな状況に陥っているのでしょう。

 誰か説明プリーズ。

 今オレは学校の裏庭で友人と万里先輩と、さらに並木先輩と一緒に何故か昼食をとっています。





「ニシー。何か昨日大変だったんだってねー」
「スミッ」

 朝、教室に入るとのんびりとした声に迎えられた。昨日は休んでいた友人。黛久。通称、スミ。オレの癒し。

 因みに休んだ理由は眠かったから。

 オレはお前のそんなところが好きだ。

 昨夜、相談しようと思ったけどうまく説明できる自信がなくて、直接会ってから話そうと決めていた。

 斯々然々。云々。

 呼び出されて起きたこと。保健室での事は多少ぼかして泣きつくように話した。

「……お疲れさまー?」

 うん。全く深刻そうではなく労れた。予想通りの反応に、話の内容はともかく、日常だなぁと安心する。

「それでー?」
「あ…うん。その…」

 小首をかしげ見上げてくるスミに、思わず言い淀んでしまった。

「ば……万里先輩に、お礼を言いたくて…」
「あー、助けてもらったんだもんね」

 やっぱり、助けてもらったんだよな。それも二度も。

 何で助けてくれたのかも、どうしてオレの名を知ってたのかもわからないけれど、万里先輩は二度もオレを助けてくれた。

 けど、まだ一度もちゃんとお礼を言っていない。家に帰って落ち着いてからその事に気がついた。

 メチャクチャ失礼じゃん。

「ならいってくれば?」

 そんなあっさりと。

「ひ…一人で会いに行くのは怖くて」
「あー、ついてって欲しいの?いーよ」

 お前、そんなあっさりと。

 いや、良いんだけどね。助かるから。これで肩の荷が降りるとホッと息をついて、ふとあることに気付いた。

「あれ?でも万里先輩って、学校来てるのかな?」

 ほら、あの人不良だし。学校なんて滅多に来ないんじゃ。昨日は偶々来てたとしても、来てるかわかんないんじゃいつお礼を言いにいけばいいんだ?

「あ、何か今年はちゃんと来てるらしーよ」
「そうなの?てか、何で知ってんの?」
「なんかねー、先輩とかが、だから気を付けなねーって、頭撫でたりお菓子くれたりするから」

 すっかりマスコットキャラだな。

「……そっか。じゃあ放課後よろしくな。クラスもわかるか?」
「ん?クラスは知ってるけど、教室にはいないと思うよー?」
「ん?」
「学校には来てるけど、授業には出てないみたいー」
「……何で?」
「さぁ?」

 とりあえず、学校には来てるらしいので探してみることにした。

 定番と言えば屋上なので、スミと二人で階段を上っている。

「でもさー、二回とも並木先輩に迫られてるときに現れたんでしょ?ならまた同じ目に会えば出てくるかもねー」
「……迫られって…」
「迫られてたんでしょー」
「いや、アレはどっちかってっと絡まれた感じだぞ」
「ふぅん?」

 大体、できれば並木先輩にはもう二度と会いたくはない。

「並木先輩、賑やからしいから見つけやすいかなーって思ったんだけどー……あ、てか、いた」
「え?」

 前を歩いていたスミがピタリと足を止めた。ちょうど階段の天辺。後ろから覗き込むと、踊り場の端に何かしゃがみこんでいた。

 携帯をいじっていたその人物が顔を上げ、目が合う。
「げ」
「お、歩君じゃーん」

 ニンマリと笑った並木先輩が立ち上がり近づいてくる。思わず、げって言っちゃったよ。本心だけど。

「何ー?わざわざ会いに来てくれ……ぐっ」

 バタンと突如開いた屋上の扉が並木先輩の姿を消す。音からすると恐らく激突した。

「……西田君?」

 ドアノブを握った万里先輩が、驚いたようにわずかに目を見開く。それからおいでと手招きされた。

 一瞬、スミと目を合わせて、駆け足でドアをくぐる。背後でガチャリと鍵がしめられた途端、バシンと叩く音が響く。

 バシバシとドアを叩きながら喚く並木先輩。万里先輩はうっとうしそうに見やってから離れたフェンスに寄りかかった。

「あ…あの、万里先輩、こんにちは」
「はい。こんにちは」

 慌てて駆け寄り挨拶をすると、穏やかな笑みで返してくれた。何か…今日は怖くなくて、むしろ雰囲気が優しくてカッコイイ。

 流石、昨年度抱かれたい男No.1。(当校新聞部調べ)

