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五、




 一方、宿の外では。

「リュウー?あんた大丈夫?」
「だ………大丈夫。オレはまだ強くなれる。なってみせる」
「………錯乱しているみたいですね」

 街中を徘徊するリュウの後を、昴と北斗が付いて回っていた。

「気にすることないでしょ。キスぐらい」
「ぐらいっ!?ぐらいってなんだよ!?……いや、違う……それもそうなんだけどでもそうじゃなくて…」

 歩みを止めたリュウ。今度は頭を抱え踞ってしう。

「勢いだとか雰囲気だとかに流されたオレも悪いけどでも螢は何考えてんだよ教えてあげるって」
「………何も考えてませんよ。アレは」
「そーねー…あっ」

 興味なさげに他所に目を向けた昴が、不意に遠くを指で示した。

「茶屋がある。団子でも食べりゃ少しは落ち着くんじゃない?」
「いや…いい………わかってるんだ。あいつが感覚ズレまくってることぐらい……でも、立派に騙してみせるって決めたのに、逆に遊ばれるなんて……しかもそれに気づかなかったなんて……っ!」
「………じゃあもう一度挑戦してみませんか?」
「え?」

 リュウが顔を上げると、北斗が悪そうな笑みを浮かべていた。実は先程から密かに企てていることがあったのだ。

「もう一度って、また螢にか?」
「いいえ。キラにです。二人も騙されたのでしょう?でもまだ彼は誰からも嘘を吐かれていません。不公平だとは思いませんか?」
「あぁ…それならつばめもまだ……あ、つばめ……と、螢?」

 通りの向こうをつばめが歩いている。引きずられるようにして螢も後についていた。ある程度近づいてくると、向こうもこちらに気づく。

「どこに行くんですか?」
「………知らない」
「知らないって、何やってんだよ」
「知らない。………何か、つばめ騙したら責任とらせるとか言って」

 自然と、全員の視線がつばめに向かう。

「………どこ行くんですか?」

 ニヤリと、つばめは酷く楽し気に笑みを浮かべるだけ。何も言わずに再び螢を引っ張って歩き出してしまった。引きずられる螢ははーあと息を吐く。

「………つばめ、騙されたんですね」
「それで仕返ししようとしてんだ」
「……ど……どうする気なんだ?」

 しばらく後ろ姿を見送り、やがて北斗が手を打った。

「さぁ。これで騙されてないのはキラだけになりましたよ。どうします?」
「………やってみる?」
「お……おうっ!」

 リュウが戻った時、室内ではキラと天狼が思い思いに過ごしていた。

「あ、おかえりー。もう平気なの?」
「……おう」
「北斗と昴はー?」
「ちょっと……二人きりになりたいって」

 何処と無くぎこちない動作で、リュウはキラの横に座った。少し強張った表情をしている。バレバレだけどバレないように呼吸を整える。

 緊張してるのがまるわかりだ。

「キラ、大事な話がある…んだけど、その前に、螢につばめ騙させたんだな?」
「うん。そー」
「……さっき、外で会ったんだけど、つばめすっごく怒ってたぞ」
「………へぇー」
「………それで、何かお前にとんでもない仕返ししようとしてた」
「へぇー」

 たいして驚いた様子のないキラに、リュウは眉を寄せる。

「へぇーって、つばめが怒ってたんだぞ?怖くないのかよ」
「喜んでくれたのにー?」
「……喜ぶって、どんな嘘だったんだよ」
「螢が妊娠しちゃったって」
「はぁっ!?喜ぶって……信じたのか!?嘘だろ!?何でだよ!?」

 勢い良く立ち上がり、キラと共に見ていたであろう天狼に詰め寄る。同意を得ようとしたが、顔を背けられてしまった。

「っ!?何で背けんだよ!嘘だろ!?なぁ!?」
「……ちょっといいですか?」

 リュウが天狼に掴みかかったところで、北斗が戻ってきた。リュウの様子を確認してから、キラの前に腰を下ろした。

「どーかしたの?」
「大事な話があるのですが、良いですか?」
「なーに?やっとその気になってくれたのー?」
「ま…まさか」

 嬉しいわと手を伸ばしてくるキラから一度視線を背けた。それからもう一度目を合わる。わずかに北斗の頬が赤くなっていた。

「実は先程昴さんに……」
「昴がどうかしたの?」
「その……きゅ……求……」
「求婚でもしてみたのー?」

 笑顔のままキラに言われ、北斗はたじろぐ。何故わかった。

「残念だったねー。元気出して」

 しかも何故残念だったになる。

「断られたんでしょ?」
「………いえ、了承してくれましたよ」
「えっ!?そんなはずないよ」
「……何故そこまで言い切るんです?」

 果たしてそこまで可能性がないと言いたいのだろうか。

「だって昴……別に好きな人いるし」
「えっ!?」

 キラの爆弾発言に、北斗の時は停止した。

 好きな人?でもさっきこういう嘘吐くって言った時、構わないと言ってくれたけれどでももしかして知られてないと思っていたから了承してくれたのだろうかそんな。

「あーでもそっか。叶わないと諦めて了承したのかなー?」
「そ…そんな…一体…」

 相手は誰なのか。知りたいっ。でも知りたくないっ。知り合いか?ならば怪しいのは螢辺りの気もするけれど。やけに仲良いし。でもそんなわけないでほしい。

「……相手誰だか知りたいー?」
「………あ……」
「でも結婚するんだったら知らない方が良いよね」
「………う……」
「それに、昴の気持ち勝手に他の人に言うわけにいかないしねー」
「………うっ、うっ……」

 その場に崩れ落ちる北斗。勝者キラはにこやかにその姿を眺めていた。昴が戻ってきたのは、ちょうどそんな光景の時。

「………それで二人とも失敗したんだ」
「すみません。せっかく良いと言ってくださったのに」
「いや、別にそれはどーでも良いんだけどね」
「………うっ」

 どーでも良い?結構勇気出して聞いてみたのに。あわよくば嘘から出た真にならないかと。これをキッカケに少しは意識してくれないかと。

 それがどーでも良い?

 キラの発言の時以上に、北斗はうちひしがれた。因みに北斗の発言に関しては反撃のための嘘だとした。確認はしていない。

「つーか何で天狼は否定してくんねぇんだよ!?嘘なんだろ!?アレも!」
「……………」

 天狼は已然頑なに顔を背け無言を貫いていた。

「ふふふ………二人ともオレを騙そうなんて百年早い」





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