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会長が荒れている話。




「……後は任せた」
「任せられても」

 風紀の副委員長は顔をしかめるが、風紀委員長のやる気は消え失せていた。

 場所は風紀室。

 風紀委員長の隣に会長。会長の向かいに書記。書記の隣に副委員長が座っている。ケンカ中の二人がいつ暴れ出してもすぐ止められるようにとこの席順だ。

 ちなみに、真ん中のテーブルには例のアレが入った紙袋。

 すぐに仲直りが無理だとしても、話し合わなければいつまでたっても平行線のままだからと設けられた席。けれど進行役であるところの風紀委員長は心ここにあらずで、先ほどから溜息ばかりをこぼしている。隣の会長はうざったそうな視線を向けていた。

「委員長」
「あー……」
「ほら、さっさとこんなくだらないケンカ、終わりにさせるんでしょ」
「んー……」
「委員長っ」
「はぁー……」

 ダメだこりゃと、副委員長は諦めの色を見せる。

 一応、昨日の様子も今朝の一件も報告は受けている。まずは詳しい経緯を聞くかと、副委員長は会長に視線を向けた。

「……とりあえず、ケンカの原因は?」

 そして何故、窓から大量のパンツをぶちまけるなどという暴挙にでたのか。

 問われ、会長は顔をしかめる。

「……そいつが、オレよりパンツの方が良いって言うから」
「は?」
「違う!そんなことは言っていない!」
「ちがわねぇだろ!オレとオレのパンツ天秤に掛けやがったくせに!」
「それは……っ」
「え?ちょっと待って。状況が理解できないんだけど」
「どうせ、オレのパンツが目当てでオレと付き合い始めたんだろっ!」

 いや、いくら何でもそれはないでしょ。

 いきなりパンツがどうのこうのと始められても、副委員長に理解できるはずもなく。詳しい説明を求めようとも、副委員長の言葉は二人に届かない。

「もういいっ!お前は一生オレのパンツでオナってろ!オレはこいつとよろしくやる!」

 こいつ、と会長は風紀委員長の肩を抱き寄せた。

「なっ」
「昨日だって、オレはこいつの部屋のこいつのベッドで寝たんだ。な?」
「あー……?まぁ、そうだな」

 肩を揺さぶられ、心ここにあらずながらも風紀委員長は返事をした。嘘ではない。ただ風紀委員長自身はその間自室にいなかったが。

 副委員長もそのことは知っている。なぜなら昨晩風紀委員長は副委員長の部屋に泊まってたからだ。だが、副委員長はあることに気づき慌てた。

「か、会長、少し落ち着いて……」
「オレの裸、見たもんな?いい身体してたろ?」
「まぁ、そうだな」
「えっ!?」

 あちゃあと、副委員長は額をおさえた。

 あげられた驚きの声は、書記のものではなかった。ん?と風紀委員長は振り返る。そうして硬直した。そこには会計がいたのだ。その横で、風紀委員がおろおろしている。

「あ……ごめんなさい、オレ、その」

 一体いつからそこにと風紀委員長は焦るも、その表情からまずいところを聞かれたのだと悟る。絶対誤解された。

 会計の瞳から、つぅ…と一筋の涙がこぼれる。

「っ!?」
「あ、ごめんなさい!」

 顔を隠すように、会計が走り去った。

「委員長。ここは良いから、追いかけてください」
「っ、悪い。後は任せた」
「はい」

 副委員長が力強く頷く。風紀委員長は急ぎ会計を追いかけた。

 廊下を走りながら、会計は混乱していた。先ほど聞いてしまった会話がショックすぎて。

 一緒に寝たと言っていた。裸も見たと。つまり、二人はそういう関係なのだ。それなのに何にも知らず、一人舞い上がったり照れたりして、バカみたいだ。穴があったら入りたい。

 会長と書記が恋人関係にあるという基本事項をすっぱり忘れ去り、会計はただ失恋のショックにどこかに逃げ去ろうとしていた。

 だって、会計からしてみたら書記より風紀委員長の方が断然魅力的なのだ。それに、ケンカして落ち込んでる時に優しくされて、気持ちがそっちに移ってしまうことだってなくはない。親身になって励ましている内にということがあっても、おかしくない。

 ひたすら廊下を全力疾走する会計の腕が、不意につかまれた。振り返った先には風紀委員長。なんで、と音にせず呟いて、会計は再び前を向いた。とてもじゃないけど、見せられる顔じゃない。

 けれど風紀委員長は腕を強く引くと、自分の方を向けさせる。逃げられないよう、両腕をつかんだ。それでも会計は力いっぱい顔を背ける。

「違う!誤解なんだ!」
「わ……かってる。……オレが、勝手に勘違いして……舞い上がって……」
「そうじゃない!そっちじゃないんだっ」

 何も聞きたくないと、嫌だ嫌だと会計が首を振る。

「和行っ」
「……っ」

 名を呼ばれ、反射的に風紀委員長を見た。必死な表情で会計を見つめている。

「確かに、オレの部屋で寝てたが、オレは別の部屋に泊まってたんだ」
「……でも……だって、はだ、はだか」
「それは、着替えないからって風呂上がりにタオル巻いただけの格好で部屋うろついてたからで、断じてあいつとの間には何もない」
「でも……でも……」

 ボロボロと涙がこぼれている。腕をつかむ力が強くなった。

「っ、頼む。誤解、しないでくれ。和行には、誤解されたくないんだ。オレは……オレが好きなのは――」

 放課後とはいえ、校舎内に生徒は幾人も残っている。更に廊下で追いかけっこなんぞすれば目立つ。二人は気づいていなかったが、何事かと、野次馬は集まっていた。

 そんな衆人環視の中、風紀委員長が公開告白をやらかし祝福の拍手に包まれている頃、風紀室では会長が忌々しげに舌打ちしていた。

 こっちが恋人関係の危機だってのに、あいつら青春しやがってとそこら辺の物を蹴り飛ばしそうなぐらいには苛立っていた。

 苛立っている会長の前に、書記が跪く。会長の手を、強く握りしめた。

「あ?」
「委員長に、裸を見せたのか?」
「だったら?」

 文句でもあるのかと、会長が鼻で笑い飛ばす。書記は、血相を変えた。

「そっ、そんなことをして、何かあったらどうするつもりなんだっ!」
「ナニする気だったんだよ」
「なっ……浮気っ!?」
「言ったよな?捨てなきゃ別れると」
「それは……だが……」

 狼狽える書記に、会長は再度舌を打つ。この期に及んで、まだ迷うのか。

「……もういい」
「なっ、待ってくれ!話を……まずは話し合いをっ」
「話し合うことなんざねぇよ。ダーリンの考えはよぉぉっくわかった。捨てるまで、オレの前にその面だすな」
「いやだぁぁっ!捨てないでくれ、ハニィィッ!」

 書記が涙ながらに会長の腰にしがみつく。その書記の頭に、会長は力の限り拳を振り下ろした。

「だったらとっとと捨てろっ!」





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