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二、




「お、固まった」
「あはははー、わっかりやすいねー」

 隠れて様子を見ていた二人が呟く。端から見ていても北斗の思考が止まったのがよくわかった。

「つか、何で妹なんだよ」
「意外性あるでしょー」





「……あんたが寺に預けられた後にあたしが生まれたんだけど、でも、あたしもこんなんだから捨てられちゃって。でも、兄がいるって聞いてたから、ずっと探してたんだ」

 頑張って説明する昴の言葉も届いていない様。それでも昴は話し続けた。

「黙っててごめん。でも言い出しにくくて。………本当は、ずっと兄さんって呼びたかった」
「………兄……さん……?」

 ようやく、北斗の意識が戻ってくる。

「あたしみたいな妹……迷惑なだけだろうけど…」
「……………いもうと…?」

 妹。それは確か同じ両親の元、後から生まれた女児の事を指すのではなかっただろうかと北斗は考える。

 妹。あぁ、何か聞いたことあるな。偶然出逢い、恋に落ちた男女が実は生き別れの兄妹で、最後心中してしまうとかいう話。そんなこと、現実にはありえないって思ってたけどでも今彼女は何て言ったっけ?妹?まっさかー。

「は……ははは……」
「ほ…北斗?」

 突如笑いだした北斗に、昴は怯えた。何だかとても不気味だ。

「大丈夫っ?」
「ははは……」
「ちょっ…キラ、どうすれば良いの!?」
「あーあ、壊れちゃったねー」

 何処からともなくキラが現れる。その後ろからはリュウが酷く奇怪なもので見るような目をして。

「北斗ー?だいじょーぶ?今日は四月一日だよ?」
「………四月………一日?」

 北斗の瞳に、ゆるゆると色が戻ってくる。

「……じゃあ……嘘…なんですか?」
「うん。そー」
「よ…良かった――」

 盛大に息を吐いて脱力した。

「………騙したのは悪いと思うけど……そんなに嫌がられるなんて思わなかった」
「えっ?」

 北斗が顔を上げると、昴が何やら神妙な顔つきをしていた。

「そうだよね。あたしみたいなの身内にいたら嫌だよね」
「昴さんっ!?」

 そんな事は言っていない。確かに嫌だとは思ったけれども、理由が違う。

「誤解ですっ!」
「……いーよ。別に気ィ使わなくて」
「……あ、天狼が帰ってきた」

 関わりたくないとばかりに、一人窓の外を見ていたリュウが呟く。

「あ、じゃあさ。昴傷つけたお詫びに、北斗もやってみる?」
「何をですかっ!?」
「四月馬鹿。天狼に愛の告白とか」
「………良いね」
「昴さんっ!?」

 昴の瞳は暗くなっていた。どうやら相当機嫌が悪くなっている模様。

「………北斗」
「はいっ!」

 顔を背けたまま投げ遣りに。しかし力強く。

「頑張ってね」

 そう言い残すと昴はさっさと姿を隠してしまった。キラも楽しそうに後に続く。

「………北斗」
「何ですか……?」

 リュウは頑張れと声をかけようと思った。

 思ったけれど何となくできなくて。結局、何でもないと言い残し、隠れた。後にはうちひしがれる北斗だけ。





「ねー昴さー、本当はそんなに怒ってなかったでしょー?」
「あー、うん」
「えっ!?」

 つい声をあげたリュウは、煩いと昴に頭を小突かれた。何でか昴はリュウを後ろから抱えるようにして、脳天に顎を乗せていた。

「でも腹立ったのは本当だよ。あそこまで嫌わなくても良いのに」

 嫌いではない。寧ろ好いているからこその反応だ。





 天狼が戸を開くと、室内には言い様もなく暗い空気が立ち込めていた。中には北斗が一人きり。何やらぶつぶつ呟きながら座っている。

 あ、ヤバイ。何かあったな。

 瞬時に気づき、関わりたくないととっさに戸を閉め外に出ようとした。賢明な判断だと言える。

「………天狼?」
「………何だよ」

 しかし出るより早く北斗に声をかけられ、仕方なく室内に入る。それでも念のためにと戸の側からは離れなかった。

 北斗がゆらりと立ち上がる。

「………大事な話があります」

 何故それで刀を抜く。

「一度しか言いません」

 いつになく禍々しいオーラを放つ北斗。天狼は唾を呑み込んだ。

「…………………………好きです。死んでください」

 長い沈黙の後、言うべき事を言うや否や切りつけた。

「うわっぶねぇっ!」





「あー声が小さくてよく聞こえないー」
「つーか何で愛の告白で刀抜いてんだよ」
「………北斗の愛は重苦しそうだね」

 押し殺したような声は、ここまで聞こえない。

「あ、おい。戦い始めたぞっ!」
「っぶないなー」
「あーもう。仕方ないなー」





 パンパンッと手を叩く音が室内に響き、北斗はピタリと動きを止めた。

「ストップ。ストーップ!そこまでっ!」
「な…何なんだ一体!?」

 突然のキラの登場に、状況の呑み込めていない天狼は叫ぶ。

「今日は四月馬鹿の日ー」
「んでっそれでいきなり切りつけられんだよっ!?」

 納得できなくて当然だ。

「北斗もしかしてちゃんと言わなかったのー?」
「………言いましたよ………だから消そうとしたんです」

 抜き身の刀を携えたまま北斗はキラに向き直る。焚き付けた本人の昴はといえば、興味なさげに窓の外に視線を向けていた。

「あ、ちょっと待って。螢が帰ってきたみたい」

 昴の言葉でリュウに緊張が走る。螢を騙すのはリュウの役目。とうとう出番がきてしまった。

「じゃあ、とりあえず隠れようか。北斗。天狼も。こっち来て」
「何なんだってんだ?」
「いーから来て。ほら北斗も刀しまって」
「……………」

 キラが声をかけても北斗は微動だにしない。その様子に、呆れ顔の昴が仕方ないなぁと近づく。

「北斗。隠れるよ。早く刀しまって」
「……………昴さん」
「早く」

 先程までの不機嫌さは消え、普段通りに声をかける。何か言葉があったわけではないけれど、許してもらえたのだと北斗はようやく安堵した。

「リュウ、北斗の真似はしちゃ駄目だよ」
「わかってるっ!」

 リュウは胸に手をあて呼吸を整える。大丈夫。自分にはできる。きっと巧く騙してみせる。





「リュウは何するんですか?」
「あんたと同じ。愛の告白」
「告白ぅ?んなもんされた覚えねーぞ。つか、あいつそんなん通じるのか?」
「さぁねぇ……」

 何となく、通じない気がする。





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