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遅れて登場するものです




「なー、このメアド誰んだかわかる?」

 そう言って金髪さんが送信済みの画面を見せてくる。オレのケータイの。もう一度言う。オレのケータイの送信済みの画面。

 何で勝手に他人のケータイからメールを送っているんだ。しかも登録してないアドレスに。つまりは知らない人に。

 首を横にブンブンと振る。

「な、何やってんですかっ?」
「何だと思う?」

 見せられた内容は以下の通り。

―――――――

sub:超重要!!!

 これは誰のメアドでしょう(^w^)
 そしてここはどこでせうかo(`▽´)o


 by ツカサ



 P.S. こいつKにコクられたってよ。

―――――――


「本当に何やってるんですかっ!?」

 誰のって、わかるわけないでしょうに。一応、ヒントらしきものはあるけれど。オレの個人情報が。オレのケータイから迷惑メールがっ。

 取り返そうと手を伸ばしたけどあっさりと避けられる。

「っと、ダ〜メ!これはしばらく預かります」
「何でっ!?」
「ものじち。ものじち」
「ほら、それよりこっち。話はまだ終わってないよ」

 赤メッシュ様がイスをぐるりと回し、視界が回転する。

「…っ」
「バカはともかくとしてさ、他は?」
「ほ…他?」
「他に声かけてきた奴いなかった?」

 え〜っと…これはもしかしなくても万里先輩のことか?並木先輩の関係者みたいだし、万里先輩とも知り合いなのかな。

 まぁ、万里先輩は有名だから、一方的に知っている人も多いけど。

「同じ学校にさ、バン…万里だっけ?がいるっしょ?それは知ってる?」

 あ、やっぱりそうか。

「え〜と、はい」
「どんな印象持ってる?」

 印象。万里先輩の。

「………………いい人」
「は?」

 だって、先輩は無関係のオレを何度も助けてくれた。それも嫌な顔一つせずに。あんないい人はそうそういない。

「……いい人?バンが?」
「はい」

 真面目に答えれば、赤メッシュ様はやがて吹き出し、そのまま腹を抱えて笑い出した。反対側からでも、金髪さんがカウンターバシバシ叩きながら大声で笑っている。

 その手にはオレのケータイがあるのだけれど。大丈夫だろうか。壊れたりしないだろうか。

「おー、どーした?やけに楽しそうだな」

 カウンターの中から、モップのお兄さんがひょっこり顔を出した。いや、もうモップ持ってないけど。

「だ、だって…リュウさんっ、こいつ、バンが…優しいって」

 息も絶え絶えな金髪さんの言葉に、モップのお兄さん改めて白髪のお兄さんは眉をひそめてからあー…と納得したような声を出した。

「そりゃ仕方ねーんじゃん?そーなんだろ」
「でもっ、だって…マジウケるー」

 何がそこまでツボに入ったのかまるで理解できないのですが。

「……西田歩君」
「……はい」
「バン、優しい?」

 にこやかに訊ねられ、首を上下に振った。

「そっか。優しい人は好き?」
「…?はい」
「よかった、よかった」

 満足そうに頷いているけど、一体なんなんだろう。普通誰だって意地悪な人より優しい人の方が好きに決まっている。

 並木先輩みたいにマゾじゃあないんだ。

「ねぇ、バンのどこが優しい?」
「……どこと言うか…何度も助けてもらったので」
「へぇー、じゃあ、歩、バンの子分なんだ」
「え?」

 何でそうなるんですか。

「だって、バンに助けてもらってんでしょ?」
「はい」
「ちゃんと何か返してる?」
「………え?」

 赤メッシュ様の笑みが深くなる。

「世の中はギブアンドテイクだよ。助けてもらったんならその分返さなくちゃ」

 先程までの軽薄な雰囲気は失せ、静かに落ち着いた声が脳に響く。

 確かに、申し訳ないとは思ってるんだ。恩返しができなくて。

 一緒にお昼ってなったけど、気にしないようにと言ってくれたに決まっている。何て優しいんだ万里先輩。

 でも、できることなんてないし。

 そんなことを考えていると、赤メッシュ様が頭の中を読んだように言葉を紡ぐ。

「できるできないじゃなくて、やるかやらないかだよ」

 うっすらと、妖しげな笑み。

「貰った分は、返さなきゃ」

 空気に呑まれて、呼吸がしづらい。唇が乾いて、喉の奥に言葉がつまる。頭が、回らない。目眩がしそうだ。

「歩はさ、このままでいいって思ってんの?」

 ふるふると、力なく首を横に振る。

 全てを見透かしたような視線が怖くて。まるで、心の中を丸裸にされているみたいで、無性に泣いてしまいたくなった。

「じゃあ何とかしないとね」
「でも…だって、何を…」
「バンの事、嫌い?」
「まさかっ」
「じゃあ、まずはそれを伝えてみよっか?」

 そんなことをしてどうなるというのだろう。何になるというのだろう。

「好意的な感情はさ、伝えられるだけでも結構嬉しいもんだよ」

 でも、オレはただの手間のかかる後輩で。迷惑ばかりかけていて。万里先輩にしてみたら、ただそこにいるだけのその他大勢の一人なのに。

 そんな相手に、そんなことを言われても余計迷惑をかけるだけなのに。

「バンが何度も歩を助けてるってなら、少なくとも嫌われてはないっしょ?そういう相手なら、不快に思うことはないって」

 本当にそうだろうか。

 万里先輩はとても優しい。怖い人なんだとそう思っていたのに全然違った。だから、内心では快く思ってなくても笑ってくれてるんじゃないかって、そう考えると堪らなくなる。

「何でもいいから、まずは行動に移さないと。ね?」

 でも。だって。

 躊躇する言葉を吐き出そうとしたその時、大きな音をたててドアが開いた。

 空気が動き、風向きが変わる。

 息競って入ってきたのは見覚えのある長身の人で。その姿を目にした途端、忘れかけていた呼吸が戻った気がした。

 その存在だけで、こんなにも安心できるなんて。

「………っ西田君。大丈夫?」
「万里……先輩…」

 ああ。何で。どうしてここまで。

 感極まって、うまく言葉が紡げない。ふらふらと引き寄せられるように、万里先輩に近づく。

「あいつらに何かされた?」

 心配してくれてるのが、痛いほど伝わってくる。肩で息をするほどに急いで駆けつけてくれた。ただの、一後輩のためだけに。

 どうして。どうしてここまで。何て優しい人なのだろう。

「万里先輩、オレ…」
「ん?」
「オレ、万里先輩好きです」
「っ」

 頭がうまく回っていない。言葉が勝手に溢れてくる。

「だから、万里先輩の、子分にしてください」

 背後で爆笑するのが聞こえてきた。






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