「西田君、危ないからアレに近づいちゃダメだよ」
「あ…はい。すみません」

 あれって、並木先輩の事だよな。いいのかな。そんな扱いで。まぁいいか。

「それで?今日はどうしたの?お友だちと一緒に。珍しいよね。こんな所に来るなんて」
「あ、こいつは友達の黛です」
「こんにちは」
 万里先輩をガン見していたスミを紹介する。その不躾さにヒヤリとしたが、万里先輩は気にすることなく挨拶してくれた。何気に良い人だ。 スミもペコリと頭を下げる。こいつに怖いものなどあるのだろうか。

「えと、それでですね。今日は、実は万里先輩を探してまして……」
「オレを?」
「はい。どうしても会いたくて」
「………………」

 あれ?なんか今、言い回しがおかしくなかったか?

「あ、あのお礼を言いたくて!昨日は本当にありがとうございました!」

 昨日はってか、今さっきも若干助けられたけど。

「………あぁ…そういうことか…そうだよな」

 深く下げた頭の上から、納得したような残念そうな呟きが聞こえた。

「………?」
「何でもないよ」

 首をかしげると、苦笑されてしまった。どうしたのだろう。やっぱ、なんかおかしかったかな。

「……あの、本当にありがとうございます」
「ん。どういたしまして」
「………………」

 あ、どうしよう。用件は終わってしまった。てか、お礼に来たんだから何か貢ぎ物持ってくれば良かった。

「……二人とも、これから何か用事ある?」
「あ、いえ。特に何も」
「そう。なら、ここで少し休んできなよ。あいつ、まだあそこにいるみたいだし」

 チラリと、ドアの方を見るとまだ騒いでるのがわかった。確かに、あそこを通るのは遠慮したい。

「……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
「ん」

 つか、スミはすでにすっかり寛いででるし。フェンスにかぶり付いて外を見てるし。

「スミ、何か見えるか?」
「んー?何かてか、オレらの教室が見えるよー。ニシの席もバッチリ」
「おぉ…本当だ」

 校舎はコの字をしている。この位置からだとちょうど教室が見える。しかも、オレの席は窓際なんだよな。授業中、よく中庭を眺めている。

「何か変な感じだなー」
「ねー」

 初めて入った屋上からの景色が物珍しくて、のんびりまったり眺めていると視線を感じた。

 う。

 万里先輩がメチャクチャ微笑ましそうにこっちを見ている。何かつい、視線をそらしてしまったよ。

「西田君」
「は、はいっ!」

 思わずしてしまった過剰な反応に隣からは少し驚いた気配がしたし、声をかけてきた方からはクスリと笑うのが聞こえた。

 うぅ、恥ずかしい…

「ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいかな?」
「え?……オレにですか?」
「そう」
「オレにできることなら」

 内心首をかしげながらも、是非お礼がしたいしと意気込んで答える。

「西田君の時間、少しくれる?」
「時間…ですか?」
「そう。明日お昼一緒にどう?」
「え?え?」

 突然の言葉の意味が理解できず焦ると、万里先輩はクスクスと笑った。

「ほら、オレこんなんだから一緒に食べる奴いなくて。一人で食べるのもさすがに寂しいから」

 ダメ?と首をかしげる。うぅ。どうしよう。

 助けを求めるようにスミを見ると、友達と一緒で良いよと言われてしまった。

「オレはどっちでも良いよー」
「えっと、じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 スミに後押しされる形で返事をすると、万里先輩はにっこりと笑った。何か、恥ずかしい。

「万里先輩、質問良いですかー?」
「ん?何かな?」
「万里先輩はいつもここにいるんですかー?」
「……まぁ…大抵は」
「何しに学校来てるんですかー?」
「………」

 何を訊いているんだ。何を。

 けれど万里先輩の返事はなく、不審に思い様子を見るとバッチリ目が合った。すぐにそらされる。

 え?何?

 訳がわからなくてスミの方を向くと、スミもじっとこちらを見ていた。

 何なんだ?

「……一応学生だから」

 え?でも授業出てないんじゃ?

「……そーですね」

 え?それで納得するのか?随分とものわかりが良いな。

「……万里先輩」
「ん?」
「本当にオレも一緒で良いんですかー?」
「もちろんだよ」

 何か、一人だけ取り残された感じのまま話は決まった。あくまでも、三人で昼飯と言う話だったのだ。





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