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 何これ、何のご褒美?

 そう言いたくなる状況にオレの思考は停止していた。

 金本の親衛隊との合同お茶会では気づいていなかった事を知ることができた。それはもう、存分に。

 例えば、転校生の周りは親衛隊持ちばかりだったこととか。彼以外だけど。

 自分の周りが親衛隊持ちか親衛隊に入ってる奴だけだったから気づいてなかった。違和感なかった。

 てか、亜甲はともかく、秋吉ももう親衛隊がいるのか。一年なのに。

 例えば、彼らが朝も昼も放課後も一緒にいるから転校生に惚れたのではと噂が回ってるとか。

 いや、それはないだろ。金本は友達増えて浮かれてるだけだし。亜甲は気になることがあると言ってただけだし。中臣先輩は……先輩の隣に立てるのは土井先輩ぐらいだ。

 木梨と秋吉に関しては、詳しく知らないからわからないけど。そ、それに、彼は友達として側にいるだけのはずだ。そうであってほしい。

 例えば、オレだけ一緒にいなかったから、他の連中が仕事サボって一人で処理してるのではと疑惑が上がってるとか。

 それは全くの誤解だ。申し訳ないほどに。行けば良いと言ったのはオレだし、一緒に遊ぼうとすらしていたのに。

 例えば、その他もろもろの事情で各親衛隊内に不安や戸惑いが広まったこととか。

 例えば、それにともない彼が何度か呼び出しを受けていた事とか。

 まぁ、話を聞いたら金本のところはああ見えて怖がりだからと、友達付き合いをする上での注意点等を説明したらしい。あそこは過保護だから。

 オレのとこは、例のお茶会がそれに当たるらしい。驚いただろうな。彼。校舎裏に呼び出されたらレジャーシートの上にティーセットが用意されてたとか。人目につきたくないのはわかるが、ならせめて温室のテーブルセットでも使えばよかったのに。

 例えば、そんな空気を察知した他の生徒たちも妙にそわそわしているとか。

 例えば、その空気を受けた風紀委員、主に委員長が殺気立ってるとか。

 恋に浮かれている内に、周囲では色々展開していた。

 とりあえず、お茶会に参加している連中には誤解を解いておこうと色々話をした。だが、問題は他の親衛隊や一般生徒。

 制裁云々は誤解だったと赤塚から連絡があった。だが、油断は禁物だ。とにかく、まずは各親衛隊の話を聞かないことには始まらない。その調整を魚住に頼む。

 亜甲の所はともかく、他はあまり関わったことがないので不安は残るが。

 そんなことを考えつつ、翌日の放課後一人で生徒会室にいた。今日処理する分の書類を分けていると、ノックの音が響きドアが開いた。

「会長!真行ちゃんたちが手伝ってくれるって!」

 て、つだい?

 嬉しそうに報告してきた金本の横には転校生がいて。当然、彼もいるわけで。言葉の意味を理解した途端、顔を背けてしまった。

 手伝いって、生徒会の仕事の手伝いだよな。正直助かる。量が増え始めたところだし、例の噂を払拭するためにも声をかけなくてはと思っていたところだ。

 けど、手伝いって。か、彼も手伝ってくれるのか。も、申し訳ない。あぁ、でも同じ空間にいられる。でも、昨日会わせる顔ないって思ったばかりなのに。

「……しずちゃん、もしかして嫌だった?」

 心配そうに金本がこっそりと訊ねてくる。

「いや…驚いただけだ」
「もしかして、最近忙しかった?来てた方がよかった?」
「いいや。だったら来なくていいなんて言わないさ。まぁ、そろそろ顔を出してもらおうと思っていたが」
「そっか。よかった!」
「仕事の振り分けは中臣先輩に頼んでくれ」
「うん。わかった」

 嬉々として先輩たちの元に戻る金本。彼の存在は気になるものの、まずはやるべき事をやらねばと己に言い聞かせ、集中しようと努める。

 ……転校生、相変わらず彼に引っ付いてる。しかも隣に座るとか。でも、真剣な彼の表情は格好いいな。あ、転校生が話しかけた。

 ……………………全く集中できない。

 彼が、一区切りついたのだろう、大きく延びをしたので休憩にすることにした。慣れない作業を頼んでいるので、疲れたはず。

 けれど彼はわざわざ飲み物を用意すると言って立ち上がった。いつもお茶くみをしていた金本が慌てていたけど、結局彼が給湯室に向かった。

 その後ろ姿を見送って、手元の書類に目を通す。しばらくして彼が戻ってきて、いっそう賑やかになる。輪に加わりたいなと思いつつ、顔を上げられずにいたらふいに影が指した。


「会長もどうぞ」
「っ………あぁ」

 すぐ横から聞こえた彼の声。肩がビクッと跳ねた。カップと小皿に取り分けたクッキーが置かれた。

 お、お礼。お礼を言わなくては。そう思うのに近すぎる距離に身動きができない。視線をさ迷わせているとカップの中身が目に入り、衝撃が走った。

「………な…なん、で?」

 思わず顔を上げれば、踵を返そうとしていた彼が振り返る。

「………何がです?」

 く、首傾げた。かわいいっ。

 じゃなくて。彼が用意してくれるなら何でも嬉しかった。でも、今ここにあるのはいつも飲んでいるのと同じもので。

 偶然にしてはできすぎなんだけど。そ、それを訊ねたいのに、し、至近距離で彼が見つめてきたりするから胸がばくばくして息苦しくて。震える手でカップを示すのが精一杯だった。

「違いましたか?」
「………違わ、ねぇ……でも、どうして……?」

 あぁぁぁっ。か、彼と会話してる!ど、ど、どうしよう!き、緊張のあまり泣きたくなってきた。

 そんな情けない姿さらすわけにはいかない。た、耐えろ。

「……知ってますよ。会長のことですから」
「っっっ!?」

 え?え?な、何?え?い、今なんて?彼の笑顔に見惚れていたら、何か理解できない言葉を告げられた。

 し、知ってるって何?校内新聞のインタビューで確かに紅茶飲むって言ったけど、砂糖やミルクの量までは答えてない。

 し、知ってるって。オレの事だからって!

 何これっ!?

 ヤバい。完璧キャパオーバー。頭動かない。はくはくと口を動かすのに全く酸素を取り入れることができない。し、しかも彼が真っ直ぐに見つめてくるから身動きとれなくて。

 どうしようもできずにいたら、か、彼の手がっ。て、手が、ほ、頬に。オレの頬にふ、触れっ。彼がオレに触れてっ。す、素肌がっ!

「会長。隣で休憩してもいい?」
「っ!?」

 軽くパニック状態に陥っていても、彼の言葉は聞こえるわけで。これ以上側にいたら心臓がもたないのはわかっているはずなのに。

 反射的に首を縦に動かしていた。

 だ、だって!彼の申し出を断れるわけなんてないだろ!

 し、幸せすぎて、死にそう。





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あきゅろす。
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