ねおきの密談2
手本を示すべき生徒会役員、もちろんオレ以外、が堂々と授業をサボり遊び呆けている。共にいるのは人語を解さない宇宙人。
屑どもも宇宙人語をでかい声で話すようになり、耳障りで目障りだ。不快感は日々大きくなり、苛立ちは募っていく。
結果、小競り合いやケンカ、器物破損、違反者等が増えた。
また、いくつかの親衛隊が解散させられ、原因となった宇宙人に対する嫌がらせも行われている。
いくら相手が人間でなく宇宙人だとしても。気持ちがよくわかるとしても。生徒である以上は保護しなくてはならない。保護じゃなく捕獲してやりたいとこだが。
さらに、元隊員たちが被害に遭うケースも多い。
風紀どもはそれらの抑圧、監視、取り締まりに保護、懲罰を行う。
単純に仕事が増えて忙しかったんだろ。どうせ。
同時に云々は後付けだ。
そこをつついてやっても良いんだが、それより問題はオレが屑ども解任しないとでも思っていたかのような物言いだ。
「オレが動かないわけねぇだろ。目的を違えたりしねぇよ」
「はっ、そりゃよかった」
向上心なき無能は害悪だ。それをいつまでも役員として据え置くのは罪悪だ。
生徒会の理念はただ一つ。生徒のためにあれ。
快適に楽しく、心身ともに健康に己を磨く。その環境を整えるのが生徒会役員の職務だ。生徒会は生徒のために存在している。
その役員が原因となり校内が荒れるなと言語道断。
そしてもう一つ。
この学校では将来国を担う若者の育成を行っている。比喩ではなく。各界で有名な家柄の子息が多く、ゆくゆくは跡を継ぐ場合が多い。
そうではない者も、何らかしらの形で名を上げたり、そういった子息らの秘書や側近になる。
いわゆるキャリア組。エリート育成校。
だから今の内からコネを作り、有能なものは引き抜く。究極の青田買い。
オレの親衛隊はまさにそれ。親衛隊隊長は秘書になることが決まっているし、他の隊員もうちの企業や関連会社に就くよう声をかけている。
風紀にとっては風紀委員会がそれに値する。だが玉石混淆。その振り分けが今回行われた。
「てめぇんとこは全滅だったな」
「何言ってやがる。脱落者はいねぇよ」
「親衛隊の方か」
「当たり前だ」
役員はオレが選出したんじゃねぇ。まぁ、コネ結んどくかぐらいは考えていたが。
今回の一件で、奴らの無能さは浮き彫りになった。恋に現を抜かして仕事を疎かにするような奴は信用ならない。
ならばさっさと解任し他の有能な奴を役員に据える。その方が将来的にもよっぽど有益なのだ。
「あいつら本当、えげつねぇよな」
「あ?」
「宇宙人どもとトラブル起こしても、充分すぎるほど証拠があるから手出しできねぇ」
「はっ、当たり前だろ」
初期の段階で親衛隊たちには通告を出した。極力、関わるなと。どうしても接触する場合は、三人以上、人目のある場所で。
そして、その様子は一部始終録音録画しておくようにと。
うちの連中がやましいことをするわけがないのだ。やれ制裁だ何だと言いがかりをつけられたらたまったもんじゃねぇ。
身の潔白を証明できるように、根拠となるものを残させている。
「どうせ解任の資料もその調子で集めさせてんだろ?」
「ああ。月曜にまとめたものを受けとる手はずになってる。それから書類に起こすから……火曜には提出できるな。そっちはどうなんだよ」
「準備できてる。てめぇんとこのが受理され次第、集会開いて発表するか」
「だな」
それでもって、このくだらない茶番も幕を閉じる。屑どもの顔が見ものだな。
「後任はどうすんだ?」
「あー、文化祭までは繋ぎでオレが指名する奴らで回す。で、文化祭中に投票。閉会式にて発表だな」
