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書記が全く反省してない話。




 重苦しい沈黙が室内に満ちていた。どちらも何も口を開けない。動くことすらできない中、やがて明るい電子音が響く。その音を耳にし、風紀委員長はわずかに表情をゆるめた。

 会長に断りをいれ、通話を始める。

「もしもし?……ん?どうした?」

 その声は常より優しく、会長はつまらなそうにその様子を眺める。

「………ん?………あぁ、そうか」

 風紀委員長が気まずそうな視線を会長に向けた。その視線を受け、会長は眉をひそめる。

「………反省してるんじゃないか?あまり、周りが口挟むような事じゃねぇし、気にしない方がいい。……ん?あぁそうだな。……あーそうか。……ああ……ああ……いや、オレがどうにかする。心配しなくていい。……ん?気にすんな。これでも風紀委員長だからな。……ああ。じゃあ」

 ピッと通話を切った風紀委員長は、恨めしげな眼差しを会長に向けた。

「……お前の恋人、今お前の部屋の前で正座してるってよ」
「へぇ?」

 だから?と会長は全く動く気配を見せない。

「お前がどうにかしてくれんだろ?」

 確かに、そう言ってしまったがと風紀委員長は顔をしかめる。

「オレは生徒会長だが、ここの生徒でもある。是非、変質者から守ってくれ」

 恋人を変質者扱いとはどうかと思うが、話を聞いた後では書記を庇う気にはなれない。しかも二人が仲直りすればすべて丸く収まるのに、会長に許してやれよと言うこともできない。

 ため息を一つこぼし、風紀委員長は部屋を後にした。

 とりあえず、書記のことは一発ぶん殴ろうと心に決め。

 廊下に出れば、同じフロアでさほど部屋が離れていないので、目当ての姿はすぐに見つかった。会長の部屋のドアのすぐ横で、書記が壁に背を向け正座している。その隣では会計が膝を抱えて座っていた。

「……ごめんなさいはした?悪いことしたと思ってるなら、ちゃんとごめんなさいした方がいいよ。せっかく両思いなのに、ケンカしてさよならなんて寂しい」

 ぽそぽそと書記に話しかけている会計は、自身の方が怒られた子供みたいに意気消沈していた。聞いている書記も一応は神妙な表情をしているが、風紀委員長にはふてぶてしいようにしか見えなかった。

 ドアの開閉の音でか、会計が風紀委員長の方を向く。風紀委員長が軽く手をあげ歩み寄ると、会計はほっとした笑みを浮かべて立ち上がった。

「ありがとう」
「いや、いいって」
「インターホン何度か押してみたんだけど、会長出てくれなくて。携帯も、電源切られてるみたいで繋がらないんだ」
「あー……」

 インターホン鳴らしても出ないのは、部屋にいないからだ。携帯の電源切ってるのは、書記からメールや着信が嫌がらせかって程の量きてたからだ。

「ここ、一般生徒は入ってこないから、変に噂になったりはしないだろうけど、やっぱり廊下は寒いし、消灯時間過ぎれば電気消えちゃうし」

 うんうんと話を聞きながら、風紀委員長は書記を視界から外していた。会長の話を聞いて荒んでいた心を癒すため、会計だけを見つめていた。

 淡い水色のパジャマ。藍色のカーディガンは、袖を通さず肩に羽織っているだけ。すでに入浴をすませたからか、石鹸のいい香りが漂っている。これで話の内容がくっだらないケンカに関してでなければ。恋人に変質者扱いされている書記がすぐ近くにいなければ。

 そんなことを思いつつ、風紀委員長は会計の話に耳を傾けていた。

「いくらなんでも、一晩ここで過ごしたら風邪をひきかねないのに。オレじゃ部屋に戻るよう説得できなくて」

 しゅんと落ち込む会計に、うんうんと頷いてから風紀委員長は優しく笑いかける。

「わかった。後はオレがどうにか話をつけておく。だから安心して部屋に……いや、談話室で待っててくれるか?」
「ん。わかった」

 力ないものの、小さく笑みを浮かべてから会計はぽてぽてと談話室に向かう。その姿が見えなくなってから、風紀委員長は一つ息を吐いた。

 そうして、いまだ正座している書記に鋭い眼差しを向けた。

 書記はじっと風紀委員長を見上げている。もしかしたら上目づかいを狙っているのかもしれない。知らなければ可哀想にと同情を引く姿だが、話を聞いた風紀委員長には前述の通りふてぶてしいようにしか見えない。

「……言っとくが、そこでいくら待ってようが、この部屋誰もいないからな」
「っ!?」
「変質者に狙われてるってんで、別の部屋に避難してる」
「変質者、だと……っ!?」

 くわっと、書記の目が見開かれる。

「おのれっ身の程知らずなっ!そのような不届き者、オレがこの手でたたっ切ってくれようぞっ!」
「お前だ、お前」

 勢い、立ち上がりかけた書記の頭を、風紀委員長はべしりと無遠慮に叩いた。そうして目の前にしゃがみ込み、視線を合わせる。

「お前は今、自分の恋人に変質者扱いされているだよ」
「なっ……何故だっ!?」
「何故だも何でもねぇだろ。自分の胸に手ぇあてて考えて見ろ。聞いたぞ。お前が昨晩何やらかしたか」

 心底訳が分からないと、書記は戸惑いを浮かべた。

 あ、だめだこいつと風紀委員長は頭をおさえた。反省して正座してるのかと思ったが、全く反省していない。どころかこの様子では何故会長が怒っているのか理解してないだろう。

「……そもそも、何であいつが怒ってるかわかってねぇだろ」
「……っ」
「自分の身に置き換えて考えて見ろよ」

 言われ、書記は考えてみた。昨晩の出来事を、自分と会長入れ替えて。

「……興奮する」
「おい」
「手元に携帯があれば撮影しつつ、なければ網膜に焼き付けつつ手伝い最終的にはおいしく……っ」
「黙れ変態」

 皆まで言わせるかと風紀委員長が書記の頭をひっぱたく。

「捨てられそうになってる自覚を持て」
「……っ」
「まずは言われたとおりパ……コレクション捨てろ」
「そんなっ!」

 書記が悲痛な叫びをあげた。風紀委員長の眼差しはひどく冷たい。

「お前が捨てるか、お前が捨てられるかの二つに一つだ。どっちがマシか、考えるまでもねぇだろ」
「た、確かにパンツは捨ててもまた集めればいいかもしれない。だが、それは全く同じパンツではない。捨ててしまったパンツは、もう二度と戻らないんだ!もちろん、捨てられたくなどない。だが、勢いで言ってしまっただけで、本気で別れたいとか思っているはずがない。冷静になれば考えなおしてくれるはず。その時に、すでにパンツを捨ててしまっていたら……っ。こっそりと集めてきたパンツが……っ」
「パンツパンツうっせぇ」

 バシンと風紀委員長が書記の頭を叩く。

「……あいつ、追いつめられてたぞ」
「……っ」
「お前が好きなのは自分じゃなくてパンツなんじゃないかって」
「そんなわけあるかっ!パンツなら何でも良いわけじゃない!愛する人のパンツだからこそっ!」
「だからパンツパンツ連呼すんじゃねぇよ」

 いくら人通りがないとはいえここは寮の廊下。騒ぐような場所でも時間帯でも内容でもない。

「とにかく、ここにいても会えるわけじゃねぇんだから今日は部屋に戻れ」
「居場所は……」
「教えるわけねぇだろ。変質者から避難してんのに、当の変質者に教えてどうする」

 ズバッと、風紀委員長は言い切った。





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