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Gold




 ダメだよ。その人はやめて。

 好きな人がいるのは知ってたけれど。

 でもどうして、よりにもよってそいつなの?



 Gold



 中学までは普通に公立の学校に通っていた。住んでいたの安い賃貸マンション。母は倹約家で、父は気の優しいサラリーマン。弟は生意気。どこにでもある、普通の家庭だった。

 けれど祖父の死をきっかけにそれは崩れる。

 父が祖父の仕事を継ぐことになり、ついては実家に身を寄せる必要があると。祖父は遊びに来るばかりで、父の実家にそういや行ったことないなとぼんやり考えてたら何故かあわや離婚の危機。

 どうにか三人がかりで母を説得し、最終的には泣き落とし。そして新しい家へと赴きびっくらこいた。

 今まで見たことないくらい立派な家だったのだ。お手伝いさんがいるような家だなんて聞いてない。

 知らなかった話だけれども、祖父は大企業の社長さんだったらしい。父はその後継者。ごく一般的なサラリーマンではなかったそうだ。

 今までの生活は母が望んでのものだった。金持ちの世界にはついていけないからと。確かに、何も変わらないと思っていたけれど、やっぱりどこか違和感があって戸惑うことが多かった。

 極めつけは高校進学。

 父も通ったと言う所に進むことになった。ちょっと特殊と言うことに引っ掛かりは覚えたけど、通う生徒などどこも同じだと思っていた。

 全寮制で、家族と離れるのは寂しかったけれど。やたら豪華で、度肝を抜かれたけれど。男子校と、聞いていたよりはむさ苦しくなかった。

 入学式が終わって教室にはいると、途端に所在がなくなった。クラスに外部生はオレ一人だけだったらしく、皆遠巻きに見るだけ。何となく、こちらからも声をかけにくい雰囲気があった。

 でも、友達ほしい。卒業までボッチは嫌だ。よしっと決意し立ち上がった瞬間、遅れてきた生徒がいた。

「あっ!」
「ん?」

 見たことのある顔に思わず声が上がる。目が合ったのでこれ幸いと近づいた。

「入学式で挨拶してたよね?オレ、金本。え〜と、ごめん。名前なんだっけ?」
「………水瀬だ。金本、外部入学だろ?」
「え?やっぱわかるもんなの?」
「ああ。………この学校の説明、誰かから聞いたか?」
「説明?パンフなら見たけど?」

 大きく首をかしげる。

 まぁ、見ただけでちゃんと読んではないけど。だって、学校の成り立ちとか教育理念とか興味ないし。

「寮の同室者からは何も聞いてないか?」
「あー…、何か無愛想な奴で。会話してくんなかった」

 こっちがちゃんと挨拶したって言うのに、人の顔じっと観察したあげく嫌そうに顔しかめて。本当に何だったんだろう。

 水瀬があちゃあと言う風に額を押さえた。

「どうかした?」
「いや……金本は顔が整ってるからな」
「え?うわぁっ、ありがとうっ」

 イケメンに顔誉められた。

 ‘顔だけ’ならいいのにとよく言われた。しゃべるとバカっぽいと。中学の文化祭では客寄せをやらされたけど、クラスメイトから絶対に口を開くなとの厳命を受けた。ひどい。

「……えーっと、水瀬もすごく男前だと思うよ?」

 言ってて恥ずかしくなって、両手で自分の頬を抑える。そうか。イケメンはこういうことをさらっと言えるからカッコイイのか。照れてたらダメなのか。

「ありがとう。で、説明なんだか、とりあえず中に……」
「うわ、デカっ」
「ん?」
「お?」

 水瀬の言葉の途中で、水瀬の背後に人影が現れた。思わず感想がこぼれる。

「………あかり先輩」

 振り返った水瀬の頬がひくりとひきつった。

「ダメじゃん静癸ー、教室に戻ったりしちゃ」
「いえ、担任の挨拶がありますし、話はもう済んだので」
「覩月さんから連れてきてって頼まれたぞっ」
「………」

 グッと親指を突き出し、ウインク付きで告げる背の高い先輩。水瀬の視線が遠くなった。思わず肩を軽く揺すれば、はっと我にかえる。

「で、こっちの彼は?」
「………彼はクラスメイトの金本…」
「金本かのとです」
「オレは二年の東山あかり………金本、ねぇ?」

 なぜか頭の先から爪先までをじっくり検分され、緊張が走る。

「金本、外部生だろー?」
「あ、はい」
「この学校のこと色々教えてやるからちょっと一緒に来ようか」
「へっ?」
「あかり先輩っ!」
「大丈夫。大丈夫。……こいつら借りるから、先生来たらよろしくなー!」
「………金本、すまない」
「え?」

 教室の中に大声で告げると、東山先輩はオレと水瀬の肩に手を回し、強制連行。わけのわからないまま連れていかれたのは生徒会室だった。

 首席入学の水瀬は最初から補佐に決まっていたらしい。何でか流れでオレまで補佐になることに。いや、確かに生徒会で雑用やってれば学校のことよくわかるけど。

 目一杯こき使われた。新入生であるオレらを歓迎するはずの新歓の準備まで手伝わされた。

「外部入学で即生徒会補佐なんてすごいよね」

 そう、言ってきたのは新歓で同じチームになった先輩。一二年各二人づつのチームで、三年の出題するクイズに答えていくクイズラリーでの途中のこと。

「僕も外部入学だったんだ」
「あ、そうなんですか?」
「その容姿で生徒会補佐だったら、親衛隊すぐにできるんじゃないか?」
「あ、それ僕も思った」

 親衛隊。説明自体は聞いていた。できるかもないやできるだろ的なことも言われた。でも、オレにとっては現実味のない話で、ただの冗談だとしか思えなかった。

 なのに、

「もうそういう話出てますよ。金本さえよければこのまま結成させたいんだが」
「え?」
「迷惑はかけないようにする」

 まっすぐにそう告げてきたのは、この日初めて会った同学年の奴で。オレは、人に憧れられるような人間なんかじゃないのに、なのに親衛隊とか。

 だって、そもそも同世代じゃないか。ブラウン管の向こうにいるわけでもない。だから、尊敬の眼差しなんかよりも、バカ言って笑い合える関係の方がいいのに。

 なのにどうしてこうなる。

 親衛隊なんかよりも、友達がほしい。

「小栗が?」
「水瀬、知ってんの?」
「ああ。小栗なら心配ない。任せていいと思うが……」

 新歓の後に水瀬に相談してみたら、結成にたいして肯定的な返事で戸惑う。それを察した水瀬が、苦笑した。

「まぁ、難しく考える必要ないさ。金本が嫌なら無理強いするわけねぇし」
「う…ん」
「………ここ、娯楽少ないだろ?」
「ん?」
「だから皆、何かしら騒げるものがほしいんだ」
「………」

 仕様がねぇよなと苦笑して見せる姿は、自分がということに納得はできていなくても、受け入れてはしまっている様子で。

 受け入れきれていないオレから見れば、ああやっぱり水瀬もそっち側なのかと思わせるに十分だった。

 高校なんて、どこも同じはずだったのに、ここはまるで異世界だ。





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あきゅろす。
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