■がぶり2
双子兄視点。
朝から教室でおかしな噂を聞いた。
まっさかと笑い飛ばしといたけど、クラスメイトには確認とってくれと頼まれた。でもちゃんと釘刺しといたんだし、あり得ないよねぇ?
お昼休みに教室を出たら、ちょうど相棒が訪ねてきたとこ。
「ねぇ聞いた?」
「聞いた。聞いた」
「あり得ないよねぇ?」
「ねぇ?」
二人で笑い合って、でも頼まれたからと確認する目的も込めて食堂に向かう。目当ての人物は必ずいるはずだし。
クラスでの事を話ながら歩いてると、ぱこんと頭に衝撃を感じた。
「いった」
「あ、風紀の副委員長だ〜」
「えー?風紀の副委員長〜?」
あ。本当だ。振り返ったら何かいた。片手に書類の束がある。それで頭を叩いたのか。
「おい、双子」
「何〜?てか、頭なんて叩いてバカになったらどうしてくれんの〜?」
「したら、成績も同じになってちょうどいいんじゃね?」
「それ、暗に僕の方が成績悪いって言ってる〜?」
「暗にじゃなくて明らかに」
相棒が文句を言ってるけど、これに関してはフォローできないなぁ。事実だし。
「んなことより、お前ら委員長見なかったか?」
「委員長〜?見てないよ〜」
「副委員長も噂聞いたの〜?」
「噂?」
訝しげに首をかしげる。どうやら知らないようなので、相棒と顔を見合わせてから説明した。話を聞いた副委員長は表情を歪ませる。
う〜ん。言わない方が良かったかなぁ。でもその内耳に入るだろうし〜。早めに知っといた方が対策とりやすいよね。
副委員長がため息をつく。大変そうだなぁと苦笑した。
「どう考えてもデマだろうけどね〜」
「接触しないよう、釘刺しといたし〜」
「………いや。この前接触したんだろ?」
この間のあれかと、相棒と顔を見合わせる。
「あ〜…でも一瞬だったし〜」
「会話もしてないから、興味の持ちようもないでしょ〜?」
会長は次郎丸に似てるって興味持ってたけど、近付かないように言い聞かせておいたし。委員長は気まぐれだから、すぐに会長の事を忘れるだろう。
「………幻の生徒会長見つけたつって、興味津々だったぞ」
「幻〜?」
「あっちゃ〜」
ぺしりと己の額をはたく。
「お前ら役員どもが変に隠すからツチノコ扱い」
隠すと言っても、それはほぼ副会長がやってたことなんだけどな〜。会長のこと好きだから危険人物近づけないようにして。
よく会長と一緒にいるちっちゃい先輩は、自分が委員長嫌いだから避けてて、なおかつ会長にも接触してほしくないみたいだし。
オレらはそんな二人に便乗してただけなのに〜。まぁ危険人物には関わらないでほしいけど。ほら、これ親心。会長のが年上だけど〜。
「………ツチノコは見つけたら賞金出るけど、会長見つけても賞金でないので探さないでください」
「むしろ保護指定動物なので、むやみやたらに近づかないでください」
「オレに言っても無駄だから」
「何で〜?ちゃんと委員長管理しといてよ〜」
「そーだよ。あんな猛犬、放し飼いしといたら危ないじゃん〜」
ブーブー文句を言う。
「うっせーな。んなに言うなら、むしろ会長の方繋いどけよ」
「うっわー、鎖で繋ぐとか副委員長鬼畜〜」
「親衛隊に言いつけちゃうぞっ」
「………お前らな」
とりあえずと言うか、とにかくと言うか。副委員長は委員長に、オレらは会長に事情聴取することに。
委員長見つけるの大変そうだよな〜とか思いながら、当初の予定通り相棒と食堂に赴く。
そこではやっぱり、会長とちっちゃい先輩がいた。ちっちゃい先輩いると聞きにくい。でも、顔を見合わせた相棒はむしろ嬉々としていた。
「お、双子」
「会長〜質問してもいい〜?」
「委員長にパックンされたって本当〜?」
「っ!?」
目を見開いたちっちゃい先輩が、ものすごい勢いでオレらと会長を見比べている。おー、いい驚きっぷり。やっぱ聞いてなかったか。
ちらりと隣を見ると、相棒がその反応に気をよくしている。
