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X'mas(2012)



(おいかけっこ)




「何だよ!いーじゃん、大人数の方が楽しいって!」
「ダメです!私の会長のクリスマスは、私のものです!」
「副会長だけじゃないからね!?生徒会みんなで過ごすんだからね!?」
「(コクコク)」
「いいえ!ここはいくら生徒会の皆様相手とはいえ譲れません!会長様には我々の主催する‘聖夜に会長様を囲む会’に参加していただくのです!」
「「そうだ!そうだ!」」
「なに甘いこと言ってやがる。会長サンはオレらんとこの‘純白の雪を赤く染めろ!バトルロワイヤルX'mas’に出場させんだ」
「今までの借りをまとめて返してやんだかんな!」
「‘菓たし状’も用意してきたんだ!会長を出せ!」
「はっ、果たし状も漢字で満足に書けない輩が、私の会長に勝とうだなんて片腹痛い!」
「あんだとぉ?」
「だからひらがなにしとけつったろ!」
「てか辞書引けばいーじゃん」
「うっせぇぞ会計の分際で!んなもんねーよ!潰すぞ!」
「うわぁーん!会長に言いつけてやるー!」
「皆で遊ぼーよ!」

 場所は生徒会室前。

 集団が押し掛け、生徒会役員がそれを阻止しようと奮闘している。ちょっとした暴動のようにも見えるそれを、風紀室に戻ろうとしていた風紀委員が眺めていた。

「うわぁー…会長相変わらずすっごい人気」

 ピアスで耳が穴だらけの委員が楽しそうに感心する。そして、

「………これ、ちょっと持っていてください」
「ん?止めんならオレがやろっか?」

 ピアスに書類を押し付ける副委員長。ピアスの申し出を丸っと無視して、騒ぐ集団へと足を進める。

 そしておもむろにホイッスルを取りだし、口許に運ぶ。

 ピーーッッ!!!

 突如響いた音に驚き口を閉じる一同。鮮やかなお手並みにピアスは小さく口笛を吹いた。

「これ以上騒ぐなら、全員しょっぴきますよ」

 副委員長の忠告に、反応はまちまち。気まずそうに顔をそらす者、憮然と顔をしかめる者、喚き出す者、正当性を主張する者、反論する者、睨む者、脅しをかける者等々。けれど副委員長はそれらを流し、再び口を開く。

「第一、会長はクリスマスを委員長と共に過ごすと決まってるんです!」
「「「「「決まってねーよ!」」」」」

 見事に皆の心が一つになった瞬間だった。

 ああ、それが言いたかっただけかとピアスは呆れ半分感心半分に成り行きを見守る。もはや騒ぎを止めるどころか自らも渦中に身を投じる副委員長。

 何が彼をそこまで駆り立てるのだろうかとか考えていたら、すぐ横のドア、風紀室のドアが開かれた。

「お?何やってんだ?」
「あ、会長サン」

 あんたこんなとこにいたのか。

 役員たちがドアを死守しているので、生徒会室にいるのかと思いきや。ひょっこり会長が顔を覗かせたのは、ピアスのすぐ横の風紀室ドア。

「楽しそうだな」
「ははっ」

 騒ぎを目にした会長が、何だか楽しそうに顔を輝かせるものだから、ピアスは苦笑いしてしまった。

 混ざりたいのかこの人は。原因はあんたにあるのだが。

「ちょっと通して」
「あ、わりぃ」

 戸口に佇んだままの会長に声をかけ、のっそりと風紀室から出てきたのは風紀委員長。あくびを噛み殺しつつ、廊下の様子に視線を向ける。

「………………」

 そしてのそりのそりと逆方向に足を進めた。

「って!止めんのかい!」
「必要ないでしょ」
「いやぁ〜あれはどう見ても風紀違反っしょ」
「そう?大丈夫。大丈夫。ここ他に誰も通らないし」

 ピアスの華麗なるツッコミに、委員長はきょとんと首をかしげる。騒ぎを聞きつけ出てきたのかと思えば。

 おお珍しい!明日は槍が降るのかと感動したがそこは委員長。進んで働くわけがなかった。

「どこ行くんだ?」
「便所」

 会長の言葉に、委員長はひらひら手を振って去っていく。

 どうでも良いが騒いでいる連中はここに会長がいることにまだ気づいていない。今、近づけるのは狼の群れに子ウサギを放り込むようなもの。避難させた方がいいのだろうかとピアスは考えた。

