Earth 欲しい物はなんだって手に入れてあげる。 嫌な奴はどんな手段を使ってでも排除してあげる。 望みは全て、叶えてあげる。 Earth オレの天使はマジ天使。 肌は陶磁器のように白くてすべすべだし、髪は絹のようにさらさらで漆黒。すっと通った鼻に、伏し目がちな眼差し。決して貧弱ではないけどすらっとした身体。腰はめちゃくちゃ細い。 性格だって控えめでしとやかで清楚でまさに大和撫子だ。純粋だからオレの言葉は何だって信じる。ここポイント。信じるのは基本オレの言葉だけ。 オレの天使は他人を苦手としている。とても人見知りなのだ。付き合いの長い生徒会メンバーにはある程度気を許しているが、あくまでもある程度。幼い頃から共に育ったオレに対する程じゃない。 出会いはそう、小学校就学前。父親に上司の子なのだと紹介された。同じ学校で、同学年になるのだから仲良くするようにと。 天使は父の後ろに隠れるようにしてこちらを見つめていた。こぼれ落ちそうな程大きな瞳。薔薇色に染まった頬。目があうとひっこんで、でもやっぱり気になるのかこっそりとこちらを見る。 その姿にオレは一目で落ちた。 こんなかわいい生き物をオレはそれまで見たことがなかった。男だと知ったときにはショックだった。オレと同じものがついてるなんて信じられない。けれど、だからといってその愛らしさが損なわれるわけではなかった。 恥じらう天使に、オレは最大限の優しさでもって接した。口数少ない天使の意図をくみ、喜ばせるために何だってした。嬉しそうにはにかむ天使の愛らしさときたら、何物にも代えがたい。 小学校では天使はその愛らしさのせいで女子に妬まれたり、男子にちょっかいかけられたりもした。オレはそんな奴らから天使を守るために全力を尽くした。 そうして、中学に上がる頃には何かある度にオレを頼るようになった。しかもこの頃には見目がよいからともてはやされるようになり。その手のひらを返したような周りの反応に天使は人間不審ぎみになった。まぁ、天使にはオレがいるから何一つ問題はないが。 人の上に立つのも人前に出るのも苦手としているのに、生徒会に入ることになった時には大分心配したものだ。できる限りのことはやってみたいという天使の健気さに胸を打たれ、影ながら見守ることにした。 幸いにも、他の生徒会メンバーはいい奴らだったようで、天使とほどよい距離感で接してくれていた。苦手としていることには最小限ではあるがフォローを入れてくれ、得意なことを優先的に任せてくれるのだと言う。 最初は緊張ぎみに生徒会室に通っていた天使も、生徒会メンバーには気を許すようになっていった。生徒会でのことは楽しそうに話す。天使の笑顔、マジ最高。 出会った当初はオレより小さかった天使だが、この頃には身長を抜かれていた。周りからは美人系と言われ、代わりになぜかオレが可愛い系だと言われるように。ふざけるな。天使以上に可愛らしいものなど、この世に存在するはずないだろうが。 高校に進学してすぐ、オレは天使の親衛隊を結成した。より、強固に天使を守るため。中学の後半から、天使に対して不埒な感情を向けるやからがではじめたからだ。 天使は可愛い。マジ愛らしい。だから心を奪われるのは仕方がない。だが、だからといってよこしまなやからは許さない。純粋な天使を汚そうとするクズは、地獄に落ちろ。 「いただきます」 「めしあがれ」 天使が両手をあわせて、そして箸を手にする。オレはその姿を満ち足りた思いで眺める。 人目を、人混みを苦手とする天使は食堂を好まない。だから朝も昼も夜もオレが用意して二人きりで過ごす。最初はテイクアウトを利用していたが、一度オレが手料理を振る舞ったらひどく感動して喜んだ。 天使が喜ぶなら何だってする。それからオレの料理の腕はメキメキと上達した。天使はより喜んだ。 けれど一つだけ、この上もなく困ったことがあった。どうせ朝も夜も一緒なのだから、同室になりたいとねだられたことだ。そんなことになってみろ。オレは確実に萌え死ぬ。天使の寝顔など、もはや凶器だ。 代わりにと、夜は天使が寝るまで傍にいて、朝は天使が起きるより早く部屋を訪ねている。とりあえずは現状で落ち着いているが、もしもう一度言い出されたら断りきれる自信がない。 オレの死因が天使の愛らしさだなんてなったら、天使は大いに悲しんで、そのつぶらな瞳から美しい涙を溢すことだろう。 「ほこの。聞いてください」 「何ですか?」 天使のこの口調は、オレを真似してのことだ。天使に対して紳士的に接し続けてきたオレは、もちろんそれにあった口調を使っていた。いつの頃からか、天使がそれを真似してきた。何て可愛いんだ。オレの天使。 「東山君が、今期限りで生徒会をやめるのだそうです」 「えっ?」 東山が? オレたちと同学年で生徒会書記の東山は、生徒会長である谷原先輩が好きなのだと公言して憚らないようなやつだ。あれが生徒会にいるのだって、谷原先輩がいるからに他ならない。だから、やめるというのはある意味納得だし、そもそもどうでもいい事柄だ。 ただ問題は一点。 「では、正己が生徒会長になるのですか?」 そこだ。 さっきも言ったが、天使は目立つこと、人前に立つことを苦手としている。中学の時は副会長を務めるに至ったが、会長となった東山がやたら目立つ質なので注目は自然とそちらに集まり、どうにかなっていた。 「いえ。水瀬君が引き受けてくれたのです」 「そうですか」 それはよかった。 けれど天使は何やら考え込んでしまった。 「正己?どうかしましたか?」 「水瀬君は、偉いですね」 ポツリ、ポツリとゆっくり天使が語る。 「東山君が生徒会をやめると言い出した時、私は自分が生徒会長をやらされるのではと思い、ヤだなと感じました。けれど水瀬君は、仕方がないと呆れながらも、自分がやると名乗り出たのです。本当は、先輩である私がそうしなければならなかったのでしょう」 中学でも会長を務めたし、天使はサポートの方が得意だからと言ってくれたそうだ。 「金本君の時も、そうでした」 高校で初めて生徒会に入った金本が、書記よりも会計に適しているとわかった時、水瀬はじゃあ自分が書記かと軽く引き受けたそうだ。中学の時は会計を務めていたのだから、自分だって本当は会計の方が楽だろうに、実に軽く、何てことないように。 「見習わなくてはなりませんね」 「正己」 「はい」 「確かに、率先して仕事を引き受ける水瀬君は偉いです。けれどオレは、そうやって他人のいいところを見習い、成長しようとする正己もとても偉いと思いますよ」 そう言って笑いかければ、天使は瞬いた後に嬉しそうにはにかんだ。 「……東山君がやめるとなると、新たに一人入るんですね」 「はい。まだ決まっていませんが」 「目星はついているのですか?」 「候補は何人か。どんな人たちなのか、私は詳しくありませんが」 チェックしておかなくては。 天使を傷つけるような奴はもういないだろうし、そんな人でなしが生徒会に選ばれるわけもない。それでも万全をきす必要はある。親衛隊の組織力のお陰で、天使の守りはもはや鉄壁だ。 天使の笑顔を守るためなら何だってする。 オレの天使はマジ愛らしい。 <> [戻る] |