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ふくつの精神




 新しいクラスメイトができた。

 転校生ではない。

 転校生が来たのはもっとずっと前。新しいクラスメイトはその転校生にかまけてやるべき事を放棄し、問題を起こしまくったあげくリコールされクラス落ちした‘元’生徒会副会長サマだ。

 この元副会長サマ。ふてぶてしいというか、懲りてないというか。初日から態度が悪かった。

 不愉快です。不服です。馴れ合う気など毛頭ありません。下民の分際で話しかけてくるんじゃねぇよ、カスが。と言った雰囲気を隠す気もなく、むしろこれでもかと言うほどに漂わせていた。

 孤立しないわけがない。

 反省してないどころか、非があるのは会長や学校側、ひいてはその他生徒なのだと。

 ただでさえクラス落ちでウチのクラスかよ。ウチらどういう扱いなんだといった不満があった。成績順のクラス分けなのだから仕方がないのだろうが、このババを引かされた感。簡単に言えば問題児を押し付けられた。

 担任なんかはのんきだから、仲良くしてやれよーなどと言っていたが、本人が仲良くされる気などないので難しい。触らぬ神に祟りなしなのか、くさい物には蓋をしろなのか、皆遠巻きにするだけ。

 不登校にならないだけ偉いけど、クラスの空気はよろしくない。文化祭の準備にも参加せず、下らないものを見るような目をしていた。

 けれど流石に新生徒会メンバーが決まると、我関せずの態度が崩れる。よくない方向に。新メンバーが紹介された時、元副会長からは殺気がほとばしっていた。

 壇上にいる二名は、元副会長と深い関わりがある。一人は彼の元親衛隊副隊長。図太い彼は壇上から元副会長の姿を目ざとく見つけると、にこやかに小さく手を振った。

 元副会長の殺気が増した。

 そしてもう一人。元副会長の後釜におさまったのは、元副会長が毛嫌いしていた人物。底辺と見なしていた相手が自分の後釜ということで、歯軋りが聞こえてきた。南無三。

 まぁ、そんなわけで元副会長がいるとクラスの空気がピリピリしてる。いい加減どうにかしてほしいなぁと思っていたら、ビックニュースが飛び込んできた。

 生徒会長と風紀委員長の交際発覚。新聞部のスクープに両名は否定を示さなかった。したら当然の事、事実として話は広まった。

 そんな頃に、元副会長サマがご乱心しているのを発見。

 お昼休み。人気のない非常階段の踊り場で。ひたすら腕で壁を叩いていた。反対の手では校内新聞を握りしめている。確か今回の記事は聖夜祭を控えた生徒会連続インタビュー、最終会長様の回だった。

 クソッと吐き捨てながら壁を叩きつける姿を目にして、苦笑が浮かぶ。この親衛対象にしてあの親衛隊隊長有りだ。

 彼の元親衛隊隊長は、解散させられようが親衛対象がリコールされようが活動を続けている。目下の活動内容が会長への嫌がらせなのだから何とも言えない。

 先日など、カメムシを送りつけ新副会長を硬直させていた。

 さて。いくら会長憎しといえ、これ以上放置してたら元副会長の手が痛んでしまう。何より、この感情のままにしといたらまた問題を起こす可能性があるので止めることにした。

「なーにやってんすか?」
「……………」
「腕痛めますよ。元副会長サマ」
「……………何それ嫌味?」

 声をかければ腕の動きは止まった。けれど俯いたまま返事がないので、下から顔を覗き込む。にこやかに忠告したのに睨み付けられてしまった。何故に?

