Gold,2
仲のいい友達。
かわいい後輩。
いいことづくめで高校生活エンジョイ中!
「かのと、最近楽しそうだな」
「そう?ふふふー」
しずちゃんが名前で呼んでくれるようになった。ちょっと苦手だなと思ってた後輩とも、誤解が解けて仲良くなれた。
いまだ、ちょっとした意地悪を仕掛けてくる時があるけど、構ってほしくてしてるんだとわかれば可愛いげがある。うん。まぁ、ちょっと。普通に甘えてほしいなーって時もあるけど。
真行ちゃんの様子が一時おかしかったから少し心配だったけど、でももう大丈夫。何があったのかは教えてくれなかったけど、最近は前みたく笑うようになったから。
多分、原因は北村なんだと思う。北村に対する態度がおかしくなってたから。きっと、何かされたか言われたかしたんだ。力になってあげたいのに、話してくれないのは寂しい。けど、だからかわりに何もなかったように真行ちゃんに笑いかけた。
前にきーくんが、辛いときは傍にいるだけで充分だと言っていたから。
自分勝手なのはわかってるけど、真行ちゃんと北村に距離ができたのは嬉しいし。
「……なぁ、かのと?」
「んー?なぁに?」
「ちょっと、立ち入ったことを、訊いてもいいか?」
「なにー?しずちゃんからの質問だったら何でも答えるよ!」
どんとこいだ!
「その……あ、秋吉と、付き合ってるって、聞いたんだが」
「庚?え?付き合ってるって誰と!?」
何それ知らない。聞いてない。庚に付き合ってる人がいただなんて!教えてくれないなんて水くさい。せっかく仲良くなれたのに。それとも、オレが勝手にそう思ってただけなのかな。だったら寂しい。
「あ、いや、かのとと秋吉が付き合ってるって噂があると聞いたんだが……そうか。違うのか」
「えっ!?何それっ!?」
「………オレも聞いたな」
「っ!?」
「夏川?」
告げられた内容も衝撃的だったけど、いきなり別の声が割り込んできたのにも驚いた。
「廊下で何くっちゃべってんだよ。邪魔だっつーの」
「あぁ……悪い。生徒会室に用か?」
ビックリして振り返ったら、そこには風紀の委員長が。相変わらず不機嫌そうにしていて、ちょっと怖い。
「ああ。生徒会室つかお前にな」
ほらと委員長がしずちゃんに書類を渡す。それから、で?とこちらに視線を移した。
「デマなのか?」
「で、デマだよ!オレ初耳!庚はかわいい後輩だよ?」
「そうかよ」
「夏川も噂を聞いたのか?」
「あ?あー……噂っつーか」
何でか委員長は嫌そうに顔をしかめた。そして視線をそらす。
「……そう、言ってる奴がいたってだけだ」
「……それを噂聞いたって言うんじゃ」
「あ?」
「っ!」
委員長に睨まれ、ついしずちゃんの後ろに隠れてしまう。
だ、大丈夫。怖くない。手を出さなければ噛みつかない、はず。
「大体、噂にはなってねぇよ」
「そうなのか?」
委員長がイライラと頭を掻く。しずちゃんは不思議そうに首をかしげてるけど、怖くはないのかな。委員長、機嫌悪そうなのに。わりといつものことだけど。
「……噂ならお前らん時のが酷かったじゃねぇか」
「あー……」
「え?何?何の話?」
オレだけ知らない話?
気になって二人に訊いてみるけど、しずちゃんは困ったように笑って、委員長はバカを見るような目で見てきた。
委員長ひどい。
「何?お前知らねぇの?」
「何を?」
「一時噂になってたんだよ、お前ら。金本が水瀬に迫ってるって」
「え?……えーっ!?何それ!?何でーっ?」
「うっせぇな。自分の行い振り返ってみやがれ」
「わっかんないよ!しずちゃんはオレの大好きな友達なのに!」
「それだ、それ。好きだ何だ言ってっからんな噂なったんだっつーの」
な、何てことだ。全然知らなかった。がっくりと膝をつく。
「……まぁ、噂なんて大抵本人の耳には入らないからな」
「でも広まれば気づくだろーが」
「うぅ……しずちゃんごめん」
オレのせいで変な噂流れてしまって。
「いや、気にしてねぇし」
「ありがとー。後で庚にも謝っとかなきゃ」
「いや、だからそれ噂にはなってねぇって」
「でも委員長もしずちゃんも聞いたんでしょ?ならやっぱ噂になってるんじゃないの?」
見上げた先の委員長は心底、本当に心底嫌そうな顔をしていた。どうしたのだろうと首をかしげる。しずちゃんも不思議そうにしついた。
「夏川?」
「……いや。つか水瀬や転校生みたいにはあの一年に引っ付いてねぇだろ」
そういわれてみれば。
どういうことだろうとしずちゃんを見ると、首を捻っていた。
「でも、かのとと秋吉はかなり仲がいいぞ?本当かもって思っちまったし」
「え?そんなに仲良く見えてた?」
わーい。嬉しいなぁ。ってよくない。仲良く思われるのはいいけど、それはよくない。
「……しずちゃん、本当かもって思ったの?」
「あ、いや……悪い。あんまりにも仲がいいから、つい」
「うー……違うのに」
「まぁ、お前がノンケだってのは有名な話だしな」
「よかった。本当にもう、何でそんな話に……」
……………あれ?
「かのと?どうかしたか?」
「あ、ううん。何でも、ない、よ?」
「つかいつまで座りこんでんだよ」
「あ」
慌てて立ち上がり、ズボンをはらう。
「……委員長、用って書類だけ?」
「いや。球技大会に関して確認してぇこともある」
「そうか」
なら、生徒会室で話すかと止めてしまっていた歩みを再開する。随分と長いこと立ち話をしてしまっていた。いや、オレは途中から座り込んでたけど。
歩きながらも、しずちゃんと委員長はすでに球技大会の話を始めている。けど、その会話がオレの耳には入ってこない。
だって、何かとんでもないことを思い出してしまった気がする。
庚と噂になる覚えなんてない。そう、言おうと思ったのに何かがひっかかった。何か、おかしなことがあった気がする。
そして思い出してしまった。
多分、オレは庚にキスされたことがある。
悲しくて泣いてしまって、一人では立ち上がれなかった時、庚が手をひいて立ち上がらせてくれた。前に進ませてくれた。
あの時、庚はオレの目を舐めて笑って。その後、目隠し状態になってたから確証はないけど、口も舐められた。
口を舐めるって、それってキスだよね。何で?だって普通そんなことしないよ。いくら仲良くても、いくら泣いてたからと言っても、そんなことしないはずだ。
だったら……。
庚は、オレのことが好きなのだろうか。先輩としてではなく、そういった対象として。そう考えるのは自意識過剰かな。そんなそぶりは一切ないし。その、キスされたってのを抜かせば。
あぁぁ……どーして今までこんな重大なこと忘れてたんだろ。
訊けば大したことないのかもしれないけど、今更すぎて訊けないし。気のせいだったのかなぁ。気のせいじゃないよなぁ。
何か、感触まで思い出してしまった。
ど、どうしよう。どうしたらいいんだ?
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