 あくまでも考えただけ。

「会長サン、あの人たちクリスマスどうするかで揉めてるんで、何とかしてー」

 まるっと放り投げた。

「クリスマス?なんだ、ちょうどいい」

 何がちょうどいいのか。

 気負うことなく騒ぎに近づく会長。おーいとのんきに声をかければ、全員一斉に振り返った。

「楽!」
「会長!会長はオレたちと過ごすんだよね!?」
「ぜひっ我々の‘聖夜に会長様を囲む会’にご出席を!」
「‘純白の雪を赤く染めろ!バトルロワイヤルX'mas’に出ろ!そこで決着つけてやる!」
「委員長と過ごすんですよね?」
「皆で集まろうってばっ!」

 目を血走らせている人々に取り囲まれても、動じることのないある意味大物会長。一同をぐるりと見回すと、ニッコリ笑みを浮かべた。

「これ」

 ぴらりと掲示したのは先程からずっと手にしていた書類。の頭紙。

■企画書■
‘ドキッ!男だらけのクリスマス〜ポロリはないよ!〜’

「ナンデスカコレ?」
「クリスマスパーティーの企画書。風紀の承認済み」
「えっ、知らないっ」
「今さっき委員長に印もらった」
「えっ!?委員長って仕事すんの!?」
「委員長だってたまには仕事するさ」

 驚き目を見開く生徒会役員とピアス。副委員長はなぜか苦々しい表情をしていた。

「え?委員長って誰?」
「さぁ?」

 こそこそ疑問の声をあげるのは、割りとしょっちゅう風紀のお世話になっている不良連中。委員長は彼らに委員長と見なされていない。

「……と、言うかこれ、私も初耳なんですが」
「オレもー」
「(コクコク)」
「ちゃんと相談しただろ?クリスマス何したいって」

 お前らにも、と会長は一同を見回す。

「副会長はロマンティックな音楽聞きながら食事をだろ?吹奏楽部やコーラス部にBGM頼んだ」
「……確かに、そう言いはしましたが、それは二人きりで」
「会計はカラオケつったよな。吹奏楽部の演奏で希望者は歌えるようしたし」
「何か、違う。何か違うけどでも……」
「で、書記はプレゼント交換。持ち寄ったプレゼント景品にしてビンゴ大会しような」
「っうん!」
「親衛隊らは親交深めたいだったよな。ビュッフェ形式にしたから色んな奴と話せるぞ」
「流石会長様!」
「そんで……」
「言うなぁぁぁっ!!」

 会長に視線を向けられた不良が突如として叫び声を上げた。

「言うなぁっ!わかった!わかったから何も言うんじゃねぇっ!」
「わ、わかった。言わない。言わねぇから」

 胸ぐらをつかみ言い募る姿はあまりにも必死。思わず他の連中が後ずさるほどに。

 そんなに知られたくないのか理想のクリスマス。

「と、まぁそんな感じだ。他にも手芸部と華道部が飾り付けやってくれたり、運動部が内装準備手伝ってくれたりすることになってる。予算あまり回せねぇから会費制にはなるが」
「……通りますかね。この企画」
「通るだろ?委員長が印押したし」

 どこから来るんだその自信。

「理事長お祭り好きだし、校ちょ…サンタも呼んだし」
「サンタ来るのか!?」

 いや、サンタってか校長だろう。今の流れは。

「おー、来るぞ。もっさり君は皆でだろ?全校生徒じゃねぇが結構集まりそうだぞ」
「もっさ…」
「副委員長は…まぁ無理強いはすんなよ」
「首に縄つけてでも参加させます」

 グッと親指をつきだし良い笑顔を見せる副委員長。どうにか話がまとまりかけたところでピアスがスススと会長に近寄る。

「お祭り好きは理事長だけじゃなくて会長もだよね」
「まぁな。因みにじゃらじゃら君はどんなクリスマスが良い?」
「じゃら……あー…好きな人が楽しそうにしてりゃそれで」
「なるほど。じゃあ皆が楽しめるよう頑張んなきゃな」





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