 少しきついけれど覗き込む体勢のまま首をかしげた。顔をしかめた元副会長が壁から離れこちらを向く。それにあわせてよいしょと背中を伸ばした。

「その呼び方」
「元副会長サマ?事実ですよね?」
「……………」
「それに、名前呼ばれるのお嫌でしょうし」
「はっ、当たり前だろ」

 見下すように笑われてしまった。もう本当に苦笑するしかない。きちんと受け答えしてくれるだけマシか。本題に入ることにしよう。

「会長の事、やっぱ許せないんですか?」

 それ、と手にしてる校内新聞を指せば、元副会長の顔は歪んだ。前は綺麗な顔してたのに、転校生が来てからは台無しだ。

「だったら?告げ口でもする気?」
「いいえー。んなことはしませんよ」
「何?じゃあ媚でも売る気?オレなんかに売ったとこで見返りなんかないけど?」

 オレ‘なんか’ね。

「まぁ、オレは会長のファンですし?元副会長サマに媚売るつもりはないんでご安心を」

 ヘラッと笑って見せたら、殺気を向けられた。おお、こわっ。

「ただまぁ、クラスメイトが悩んでれば話は別ですよー」
「クラスメイト?」
「オレ、クラスメイトですよー。認識してないでしょうけど」
「……………」

 あぁ……何か不信な目で見られてる。

「えーと、それにもったいないじゃないですか。元副会長サマ。こんなトコで燻ってるなんて」
「……………何をさせる気?」
「何をってほどでは。ただ復讐するにも色んなやり方がありますよと」

 壁に背を預けた元副会長がゆったりと腕を組み、アゴで先を促してくる。偉そうな態度だなぁ。

 でも少しは気を許してくれたのだろうか。

「相手を貶めたり害を加えるのは二流以下のすることですよ?一流の復讐ってのは自分の力で相手の上に立つことです」
「へぇ?」

 わずかに笑んだ元副会長が、口元に指先をそえる。

「つまり、あいつには手を出すな。やるなら自力でのしあがって、格の違いを見せつけてやれと?」
「まぁ、そんなとこです」
「確かに、相手を貶めるのは自分の能力が相手より低いと自覚してるからだろうな。今は駒もないし」

 駒とか言い切ったよ、この人。

「だがいいのか?それだと憧れの会長サマの無能ぶりが白日の元に晒されるぞ」
「そん時はそん時で。会長の見込み違いだったってだけの話ですよ」
「そうか。……………お前、名は?」
「へ?……えっと、瀬田昭義、です」
「オレは三井あつむだ」

 これはもしかしなくとも自己紹介なのだろうか。

 ニヤリと笑う元副会長こと、三井にへらりと笑う。何だかんだで信用してくれたみたいだけとこれ、オレが隠れ風紀委員と知れたらどうなるのだろうか。

 主な仕事内容がリコールされた元副会長の監視と知れたら、どうなるのだろうか。

 まぁ、今回声かけたのは委員会全然関係ないけど。会長が、雑草魂のあるエリートなんて最高だろと言ってたからだけど。

 他の元役員はダメだった。元会計は早々に転校していき逃げた。元庶務は回りの視線に耐えきれず、寮部屋に引きこもってる。元書記に至ってはリコール前と変わらず転校生を追いかけ回すという愚行ぶり。

 風評をはね飛ばし、授業に出席し始めたのは元副会長ただ一人。見込みがあるのは一人きりだった。

 だから口を出した。

 会長の望む雑草魂のあるエリートに育ってもらうため。会長の元につくことはないとわかってるけど、望む姿を見てみたかった。ライバルと呼べる存在を欲している会長のために。すでに委員長がいるが、競う相手は多い方が楽しめる。会長はそんな人だ。

 元々一人であれこれ楽しんでいたオレは、元役員のリコール後、会長直々に声をかけられた。けれど目立つのは主義でないし、どうせなら憧れの人の元でなく、別のところから役に立とうと風紀入りした。

 その場にいた一年はすでに名が広まっていたので、彼に生徒会の方を任せて。彼はどちらかというと委員長に恩義を感じていたが、生徒会内部から風紀委員が動きやすいよう仕向ける手もあると説得した。

 そうだ。説得したのはオレだった。これも知れたらどうなるのだろう。

 目の前の元副会長を眺める。

 そもそも今回の接触もバレたら叱られることだろう。何と言ったって、オレの任務は内密に元副会長を見張ることなのだから。

 けれどまぁ、どうにかなるでしょう。





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あきゅろす。
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