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 強く机に押し付けられる。

 狂おしいまでの感情をぶつけてくる。

 その姿が、ひどく愛しかった。

 当番でないけど、生徒会室に向かった。元々必要ない時でも入り浸っていたから、おかしなことではない。部屋に一人でいるとどうしても考えが暗いところにいってしまっていけないし、自室よりも生徒会室の方が居心地よくて気が紛れるのだ。

 今日も、しずちゃんがいるはず。

 けれど開いた扉の先にいたのは庚だった。軽く挨拶だけして去ろうとするのを、とっさに腕をつかんで引き留める。話がしたいと伝えると、拒否された。それでも、このまま関係が終わるなんて嫌で、一方的に言いたいことを口にした。

 そしたら机に押し付けられて。あの先輩がしようとしたのと同じことをしてしまいそうなのだと。そうしてしまわぬよう、距離をとったのだと苦しげに言う。

 オレを、傷つけないためにと。

 嫌われたんじゃなかった。むしろ、こんなにまでも想われていただなんて。庚にならいいと思った。何をされても傷つけられても。同情なんかじゃない。そう、伝えたくて、込み上げた感情のまま庚に口付けた。

 それでも伝わらなくて、もどかしさから感情を吐露したら強く抱きしめられる。

 現金だ。急に、こんなに態度が変わるなんて。でも、庚が楽しそうに笑ってる。それだけで嬉しくて安心して、涙が止まらない。

 重ねられた唇は次第に深くなって。いつの間にか腰を下ろしていて。それでもまだ足りなくて。全身で、庚を感じたい。離れていた時を埋めるように。

 ガチャリ。

 ……ガチャリ?

 音のした方を見ると、しずちゃんがいた。一気に頭が冷える。しずちゃんの顔が真っ赤になって、オレは青ざめた。

「っ!?…わっ、悪いっ!」
「しずちゃんっ!?」

 慌てて飛び出していったしずちゃんを急いで追いかける。

 う、うわぁ。うわぁ。どうしよう。し、しずちゃんにあんなとこ見られたなんて!ふ、ふしだらだなんて思われたら生きていけない!

「待って!しずちゃん待って!」

 必死に追いすがって、しずちゃんの手をつかむ。

「ち、違う。違うから!」
「か、かのと?」
「違う違う違う。本当に違うんだって」

 言い訳したいのに言葉が出てこなくて、ひたすら首を振って違うと言い続けた。もう、自分でも何を違うと言っているのかわからない。ただ他に言葉が出てこなかった。

 庚が来て、どうにか場が収まったけれど、まだ言い足りない。てか全然説明できてないし。どうしようと思いながら、しずちゃんに渡されたハンカチで目元を押さえる。

 とにかく落ち着こうと息を吐いたら、なぜか庚にされたキスを思い出してしまった。そしたら庚に続きは後でだなんて言われて。考えてしまったことを見透かされたみたいで恥ずかしくなった。

 けど、その前に、まずはしずちゃんにきちんと説明したい。

「し、しずちゃん。ちょっと話がしたいんだけど、今日このあといい?」
「構わないが……」

 しずちゃんが戸惑いがちにオレの後ろを見る。多分、そこには庚がいる。だって痛いぐらいの視線を感じる。

 後でって言われたけど、誤解はもう解けたってか、き、気持ちが通じたってかだし。だったら、新たに生まれてしまった誤解をさっさと解いときたいなぁって思うんだよ。ということを庚に伝えたら、明日は二人きりで過ごしことになってしまった。何か笑顔が怖かった。置いといて。

 話の場はオレの部屋になった。ついでに夕飯もとなって、食堂でテイクアウトを頼んだのだけれどどうしよう。メチャクチャ緊張する。

 話の内容もなんだけど、しずちゃんが部屋に来るの初めてだから、そわそわしてしまう。予定してなかったから部屋片付けてないし。汚くてだらしないって思われたらどうしよう。変なもの出しっぱなしになってないよね。いや、見られて困るものはないはず。はずだけど。

 目の前のしずちゃんも落ち着かない様子で、目があうとどちらからともなく笑ってしまった。

「な、何か緊張するな」
「し、しずちゃんも?」
「ああ。かのとの部屋、初めてだし。小栗や、秋吉は来たことあるってから、少し羨ましいなって思ってて」
「え?そうだったの?」

