BBQ 「はい。サキ、あーん」 「あー」 「サキちゃんっ!?」 ヤエが差し出した肉を、サエは躊躇いなく口にした。悟が悲鳴をあげる。 「悟もほしい?はい、あーん」 「何でそうなるんだ!」 「え?いらないの?サキとの間接チュー。じゃーオレがもらっちゃおうかな」 「ぐ」 …………中学生かよ。 「……遊ばれてんな」 「ん?……あぁ、悟さん?」 「嫌なら箸奪えばいいじゃねぇか」 「そこまで頭回ってないみたいだね」 鉄板に適当に食材を並べる椿の横で、悟にちょっかいかけるヤエを眺める。サエはヤエをけしかけている。椿はそんな光景を目にして、微笑ましそうにしていた。悟の味方はいないようだ。 「あ、玉ねぎもう良さそうだよ。食べる?」 「あ?……ああ」 「はい」 手にしていた皿に、椿がトングで玉ねぎをのせる。 「やったぁー!悟が食べてくれた」 「よかったね、ヤエ。じゃあ、はい。あーん」 「わー、サキありがとう」 「サキちゃん!?」 「悟にもしてあげるよ。ほら、あーん。ヤエと間接キスになるけどね」 「サキちゃん!?」 「あははは」 本当に、遊ばれてんな。 「お肉も結構焼けてきたよ。いる?」 「あー…トング」 「とるよ。どれがいい?」 「いいから」 首をかしげる椿からトングを受け取り、肉を数枚、椿の皿に置く。 「あ、ありがとう」 礼を聞き流し、更に肉を置いていく。 「シキ、もう……」 もういいという声を無視し、どんどん置く。 「え?ちょ……シキ?」 ついでとばかりに野菜もとる。 「ちょっ、待って。シキ、これ以上は……」 椿がわずかに距離をとり、皿を遠ざけようとする。構わず腕をのばし、置く。下手に動けば落としてしまうからと、抵抗しきれていないのをいいことに、次々と乗せていく。 「シキ、ちょっと……シキっ」 鉄板の上をほぼ何もない状態にし、トングを脇に置く。椿は己の皿を両手で持ち、呆然と眺めていた。 「…………シキ」 「あんま食ってねぇだろ」 「そんなことないよ。てか、だとしてもこの量は」 クツクツと笑えば、椿が恨めしげに見上げてくる。 「大体、他の人の分」 「あ?まだあるし……平気だろ?食いきれねぇか?」 「いや……今これだけ食べると、夜食べられなくなりそうで」 元々、無理をさせる気はない。いざとなったら引き取るつもりではいたが、その返答に、わずかに安堵した。 椿がふぅと息を吐く。 「なら、夜食う量減らせばいいだろ」 「でも、シキのおにぎり」 「…………」 オレの握ったやつが何だと言うのか。表情を見れば、それを食べられなくなると残念がっているようで。そんなに、楽しみにしていたとでも言うのか。 多分、都合のよい勘違いではない。 「あー…なら、少しもらうな」 「……ん。お願い」 自分の皿に移動させたりはせず、椿の皿から直接食べる。椿も、箸をつけた。 「そういや、去年花見したつってたよな。今年もすんのか?」 「どうなんだろ?多分するんじゃないかな」 一つ皿の上の物を、二人で食べる。何だか落ち着かず、気になっていたことを訊ね意識をそらす。 「シートひいて、食べ物持ち寄ってか?」 「うん。時間とか、あまりきちんと決めないで、適当に参加したり帰ったり」 「へぇ」 話ながら箸を進め、何となしに顔をあげたらトメと目があった。なぜか顔をひきつらせている。 「……んだよ」 「いや……つーか、全部とったなら追加のせとけよ」 「あ、トメも食べる?はい」 「あー…」 椿の差し出した皿を暫し眺め、ちらりとこちらを見る。そして疲れきったように首を横に振った。 「自分で焼く」 「そう?」 何なんだいったい。 「……椿」 「ん?……あぁ、ごめん。はい」 取りやすい位置に戻ってきた皿に箸をのばす。 トメがトングを手にとり、野菜を中心に並べ始めた。野菜はまだ、あまり減っていない。最初にヤエが肉ばかりを並べていた。 「……参加すんのか?花見」 「あぁ、まぁ、声をかけられたら。お弁当の準備手伝うのがメインになるだろうけど」 「そうか」 「ほとんど花より団子状態だよ」 「今回のこれだってそうだろ」 「あー…」 椿が視線を巡らせる。桜を確認しているのだろう。 花は咲いているし、見える位置にある。風が吹けば、花弁が飛んできさえもする。けれどその存在は、今まで意識の外にあった。 どうしたって、目の前に意識は向いてしまう。 「……でも、夜桜もって言ってたし、そっちは桜がメインになるんじゃない?」 「どうだろうな。お前だって、弁当の方を楽しみにしてなかったか?」 「いや……何て言うか、それはそれ、だよ」 「そうなのか?」 「そうなんだよ」 気まずげに視線をそらす様がおかしくて小さく笑えば、笑うなとばかりの視線を向けてくる。その反応に、ますます楽しい気分になる。 椿も、ふっと笑みを浮かべた。 「シキ、桜は……って言ってたけど、夜桜も?」 「まぁ、そうだな。街灯あるし。なくても十分」 「へぇ」 「帰り、暗くなりそうだし、見れんじゃねぇか?」 「いや、ここで見てくんだろ」 割り込んできた声に視線を向ければ、相変わらずトメが顔をひきつらせていた。 「夜まで花見してくつってたろ」 「あー…でも、ほら、皆でと二人きりでだと雰囲気変わるし」 「だな。どうせ人多いんだろ。周り煩いのと人気がないのだと大分変わるな」 「あと、誰と見るかでも感じ方変わるよね」 「…………そうだな」 まっすぐに笑みを向けてくる椿に、笑みで返す。視界の隅ではなぜかトメが頭をおさえていた。 <> [戻る] |