「パックン?」
「そ。食べられちゃった?」
「何を?」
「会長を〜」
「食べられるわけないだろ?」
「だよね〜」
変なこと訊くなぁと呟く会長の隣に、笑いながら腰を下ろす。相棒は向かいのちっちゃい先輩の隣に。
二人はすでに食事を始めていて、オレらは料理が運ばれてくるのを待つ。すると今度は副会長がやって来た。
めちゃくちゃ殺気だっている。
これは完璧に噂を聞いたな。
「………会長」
「何だ?」
がしりと、端から見てても痛いほど力強く会長の肩を掴む。
「会長。正直に答えてください」
「え?オレ何かした?」
戸惑って視線を泳がせる会長。副会長は構わず訊ねた。超直球で。
「委員長に強姦されましたか?」
「………………は?」
あ、やばい。吹き出しそう。顔をそらして必死に笑いをこらえる。向かいにいる相棒も、肩を震わせていた。ちっちゃい先輩は二度目なので余裕だ。
「そんなことされるわけないだろ?」
何をバカなことをという声色。その言葉は予想通り。副会長がほっと息をつくのがわかった。
でも続く言葉は聞き捨てならない。
「合意だから大丈夫」
「「………………は?」」
目の前の相棒と声が揃う。
ガタンと立ち上がったのはちっちゃい先輩。
「な…だ…だって、さっき!?」
「ん?」
言葉にならないちっちゃい先輩に代わって、問いつめることとしよう。会長の両手を包み込んでこちらに向かせる。
「会長、さっき食べられてないって言ったよね〜?」
「食べられるわけないだろ?食人鬼じゃあるまいに」
言葉通じてなかったよこの人。
丁寧に意味を説明してあげたら、そうかと納得してくれた。
「なら食べられた」
「うん。近づいちゃダメ〜って言ったのに近づいたんだね?」
「あ」
「噛まれて狂犬病になったらどうするの〜?」
しまったと視線を泳がせる会長に、言葉を畳み掛ける。するとなぜか嬉しそうに顔を綻ばせた。
「大丈夫。甘噛みだったし」
噛まれたのか。
「それに犬じゃないから大丈夫だって」
本人に言ったのか。噛まれたら狂犬病になると。とんだチャレンジャーだな。十中八九、何も考えてないからだろうけど。
「会長〜、生徒会長自ら校則違反しちゃダメじゃん〜」
「校則違反?」
楽しそうに茶々を入れる相棒。会長がキョトンと首をかしげたので説明する。
「不純交友は校則違反〜」
「それなら大丈夫だぞ。ちゃんと純粋な気持ちだ」
えへんと胸をそらす会長。あらやだこの子話通じない。そこがかわいいんだけど。
相棒が吹き出したのを聞き流し、さてどうしようと考えを巡らせる。茫然自失としていた副会長が、ようやく言葉を絞り出した。
「………………好きなんですか……委員長のこと……」
「好きだな」
「僕たちは〜?」
「好きだぞ?」
フォローのつもりでした質問だけど、会長は容赦なく上げて落とした。
「でも委員長に対するのとは違う好きだ」
「よぉ、何か面白そうな話してんなぁ。あ?」
あらやだ。言いたい意味わかってたよこの子。副会長が打ちのめされると、タイミングよく現れた委員長が会長の背中から抱きついた。
「お、委員長」
「あ?今日は名前で呼んでくれねぇの?」
「ああ」
「ふぅん?」
「……うぉ」
「顔貸せ」
「え?何?」
悪どい笑みを浮かべ、委員長が会長をひょいと肩に担ぐ。そしてそのまま断りなく会長を連れ去る。
何をしに来たんだあの人。
訳もわからず見つめていると、背中の会長と目が合った。手を振られたので振り返しとく。
何なんだろうこの状況。
瀕死の状態の副会長とか。顔を覆って項垂れるちっちゃい先輩とか。それを楽しそうに慰めてる相棒とか。
考えることは沢山あるのに、そんなことよりもまず会長の食べ残しどうしようと悩んでる自分とか。
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