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神無月の賑わい




「大樹、そろそろ当番じゃない?」
「あー……本当だ。ちょっと行ってくるな」
「いってらっしゃい」
「しっかりなー」
「わーかってるって」

 大樹を見送り、さて次はどこへ行こうかと恭孝と相談する。

 場所は学校。文化祭の真っ最中。大樹と恭孝との三人であちらこちらまわっていた。とはいえ、大樹がクラスの当番で行ってしまったのでしばらくは恭孝と二人きりだ。

「とりあえずさ、今の内にお化け屋敷行っときたいんだけど」
「あーあいつ軽くトラウマになってるからな」

 五月の遊園地での一件で、大樹はお化け屋敷に対して恐怖心を植え付けられたようだ。文化祭のお化け屋敷などたかがしれているが、それでも嫌がるのはわかりきっていた。

「どっち?一年の?三年の?」
「どっち。……砂川さんどっちの方が怖そうとか言ってた?」
「いや、聞いてないから。つか、あいつ別にお化け屋敷ソムリエとかじゃないから」
「そっか」

 まぁ、そうだよな。

「時間があったら両方まわるとして……さっき近く通った時、どっちも並んでたよね」
「だな。三年は洋風で、一年は和風みたいだから……あれ?」
「ん?」
「あの、こっちじっと見てる人ってあの人じゃないか?えっと、将さんだっけ?」
「え?……あー……本当だ」

 視線の先をたどれば、確かに将兄がいた。目があったら嬉しそうに手を振ってきた。将兄と一緒にいる友人もそれに気づいてこっちに手を振ってくる。仕方ないので会釈しといた。

「よく覚えてたね」

 一回ぐらいしか会ってなかったように思うけど。

「まぁ、インパクトあったからな」

 将兄の友人、何度か顔を合わせたことがある、が将兄を引きずるようにして近寄ってきた。連れてこなくていいのに。

「よう、弟。久しぶり。覚えてっか?」
「はい。お久しぶりです」
「明良のクラスはカフェだろ?何時から当番?」
「え?何でそんなこと教えなきゃなんないの?」
「なんっ」
「そんなことよりさ、二人とも恐怖の館は行った?3Aの」

 満面の笑みを浮かべた将兄の友人が、将兄の言葉を遮って訊ねてきた。あまりのタイミングの良さに、思わず恭孝と顔を見合わせる。

「まだです。ちょうど今、どうしようか話してたとこで」
「良かったんですか?」
「それなり?まだなら是非行って行って」

 やけに推すなと思ったら、将兄が補足してくれた。

「こいつの彼女が3Aにいんだよ」
「あー……」

 妙に納得してしまった。

 よせやい照れるだろと将兄のことをバシバシ叩いているが、ひどく嬉しそうだ。うん。

「……じゃあ、行ってみようか」
「だな」

 あまり長く立ち話をしていたくないし、キリがいいからと別れを告げ階段に向かう。三年の教室は一つ上だ。

 将兄はまだ何か言いたそうにしていたけれど、気にせず足を進めた。

「さっきの人もここの卒業生?」
「うん。小学校が一緒だったからオレも面識あって。高校で再会したって言ってた」

 それにしても、彼女か。

 少し前を歩く恭孝を、何となしに眺める。

「……そういやさぁ」
「んー?」
「この前、砂川さん告白されたんだって?」
「…………らしいな」

 恭孝は、まっすぐ前を向いているから、表情はわからない。けれどわずかに身構えたのがわかる。

「聞いてないの?」
「何でだよ」
「何となく」
「ふーん」

 やっぱりというか何というか。この話題にはふれられたくないようだ。まどろっこしいな。

「……とっととくっつけばいいのに」
「ん?」
「やっぱりまだ結構並んでるね」
「だな」

 たどり着いた教室は、さっき通りかかった時より列が長くなっていた。まぁ、いいやと最後尾につく。

「大樹が戻ってきたら何か食うか」
「だね。その頃にはおなかへってそうだし」

 壁により掛かり、ゆったりとあたりを眺める。

「……何か、すごいよねぇ」
「突然どうした」
「いや、この熱気というかエネルギーというか。たった二日間のために何日もかけて準備したのに、終わったら何も残らないんだよ。それを思うと、この二日間にどれほどの情熱が注がれてるのかと」
「……だから何でまたそういうじじくさいいこと」

 呆れたように言われてしまった。でもそう思ってしまったのだから仕方がない。笑って流しとく。

「そういやさっきの」
「ん?」
「当番の時間、教えとかなくて良かったのか?」
「ああ。うん。来てほしくないし。まぁオレ裏方だから、来られたところで会う心配ないけど」
「売上的には来てもらいたいけどな」
「んーでもなぁ……なんかヤダ」

 疑問の色を浮かべる恭孝に、どう説明したものか少し悩む。

「恭孝、兄弟はいなかったよね?」
「ああ」
「じゃあさ、親とかがさ、様子見に来たとして、自分が当番の時に来てほしい?」
「あー……それは」
「将兄はさ、血はつながってないけど、ほとんど身内みたいなもんだし、多分そんな感じが近いと思う」
「……それは、うん。わかるな」

 恭孝の瞳が一瞬、暗く陰る。

 そっと視線をはずし、気づかれぬよう苦笑した。





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あきゅろす。
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