「くくくっ」
意図に気づいたのだろう、風紀が肩を震わせて笑う。
「それ、繋ぎの奴らがまんま当選すんだろ?」
「だろーな」
何せこの騒ぎの後にオレ直々に指名すんだ。それだけで十分票が集まるだろ。
仕事放棄などしない、有望な奴ら。まだ声はかけてねぇが、断らせたりはしねぇ。喉の奥でくっと笑いをこらえる。
「掘り出し者もいたしなぁ?」
「ああ。先に言っとくが、あの二人はこっちによこせよ。他はくれてやる」
やっぱこいつも気づいてやがったか。牽制しとかねば。
「はぁっ?どんだけ強欲なんだよ。あの二人は譲れねぇ」
「他はくれてやるつってんだろ」
「わりにあわねぇよ」
誰と明言していないが、同じ人物を指している自信がある。グレープフルーツの酸味に顔をしかめつつ、対話を続けた。
「そもそも、てめぇんとこは補充必要ねぇだろうが」
「それとは話が別だっつーの」
だろうな。
本気で必要ないと思っていたら、他のやつらもこいつんとこ回さず全員オレの傘下に入れる。
それで文句が出るとわかっていたからこその妥協案だ。風紀以外ならば黙殺してるが、こいつ相手ならそうはいかない。っつーのに、ケチつけやがるとは。何様のつもりだ?
「だいたいあいつらが生徒会入るわけねーだろが」
「んなの関係ねぇよ」
「本人の意思無視かよ」
「いや。口説き落とす」
「質わりーな、おい」
苦々しい口調とは裏腹に、風紀の顔はいたく楽しげだ。まぁ、口説き落とす自信はあるが、こう決裂しては四者間での話し合いが必須か。
時間もったいねーつーのに。
「とにかく、集会の後に呼び出しとくからな」
「………りょーかい」
欲を言や集会ん時に発表しちまいたいが、さすがにそこまでしちまうと準備よすぎるか。上に立つ者として余裕は必須だが、こんな時まであったらむしろ企んでたんじゃと勘ぐられかねない。
話し合いになれば、おそらくとれるのは一人。
風紀が介入すると、好き勝手できないからいけねぇ。だが、手を抜けないからやりがいがあっていい。
必要な話を終え、コーヒーを啜りながら目の前の風紀を眺める。
そういや、確かあの宇宙人はこいつを気に入ってたんじゃなかったか?宇宙人はよく問題を起こしてるから関わる機会が多い。その中で、あからさまにそんな態度をとっていたと親衛隊の隊長から聞いた覚えがある。
趣味が悪いっつーか、人を見る目はあるっつーか。
まぁ、言動を見る限り靡いてねぇみたいだが。もしこいつまで宇宙人に惚れたら、オレはこの世に絶望する。
いや、惚れるだけならいいんだ。それなら関係ねぇ。けど、屑どものように仕事放棄をしたら。
風紀はオレをリコールしようとしたが、オレならそれだけじゃ気がすまねぇ。
風紀を殺してオレも死ぬ。
オレは風紀を買っている。だから裏切られた感がパねぇし、自分の見る目のなさが許せねぇ。
まぁ、んなことありえねぇし。考える必要もないことだな。
「んじゃ、帰るわ。ごちそーさん」
「おう」
コーヒーを飲みほし、席を立つ。自室に戻ろうとして、ふと足を止めた。
「おい風紀。今夜予定あるか?」
「あ?」
何を言ってやがると困惑する表情に気分がよくなる。余裕綽々の笑みを浮かべて口を開いた。
「借りを作るのは癪だからな。特別にオレが夕飯を奢ってやる。夜、オレの部屋に来い。時間は追って連絡する」
「………はぁ?」
「ははっ」
ポカンとする風紀。その間抜け面に笑いが溢れる。こんな軽やかな気持ちはいつぶりだろうか。
部屋に戻ってもう一眠りするつもりだが、どうやらいい夢が見れそうだ。
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