 初耳な事実に驚く。

「ああ。まぁ、迷惑だろうけど」
「そ、そんなことない!オレだって……前にアコちゃんがしずちゃん所入るの見ていいなぁって」
「そうだったのか?」
「うん!そうだよ」

 忙しいだろうしって遠慮しちゃってたけど、しずちゃんもそう思ってくれてたならもっと早く声をかけてみればよかった。

「あ、じゃあ明日しずちゃんとこに……ってダメだった。明日は庚と約束しちゃったんだ」
「……秋吉」

 あ。名前が出てきて思い出した。そうだ。しずちゃんに庚とのことを説明したくて来てもらったんじゃないか。

「あ、あのねしずちゃん。違うから」
「かのと?」
「前に訊かれたときは、まだ本当にそんなんじゃなかったから。嘘ついたとか、隠してたとかじゃないんだよ」
「あぁ……そういうことか」
「そ、それに昼間のも……いかがわしいことをしようとしてたわけじゃなくて…オレが泣いちゃったから、その、庚が泣き止ませようとしてくれてただけで……」
「泣き止ませ……?」
「ふ、深く、深く考えないで!」
「あ、ああ」

 何で泣き止ませる方法があんなんなのかとか訊かれても答えられない。そもそも、いかがわしいことをしようとしてたわけじゃないと言っても、しずちゃん来なかったらどうなってたかわからないとか絶対に口にできない。

「仲直り、できたみたいでよかったな」
「うん。心配かけてごめんね?」
「いや……その、秋吉と付き合うんだな」
「うん。……うん?あれ?どうなんだろ」
「かのと?」
「や、その……は、はっきりとす、好き、とか、言ったわけじゃなくて…でも、つ、伝わってるはず?だし。こ、この場合どうなるんだろ?」

 きちんと告白とかがあったわけじゃなく、何か、流されたというかその場の勢いみたいな感じだった。もう、そういうものと認識してしまっていいのだろうか。てか、庚が前に好きって言ったとかいってた気がするけど、そんなことあったっけ?

 ぐるぐると考えていて、ふと気づいたらしずちゃんが微笑ましそうにしていた。

「しずちゃん?」
「悪い。ただ……二人がうまくいったみたいで、よかったなと」
「う……そう言えば、前に付き合ってるって噂、信じかけたって言ってたよね。しずちゃんにはそうみえてたの?」

 オレが庚を好きだなって思ったのは今日だったわけだけれど。しずちゃんにはもっと前からそう見えていたのだろうか。

「そうっつか……お似合いだなとは」
「なっ何で?」

 しずちゃんが不思議そうに首をかしげる。

「何でだろうな……あぁそうか。二人が名前で呼び合うようになってからか?かのと、秋吉が他の奴、特に二年生とかと話してると面白くなさそうにしてたからな」
「え?ウソ」
「ウソじゃねぇよ。木梨とかの時はそうでもねぇけど、親衛隊の隊長とかの時は」

 ぜ、全然自覚なかったんだけど!?え?オレって前から庚のこと意識してたの?いやいやいや。ただ単に自分の後輩とられたとか思ってただけじゃ、ない、かな?

「それに秋吉も」
「庚?」
「ああ。かのとといる時はもちろんだが、離れたとこから姿見つけただけで、本当に嬉しそうにしてたから」
「そ、そうだったんだ」

 それは知らなかった。

「ず、ずいぶんと見てたんだね」
「同じ生徒会の仲間だし。それに……かのとは大切な友達だしな」
「し、しずちゃん!オレも!しずちゃんとても大切な友達!その……だから、明日庚と話したら、その結果また聞いてもらっても良い?」
「ああ。……後、できたら小栗たちにも話してやってくれな。心配してたから」
「うん!」

 小栗も。

 一人でぐたぐた悩んでたつもりだったけど、皆に心配かけてしまってたのか。明日、庚と話したらその結果をちゃんとしずちゃんに報告しよう。小栗や、他の心配かけてしまった人たちにももう大丈夫だと。

 あぁ……後もう一人。

 あの先輩とも、もう一度きちんと話をしないと。





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