[携帯モード] [URL送信]

書記が全く(以下略)。




 会長の目覚めは爽やかだった。

 目を覚ましたのは見慣れた部屋ではなかった。一瞬、?となったがすぐに前日、より正確には前々夜からの出来事を思い出す。

 一瞬むっと顔をしかめたが、風紀委員長に八つ当たりしたとこまで思い出すと機嫌はよくなる。朝からまとわりつかれないは久しぶりで、一人寝いいなと破局の兆しを見せる。

 ご機嫌で身支度を整えた会長は、さて朝飯どうするかと考えたところでそれの存在に気づいた。缶コーヒーのブラックとカフェオレである。

 なんだこりゃと、首を傾げた。

 昨晩からあっただろうか。よく覚えていない。カフェオレはともかく、ブラックコーヒーはこの部屋の主の嗜好にあわない。ならばこれは自分のために用意されたものだろうか。そういや、一度部屋を出て戻ってきた時、何か持っていた気がしなくもない。

 何だ気がきくじゃねぇかと、会長は缶を手にした。プルタブに指をかけたのとほぼ同時に、ガチャリとドアが開く。

 入ってきたのはこの部屋の主である風紀委員長。

「よう」
「おう。今、お前の部屋の前にって、ぬぅぉぉぉぉっ!?」
「っ!?」

 軽く挨拶し、何事かを告げようとした風紀委員長が会長の姿を目にしたとたん奇声を発し突撃してきた。これにはさしもの会長も度肝を抜かれる。

 ものすんごい勢いで缶をひったくった風紀委員長は、それを庇うように抱え込んだ。

「なっ、なっ、なっ」
「び…ビビったぁ……」

 会長が、心臓ばくばくしたと胸をおさえる。

「なっ……何してんだっ!?」
「あ?お前ブラックのまねぇだろ」
「これはっ預かりモンだっ勝手に飲むな!」

 もちろん、それは昨晩の缶コーヒー。逃げるように談話室を去った会計は、結局缶を開けることすらせず忘れさっていた。それを風紀委員長は持ち帰っていたのである。後で渡すために。

 納得いかないと顔をしかめる会長に、風紀委員長はそれよりとドアを指す。

「今、お前の部屋の前に、お前の恋人がいんぞ」
「あ?」
「どうすんだ?話するか?」

 避難してるから部屋にはいないと伝えてある。とはいえ、避難先が同じフロアなら廊下を張っていれば会うことができる。

 寮にエレベーターは二カ所。更に階段もある。そして表玄関だけでなく、非常口もあるので、一人で見張るには無理がある。避難先は同フロアのどこかと目星をつけ張っているのだろう。もしかしたら風紀委員長の言葉を信じていないだけかもしれないが。

 このままでは、登校しようと部屋を出た時点で遭遇してしまう。いい加減あきらめて話し合えと、風紀委員長はじとりと会長を見つめる。

 が、会長はおもむろに携帯を取り出すとメールを一通送信。そしてゆっくり十秒数え、顎でドアを示す。

 何だ?と風紀委員長がドアから廊下を覗けば、書記の姿はきれいさっぱり消えていた。

「……何したんだ?」
「オレは一言、食堂と送っただけだ」

 音信不通の相手から場所を示すメールが送られてくれば、今そこにいるよ、もしくはそこで会いましょうという意味にとれる。そりゃ書記もすっ飛んでくというものだ。

 ゆっくりと食事していたら、気づいた書記が戻ってきてしまうかもしれない。早々に会長は登校することにした。風紀委員長もそれにつきあわされる。朝食は、売店で適当に購入。

 風紀委員長は教室でなく風紀室に向かった。風紀室にあるソファで一眠りする算段だ。昨夜はなかなか寝付けなかった。朝から疲れもした。眠たくて仕方がない。

 早番の風紀委員がその姿に首を傾げる。

「あれ?委員長?今日は早いな」
「会長のばかにつきあわされた。ねる」
「一緒に来たのか?珍しい」
「へやにへんたいでるからって」
「へんたい?授業は?」
「でる。よれい。おこして」
「はいはい」

 さて、会長はいつもより早く訪れた生徒会室で朝食をとった。いつもと同じぐらいにやってきた副会長は軽く眉をひそめたが、すぐに昨日のが続いているのだと察し、何も口にしなかった。次いでやってきた会計は、心配そうな眼差しを会長に向けるも副会長にやめとけと首を振られ、口を噤んだ。

 幸い忙しい時期でないので、一人欠いた状態でも恙なく業務は進む。

 そして、そろそろ教室に移動しようかという頃、その人物は生徒会室にあらわれた。

 書記だ。

 会長により、出禁を食らっているはずの書記が生徒会室に訪れた。その手には何やら紙袋を抱えている。

 会長の周りの空気が、氷のように冷たくなった。

 すがるような眼差しで、書記が会長に近寄ろうとする。会長はガタリと立ち上がった。

「なぁ、今日の一限、英語だったよな」
「え?あ、うん」
「宿題、終わったか?」
「う、うん」

 書記の存在を無視して会長は会計に話しかける。返事はしつつも、会計は書記が気になって仕方がない。書記の表情は捨てられた犬そのものだった。

 会長からのメールを見た書記は、一目散に食堂にすっ飛んでいった。そしてそこで会長の姿をくまなく探した。それこそ、テーブルの下や観葉植物の裏などかくれんぼでもしているのかという勢いで探した。けれどもちろん、見つかるわけはなく。それでも書記はひたすら探し続けた。

 そんな書記の奇行は風紀委員に通報され。やってきた風紀委員が書記から事情を聞くことに。会長を捜しているのだという書記の言葉に、風紀委員は首を傾げた。本日早くも二度目である。

「……会長なら、もう登校してるみたいだけど」

 くわっと目を見開いた書記は風の如く生徒会室に走った。そうして現在に至る。

 書記を無視して会計たちの方へ行こうとする会長の目の前に、書記は手にしていた紙袋を差し出す。進行を阻害された会長が書記を睨みつけるが、書記はぐっと紙袋を押しつける。

 嫌々ながらを紙袋を受け取った会長は、中をのぞき込みはっとする。

「これは……」

 会長の視線の先。書記は微笑み、一つ頷いた。

 ようやく、気持ちが伝わったと会長は嬉しさに胸を詰まらせる。けれどもう一度紙袋の中に視線を下ろすと、徐々にその顔から喜びが消えていく。

 確かに、中には見覚えのある布地が入っている。見覚えがあるからこそ一瞬勘違いをしてしまったが、それは会長が望むものとは異なっていた。

 温度の消えた視線を、書記に向ける。

「……これは?」
「オレのパンツだ」

 パンツ?

 聞こえてきた単語に、副会長と会計が首を捻る。

「これでおあいこ」

 さも名案だと、どや顔で告げる書記に、会長は満面の笑みを向けた。その笑顔に、書記はやっと許して貰えたと安堵する。けれど無論、そんなわけあるはずがなく。

 次の瞬間、会長は窓の外に全力で袋の中身をぶちまけた。

「っざけんなぁっ!」
「のぉぉぉっ!」

 生徒会室の窓の外、中庭の宙を書記の大量のパンツが舞った。





[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!