[携帯モード] [URL送信]

***




 夜の帳が降りる頃。優雅な調べの流れる室内に彼らはいた。

 窓の外には静かに煌めく星。

「楽…」

 副会長がそっと目の前の人物の名を呼ぶ。いつもは役職呼び。けれど、今宵ばかりは良いではないか。

 呼ばれた会長は僅かに目を見開き、それでも嬉しそうにはにかんだ。その表情だけで副会長の胸は一杯になる。

「私からのクリスマスプレゼントです。受け取ってください」

 取り出したのはこの日のために用意したもの。愛しい人の喜ぶ顔がみたい。自分が彼のサンタクロースになれればと。

 驚きを見せた会長は何度か副会長と差し出された小箱を見比べる。やがて、嬉しそうに破顔した。

「副会長。ありがとな」

 受け取ろうとのばした手の、指が小箱を持つ指先と触れる。

 ほんのわずかの接触。けれどそれだけで副会長は息が止まるかと思った。

 そのまま白い手を掴み、細い身体を抱き寄せてしまえば。戸惑う会長の滑らかな頬を撫で見つめ合い、そして荒々しくも優しく唇を重ねてしまえば。

 一瞬でそこまで浮かび、実践しようと離れる手を追う。

 けれど―――

「じゃ、これ引き換えのビンゴカードな」
「………………」
「にしてもお前がビンゴ参加するとは思わなかった。やっぱ人数多い方が楽しいよな」
「ちっがーうっ!」
「うぉ、ビビった」

 ガクンと膝をつく副会長。

「違うっ!そうじゃないっ!そうじゃないんだぁっ!」
「………副会長」

 ばっしんばっしん床を叩きつけながら訴える副会長。そんな副会長に会計と書記は憐れみの眼差しを向けた。

「どうしたんだ、副会長」
「違うんです!会長!景品じゃなくて私は貴方に!貴方にプレゼントしたんです!」
「ん?………ああ!そういうことか。わるい」
「わかっていただけましたか!?」
「ああ。ありがとな。ついうっかり」

 うっかりするのも無理はない。会長の横にはビンゴ大会参加受付の文字が。反対側には大量のプレゼントが並べられた長机。

 プレゼント持参するとビンゴカードを渡され、それにてエントリーという形式をとっている。

 この場で渡せばまぁ、参加申し込みととられるだろう。

「置いとくと紛れるな。なぁ、開けて良い?」
「是非に!」

 顔を輝かせ復活した副会長。ではさっそくと、会長は包みを解いた。

「お、タイピンか。今度使わせてもらうな」
「はい」
「会長。これ」
「ん?……こっちはビンゴの方で良いんだよな?」

 大きな包みを差し出した書記が、こっくりと頷く。その横から会計も小さな紙袋を出す。

「オレもー。ビンゴ大会参加する」
「じゃ、これ引き換えのビンゴカードな。楽しんでくれ」
「もっちろん!」
「(コクコク)」

 受け取ったプレゼントを机の上に並べ、そう言えばと会長が会計に話しかける。

「調理、手伝ってくれてるんだってな」
「んー?うん。これ、オレの作ったプリン。一口どーぞ」

 エプロン姿の会計がスプーンで一口掬って差し出すと、会長はぱくりと食べた。いわゆるあーんである。

「お、うまい。さすがだな」
「………オレも」
「はい。どーぞ」

 顔を綻ばせる会長を目にし、書記が自分も食べたいとねだれば、会計は気前よく一口あげた。

「おいしい?」
「おいしい。それに、間接キス」
「―――っ!?このむっつりさんっ!」

 蕩けるような表情をした書記の言葉に、会計が反射的につっこむ。その顔は青ざめて見えた。会長は楽しそうに笑い、副会長はずるい!私も!と叫んだ。

 さて、会場の別の一角では一人の生徒がキョロキョロと辺りを見回していた。手には料理の取り分けられた皿がある。

 料理を手にしたまま人混みの中をうろうろうろうろしていた。

「お、ジミーくん発見!」
「捕獲だ捕獲!」
「うぉっ」

 そんな彼に二人組が後ろから襲いかかる。ピアスだらけの彼と短髪の彼だ。

「せ、先輩!?」
「連行しろ。連行」
「はい。ちょっと大人しくしようなー」

 強引に連れていかれる姿は不良にカツアゲされているようにしか見えない。まわりの生徒も一瞬ぎょっと視線を向け―――すぐになんだと安心して元に戻る。

 彼らは風紀委員として顔が割れていた。

「あの、今はぐれた友達探してて……」
「なんだ?弟君は風紀の仲間より友達の方が大事だというのか?」
「黙ってついてこいって。先輩の言うことは絶対だぞ、Jr.」
「うっうっ」
「初代ジミーくんもいるから安心しろって二代目」
「………副委員長?」
「そうそう。だからこっちおーいーで」

