[携帯モード] [URL送信]

衝撃の文月2




 心の平穏のために、全ては未紗姉の勘違いだったと無理矢理決めた。けれど皆、精神的ダメージが大きかったので小休止をとることに。

 日差しは燦々と降り注いでおり、ジリジリと暑いぐらいのはずなのに、オレらの周りの空気は妙に暗く冷ややかだった。

「……何か。何か明るい話題はないのかよ、未紗」
「えー……」

 ぐったりとした将兄が、未紗姉に責任をとれとばかりの言葉を投げかける。テーブルに両肘をつき、組んだ手に額を押しつけてた未紗姉が顔を上げた。虚ろなままの視線を彷徨わせる。

「あー……明るい話題、かはわからいけど……今日、ついでだし皆に報告しようと思ってたことは、ある」
「お。何だよ。仕事でも決まったか?」
「あー……似たようなもん、かな?」

 仕事が決まったなら喜ばしいことである。なのに何故、言いにくそうにしているのだろうかと首を傾げて未紗姉を見る。未紗姉は、ちょっと苦笑ぎみに言葉を続けた。

「えーっと……永久就職先が決まりました」

 …………永久就職先?

「今は必ずしも永久と言えないけど、でも、まぁ、そんな感じです」

 離れたところで、ジェットコースターの歓声が響いた。スピーカーからは陽気な音楽が流れている。あちこちで、楽しげな会話で賑わっている。

 最初に我に返ったのは奈月だった。両手をつき、勢いよく立ち上がる。

「え?ちょっと待って。それってつまり未紗姉結婚するってこと?ウソッ!スゴイッ!おめでとう!」
「ありがと」
「は?え?恋人なんかいたのか?」
「まぁ、一応」

 とりあえず落ち着いてと、未紗姉が奈月を座らせる。けれど勢い収まらない奈月は、イスごと未紗姉に詰め寄った。

「結婚式いつ?相手どんな人?どうやって知り合ったの?てかいつから付き合ってたのさ!」
「どうどう」
「そうだよな。そうだったよな。おまえが一番秘密多いんだよな」
「いや、別に秘密にしてた訳じゃ。てか一番って何さ」
「オレ、何か飲み物買ってくる」
「あっくん?」

 言って立ち上がると、視線が集まった。笑顔で皆を見渡す。

「ちょっと、じっくり話を聞いた方が良さそうだから」
「いや、ほら、ここ遊園地。話よりアトラクションを……」
「あ、じゃあちょうどいい頃合いだし、お昼にしちゃう?さっきの売店でバーガー売ってたし」
「ならまとめて買ってくるから、ちょっと待ってて」

 返事を待たず、先ほど通り過ぎた売店へと向かう。

「いや、だから……」
「諦めろ」
「あー……だから帰り際に言い逃げようと思ってたのに」
「……お前」

 将兄の呆れた声を背後に、軽く駆ける。今回は将兄に同感だ。こんなことを言い逃げしようとしていただなんて。

 売店はさほど混んでいなくて、二組ほどが並んでいるだけ。後ろにつき、そっと息を吐いた。何となく、前の人の踵を眺める。

「明良っ」

 かけられた声に、ゆっくりと顔を上げる。

「何?将兄」
「何じゃねぇよ。何頼む聞かずに行っちまったろ。だいたい、一人で持ちきれるわけねぇし」
「あ」

 急ぐ余りに失念していた。

 呆れた顔をされるのは仕方ないとわかっているが、それでもやっぱり将兄にされるのは面白くない。とはいえ言い返せる言葉などないわけで。とりあえず、誤魔化すように笑ってみた。

「ったく。……それに」

 まだ何かあるのだろうか。将兄がじっと見つめてくる。

「あー……少し、心配で」
「そんな心配しなくても。ちゃんと財布持ってきてるし、今日はいつもより多めに入れてあるから平気。それにちゃんと後で徴収するし」
「いや、そっちじゃなくて」
「あ、ほら前つめて。何食べるって?」

 強引に話を打ち切る。何のことを言っているのか、薄々わかった。

 ショックを受けてるのではと心配したのだろう。未紗姉の結婚に。程度はともかく、未紗姉に好意を持ってるのを特に隠してはいない。

 ショックなんか、受けてない。未紗姉には幸せになってもらいたい。そりゃ確かに、オレが幸せにしてあげたいと思ってた時期もある。けど、オレはずっと年下で、支えられるようになるにはまだまだ時間がかかる。だから、誰か良い人がと望んでいた。

 できればお金持ちで人が良くて未紗姉を第一に考えてくれる人。高望みかもしれないけど、そんな人が現れたって罰は当たらない。相手がどんな人かまだ聞いてないからわからない。でも、未紗姉のことだから一時的な感情や勢いでなく、吟味した結果のはず。だから問題ないはずだし、望んだことなのだからショックなわけない。大丈夫。でも、まぁ、

「……ありがと」
「ん?」
「皆に奢ってくれるなんて、将兄太っ腹っ」
「は?いや、言ってねぇだろ」
「はははっ」

 ほら。こうして笑っていられるのだから、大丈夫。それが誰のおかげかだなんて、癪だから考えないけれど。










 因みに、昼飯買って戻ったら、未紗姉にも心配そうな申しわけなさそうな表情を向けられてしまった。こっちは多分二重の意味で。苦笑で返せば意を汲んでくれたし、わざわざ口に出すなんて野暮なまねもなかったけれど。





[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!