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 良いこととは続くものだ。

 あまりにトントン拍子に進んでいき、正直拍子抜け。

 まぁ、都合が良いから良いんだけど。

 顔を出せば快く迎え入れてくれる。その集まりには金本先輩も当然いるわけで。結果、毎日一緒に過ごせている。

 まぁ、何度か金本先輩は放課後居残り命じられて来るの遅かったりしたけど。良いのかね。生徒の規範となるべき生徒会が居残りとか。

 書記君もたまに後から来たり来なかったり途中で帰ったりしてるけど、何でかは知らない。赤毛の先輩や影の薄い先輩は時おりふらりと姿を消す。

 赤毛の先輩の時はそうでもないけど、影の薄い先輩がいなくなると真行先輩がそわそわしだす。何てか分かりやすい。

 そして金本先輩は見るからに安心してる。こっちも分かりやすい。確かになんか得体が知れないもんな、あの先輩。でも、他の人の挙動で怯えたり安心したりしてるのを見るのは面白くない。

「こないだ言ってたDVD持ってきましたよ」
「本当か?皆で見よーぜ」
「じゃあ、セットしますね」

 オープニングが流れ始め、周囲にあれ?という空気が流れ始めた頃、わざとらしく声をあげる。

「あ、すみません。間違えました」

 わざと中身を入れ換えて持ってきたのは、怖いと評判のホラー映画。隣に座る金本先輩が硬直したのがわかる。内心で笑みを深めた。

「これ、ホラーだろ」
「どーします?このまま見ますか?」
「………興味があるのです」
「えっと、じゃあ怖いのダメな奴いるかー?」

 真行先輩の問いかけに誰も名乗りをあげない。じゃあこのままでとなったら、パチッと電気が消えた。

「うぉっ!?って、アコかよ」
「………せっかくだから」

 ナイスアシスト!書記君!

 金本先輩がビクッと怯えた。やっぱ怖いんだな。できれば見たくないんだろうな。でもそんな情けないこと言えないよな。アハハ。

 暗い室内に流れるおどろおどろしい音楽。恐怖を煽るプロローグ。隣にいる金本先輩はガチガチに硬直してしまっている。すでにこんな状態で、終盤に差し掛かったらどうなるんだと考えると、愉快でならない。

「…………金本先輩」
「っ!?な、何っ?」

 他の人に気づかれぬよう、そっと声をかける。大袈裟なまでに驚いてるけど、この人大丈夫か?恐怖のあまり心臓止まったりしないよな。

「すみません。手、握ってもらっても良いですか?」
「へ?」
「この映画、かなり怖いんで」

 弱々しく告げれば、少し考えた後、金本先輩の表情が明るくなる。

「秋吉も怖いのダメ?いいよ。ほら」

 同類がいたとか、後輩に頼られたとかで嬉しくて仕方ないのだろう。一応、怖いのが苦手とは一言も言っていないのだが。笑いを堪えながら差し出された手を握る。

 画面の中ではヒロインがありきたりな学生生活を送っていた。何気ない日常が、話が進むにつれて不穏な空気になり始める。横目で隣をうかがえば、金本先輩の意識は映画に集中している。

 握る力を込めれば、ちらりと視線が向けられる。きっと、驚いたかなんかしたと思ってるんだろうな。そんなことを考えながら、手の感触を楽しむ。

 話は進み、何か起きそうな雰囲気になったり大きな音がしたりすると、金本先輩の手を握る力が強くなる。何もなかったとわかると弱まって、面白いぐらいに感情が伝わってくる。

 途中からほとんど画面を見ずに金本先輩を観察していた。怖くて、見てたくないはずなのに視線はしっかりと画面に固定されている。そらしたらそらしたで怖いのだろう。瞼を閉じても音は耳から入ってくるし。

 歪む表情にテンションが上がる。表情と呼応する握力。泣くかな。泣かないかな。泣いてほしいけど、今は他にも人がいるし。我慢してるのもなかなか。わななく唇もいい。

 山場に差し掛かってくるともう、ずっと力の限りに握りしめてきて。あぁ、怖いんだな。本当は逃げ出したいんだろうなって。

 どうせなら抱きついてきてくれたっていいのに。流石にそれはプライドが許さないんだろうな。真行先輩は何か影の薄い先輩にすがり付いてるけど。

 どうにか事件が一件落着し、ヒロインに日常が戻る。切ないけれど、前を向いて。そんな空気になりかけると、もう大丈夫だと思ったのだろう。金本先輩が手を離そうとした。

 けれど強く握りしめそれを阻む。疑問の視線を投げ掛けてきた金本先輩に笑顔を送り、画面に視線を向ける。つられて金本先輩も画面を見る。そして目にしたシーンは…………。

「…………」
「…………」

 パチッと明かりがつけられた。見れば赤毛の先輩がスイッチを押していた。

「…………エグい」

 ポツリと呟いたのは書記君。エグいという表現は正しくない気がするが、気持ちはわかる。だからこそこれを選んだんだ。てか、安心させといて落とすなんて基本じゃないか。

 赤毛の先輩は大したダメージないのか、さっさとコップを持ってキッチンに行ってしまった。影の薄い先輩の様子はよくわからないけど、真行先輩を落ち着かせようとしている。適当に。

 書記君は何かを振り払うように頭を数度振っていた。顔はしかめられている。人並みにショックは受けているよう。副会長先輩が顔を輝かせている意味はわからないけど、この人基本ずれてるみたいだし、何か違うものが見えていたのかも。

 そして隣にいる金本先輩といえば。

 手をぎゅうと力の限り握りしめて硬直している。ショックが大きすぎたようだ。魂が抜けてる。手を離そうとしても離れない。

 このまま悪戯してもいいけど、流石に人目のあるとこじゃ。もったいないけど肩を揺すって声をかける。

「金本先輩。終わりましたよ。金本先輩?」
「…………っ!?………ぁ、秋吉?」
「手、ありがとうございました」
「あ、うん。よかった。ちょっと」

 手を離すとふらふらと玄関に向かってしまう。大丈夫か?まだ正気には見えなかったけれど。様子を見にいこうとしたら、副会長先輩の声が聞こえた。

「感動したのです」

 は?

「今まで、ホラー映画とは恐怖映画のことを言うのだと思っていました。違ったのですね」

 いや、ちがくないから。

 何かかなり気になることをいい始めたけど、とりあえず今は金本先輩だ。

 玄関に向かうと、ドアの手前でしゃがみこんでいた。何をしてるのかと思えば携帯で話してるようで。

「小栗、小栗。お願いがあるんだけどいーい?ん。今晩泊まってもいい?うあー、怖いの見ちゃってー。一人じゃ寝れないー。うんー」

 小栗って誰だよ。

 しかも泊まるってなんだよ。きっと怖くて寝れなくなるだろうなとは考えていた。ある意味期待もしていた。そしてあわよくばとか思っていただけに、この流れは腹立たしい。

 明日はもっと意地悪してやろう。何がいいかな。あー楽しみだ。





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