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四、




「ねー螢。遊んでるでしょ?」
「うん」
「んなっ!?」

 楽しげなキラの問いに、螢はあっさりと答えた。

「さっきも途中から遊んでた?」
「うん」
「ほ…螢っ!?」
「何?」

 遊ばれていたという事実に、リュウは文句を言おうとした。しかし元々嘘を吐こうとしたのは自分で、どっちかといえばこっちの方が悪いのではないだろうかとか色々考えた結果、

「……やっぱ何でもない。……頭、冷やしてくる」

 外の風に当たることにした。

「……大丈夫かな?あたしちょっと様子見てくるね」
「あ、付き合います」

 昴と北斗も後を追って室を出ていく。ようやく騒ぎが落ち着いたと、天狼がどっこいしょと腰を下ろす。

「……で、何だったの?」
「あぁ…四月馬鹿だから騙しっこしてたの」
「騙された覚えねぇけどな」
「北斗は下手だったねぇ」
「へぇ、面白そう」

 キラも腰を下ろし、穏やかな談笑が繰り広げられた。

「つばめが残ってるよ。螢もやってみる?」
「………つばめ?」

 首を傾け考えてて。螢はコクンと頷いた。

「………また愛の告白か?どーせ笑うだけで何も答えねぇよ」
「あーそうかも。じゃあ一足飛びに子供ができちゃったってのはー?」
「んなもん信じるわきゃねぇだろ」
「えー?わっかんないよー?賭けてみる?」
「………別に、何でも良いけど」

 つばめが戻ってきた時、室内にいたのは螢だけだった。

「……一人か?」
「うん」

 返事を聞き、だからといって何かあるわけではなくつばめは窓辺により腰を下ろす。そこに螢がよってきた。

「ね、つばめ。大事な話があるんだ」

 何事かと目を軽く開くも、そのまま何でもないように煙管を取り出す。螢が傍らに座る。

 えーと。腹部に手をそえて。項垂れるように伏せて。少し斜め下の方向いて。面倒だな。それから恥じらうように顔を染めて……意識的に赤くできるものなのかなぁ……。

「……オレ、妊娠しちゃったみたい」

 ポロッと、つばめの手から煙管が落ちる。まじまじと螢を見つめた。

「…………………………お前、男……だよな?」
「うん」

 重々しい問いかけには正反対のあっさりとした答え。

 いや、こいつが男だということはよく知っている。だがちょっと待て。男は妊娠できないだろう。確かそのはずだ。男が子供を生むだなんて一度も聞いたことねぇ。常識だよな。いや、だが所詮常識なんざ表面的なもの。そこから外れたもんなんて幾らでもある。現に性別ない奴だっていんだ。男が妊娠ってのもありえんのか。つーか何で突然そんなこと言い出すんだ。まさか。いやでも覚えは。しかし。けれど……。

「………つばめの子だと……思うんだ」

 ガシィッ!

「……痛い」

 強く肩を掴まれた螢が呟く。けれどつばめの耳には届かなかった。

 良くやったっ!と言いかけ呑み込む。いや待てこいつのことだから勘違いだってこともあるんじゃねぇのか。きちんと確認したのかよ。医師には診てもらったのか?まだなら早く良いところ探した方が良いよな。つーか今はまだ良いとして、腹膨れてきたら安静にしてなきゃいけねぇのわかってんのか?栄養もきちんと摂らせなきゃなんねぇし。大体、今何ヵ月目なんだ?

 辺りに殺気を撒き散らし、真剣に考え始めてしまったつばめ。そんなつばめを前に、螢は思ったような反応が得られなかった為、すでに飽き始めていた。

 早く放してくれないかな。

 はぁーと息を吐き、それからもう一言あったのだと思い出す。

 そうだった。えっと。両手を胸の前で組んで。下から覗き込むように。眸を潤ませて。眉尻を下げて。どことなく不安そうに……って、どんな感じだろう。まぁいっか。

「………どうしようか」

 ガバァッ!

「っ!?ちょっ苦し…」

 突如骨が折れんばかりに力強く螢を抱き締めたつばめ。そして、

 ちぅぅぅ………

「んんっ!?」





「うはははー!固まった!信じてやがる!」
「ほらー信じたでしょー。言ったじゃないー」

 笑い死しそうな勢いで腹を抱える天狼。しかし、螢のどうしようか発言の後、ピシリと今度は自身が硬直した。

「な…な…」
「きゃー、やったぁー」

 …………………………
 …………………………

「うわーすごーい。ながーい……」
「……な……な」
「天狼いつまで固まってんの?」
「……い、いつまでやってる気だぁー!?」
「あ、ちょっと何する気?」
「止める!やめさせる!」
「え、もうちょっと見てたいー」
「長すぎるだろうが!んなもんいつまで見てる気だ!?」
「えーっと、押し倒すまで?」
「ふざけんなっ!?」





「いい加減にしろーっ!!」
「………ああ?」

 天狼の登場に、ようやくつばめは唇を離す。邪魔をされすこぶる機嫌が悪くなった。

「いたのかよ」

 依然、螢を強く抱き締めたまま天狼を睨み付ける。舌打ちでもしそうな空気だ。

「うん。ずっと見てたのー」
「何やってんだー!?」
「孕んじまったもんは仕方ねぇだろうが。責任とる」

 男らしく、堂々と言いきる。腕の力を込めれば、螢が小さな呻き声を漏らした。

「流石だねー。でも少し腕の力弱めた方が良いんじゃない?螢、苦しそうだよ?」
「あ?……あぁ」

 キラに指摘され弱めれば、螢は大きく息を吐いた。つばめに凭れかかったまま。

「……苦しかった」
「責任って…つばめの子だって言ったのか!?」
「えーだって、じゃなかったら面白くないじゃない」
「ちょっと待て!それで信じたって、おまっ、覚えが……っ!?」

 あるのかないのか問おうとして言葉が詰まる。

 いやだって覚えがなきゃ普通信じねぇよな!?だって、ガキがどうできるか知らねぇわけねぇし。いや、確認したこたねぇけど、知ってるはずだよな?つーことはあるのか?覚えが。嘘だろおい。いつの間に?けど、あまりに突拍子のないことを言い出されたせいで、ついそこら辺のことスコーンと抜かしちまってることだってあるよな?そうだよな?頼むからそうだと言ってくれ。

「てもごめんねー。嘘なんだー。せっかく責任とってくれるって言ったのにー」
「……嘘ぉ?」

 キラのネタばらしに、つばめは盛大に顔をしかめた。そして螢の顔を覗き込む。

「そうなのか?」
「うん」

 螢の返答に、チッと舌打ちした。

「……期待させやがって」

 期待したのかよっ!?

 天狼は心の中で突っ込んだ。返事は聞きたくないので、声には出さない。

「ほらー、今日は四月馬鹿の日だから」
「………オレ様を騙すとは良い度胸だ。覚悟は出来てんだろうな」

 いや、普通は信じねぇだろ。

 つばめがスクッと立ち上がる。ついでに螢の腕を掴み、立たせた。

「どーしたの?」
「責任とらせる」
「はぁっ!?」
「………え?…オレ?」
「騙したのてめぇだろうが」

 ぐいぐいと螢の腕を引っ張り、つばめは出ていってしまった。閉じた戸をキラと天狼は呆然と眺める。

「良いのかよ。首謀者はおめぇだろ」
「いーんじゃない?……何する気なんだろー?」





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