 せめて呼び名を統一してくれ。その願いはいつ叶うのだろうかと憂いつつ、ジミーくんは二人の先輩に強制連行された。

「もっどりましたー!」
「おみやげ連れてきたぜ!」

 会場端のイスに、委員長と副委員長が座って食事していた。会話することなく黙々と。

 短髪とピアスの声に顔をあげ、委員長はすぐに食事に意識を戻してしまう。対して副委員長は呆れ顔を見せた。

「おみやげって…何やってんですか」
「まぁまぁ。ほら隣座れって」
「えっと、お邪魔します」
「すみません。二人が迷惑をかけて」
「いえ。大丈夫です」

 友達にはメールしといたのでと言えば、きっと二人が叱られるので言わないが。曖昧に笑って、ジミーくんは副委員長の隣に座る。

「お、委員長、ビンゴ始まるって」
「委員長頑張って!」
「えー…」
「……委員長、ビンゴやるんですね」
「……はい。用意したプレゼントは、部屋にあったいらない物らしいですが」

 それはなんと言うか、とても委員長らしい。そう思いながらも口には出さず、ジミーくんは己のビンゴカードを取り出した。

「お、二号も参加するのか」
「はい。せっかくなので」
「頑張れよー」

 という短髪の応援むなしく、なかなか穴はあかなかった。

「………なんてか、すげぇな」
「………な。ここまで当たらないことあるのか」
「………委員長なんてもうリーチなのに」
「………うっうっ」
「………大丈夫ですよ。委員長の運が良すぎるだけですから」

 副委員長の優しさが身にしみる。

「お、ほら。次二十五だって」
「良かったな。ようやく一つ……」
「え?二十五?」

 ガタンと副委員長が立ち上がり、委員長に視線を向ける。

「委員長!二十五って!」
「ん?」

 ぷすっとちょうど穴をあけた委員長が首をかしげる。その手から副委員長はビンゴカードを奪い取った。

「やっぱり!ビンゴじゃないですか!」
「うん」
「え?」
「うんじゃありません!さっさと名乗り出てきなさい!」
「えー…別に景品いらないけど」
「いいから行きなさい!」

 背中を押してステージへと押しやる副委員長。そんな二人を目にし、ピアスがぼそりと呟く。

「………格差社会」
「………てか委員長、今選んだ景品、自分で出したやつじゃん」
「いくらなんでもそれは……」

 無欲だからこそ、一番抜けなのか。ジミーくんは手元のカードを見つめながら半ば本気でそんなことを考えた。

 参加人数が多かったため、景品の大半がはけたところで終了となった。あがれなかった参加者は、我先にと各自カードと景品を交換に向かう。残りは早い者勝ちなのだ。

 その様はまるで死骸に群がるハイエナのよう。勢いに押され、ジミーくんは出遅れていた。野次馬としてついてきた風紀メンバーも、その様子をぼんやりと眺めている。

 群れが解散した後に残ったのは会長と書記の二人だけ。ポツンと一つだけ残された景品を微妙な表情で見つめていた。

 近寄りがたさを感じつつもジミーくんがおずおずと声をかけると、弾かれたように二人が振り返る。

「おー、風紀の。どうした?」
「あの、景品の引き換えに……」
「そうか!よかった!よかったな!書記!」
「うんっ!」

 やけに喜ぶ二人に事情を問えば、最後の景品は書記の用意したものだそうで。誰か引き換えずに帰ってしまったのかと悩んでいたそうだ。

「よかったなぁ、弟君。喜んでもらえて」
「はぁ」
「ところで会長サン他の役員は?」
「ん?会計は散歩行ったきりだな。副会長はウチの隊長と対決するとか」
「対決?場所はどこです?ちょっと様子見てきます」
「お、一緒に来るか?今から行くから」
「オレも行くぅ」
「ならオレもー」
「えっと、じゃあ自分も」

 対決という物騒な単語に副委員長が反応する。そんな副委員長を会長が物見遊山的なノリで誘えば、ピアスと短髪も便乗する。

 先輩方が行くなら自分が行かないわけには行かないだろうとジミーくんも名乗りを上げるが、彼らの長である委員長は他人顔であくびを噛み殺した。

「ふぁ…ああ、そだ会長これあげる」
「ん?くれんの?」
「うん。いらないから」
「ありがとな」

 はいと委員長が会長に渡したのは、ビンゴの景品。手のひらサイズの紙袋。

「委員長…んなゴミ捨てる感覚で」
「会長サン、それ中身なにー?」
「んー?ちょいまって。何だろうなー……って…え?」

 袋の口を開き、中を覗き込んだ会長の顔色がかわる。驚きに目を見開き何度も中身と委員長を見比べた。

「え?これって……い、いいのか?本当に?」
「うん。いらないから」
「うおぉぉっ!ありがとう!愛してる!憩!」
「はいはい」

 喜びを身体全体で表すように、会長は委員長に勢いよく抱きついた。委員長は動じることなくそんな会長の腰に手を回し支えた。

「サイズ合わないけど」
「いい!チェーン通して首から下げる!」
「ふぅん」
「え?ちょっと待って。委員長、本当に何渡したの?」

 何を渡せばそこまで喜ぶのかわからず、ピアスが訊ねる。が、幸せに浸っている会長の耳には届かない。

 呆然とする一同を尻目に、副委員長だけが嬉しそうに拍手していた。

 このことは翌日には新聞部にすっぱぬかれ、号外として一面を飾る。その記事を読んだ副会長が声にならない叫びを上げるのは、まだ誰も知らない事である。





[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!