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ご挨拶?




「さて、改めてオレは七里塚忍。友也の従兄弟だ。こっちは弟の光太」

 誰だよ。友也って。

「………シキだ」
「ウチの友也が一ヶ月以上もお世話になったみたいで」

 ウチのをわざわざ強調した言い方。わざとらしい笑みも、何もかもが気にくわない。

「迷惑かけたな」
「いいや?迷惑なんざ思っちゃねぇよ」

 ほとんど睨み合うような空気の中、互いに笑みを浮かべる。椿云々以前に、こいつの思い通りにするのはごめんだ。

「それにしても、友也にあんたみたいなダチがいたとはな」
「いや、ダチじゃねぇよ」
「へぇ〜、じゃあ、ウチの友也とはどういう関係で?」
「あんたんとこは高校生の交遊関係に一々口出すのか?」

 言外に関係ないだろと伝えるが、相手はむしろ楽しそうに笑った。

「シキ君、まだ学生?」

 急な話の転換に意味がわからず眉をひそめる。が、ただ黙って返事を待っているだけ。隠すようなことではない。

「あぁ。美大に通ってる」
「あ、そうなんだ」

 ほぅと呟いた忍が何かを言う前に、隣に座る椿が声を出した。

「……友也、お前知らなかったの?」
「うん。絵を描いてるのは知ってたけど、趣味なのかと」

 そういや、言った覚えはない。益々お前らどんな関係なんだと、目で訴えられる。答えるつもりはないが。

「まぁいい。ちなみにシキ君。オレは社会人。年上」

 わかる?と視線で問う。つまり、年上なのだから敬意をはらえと言いたいのか。くだらない。

 軽く笑って答えの代わりにすると、大して気にもとめずに話題を変えてきた。

「つか、学生のわりにはやけにいいとこ住んでんな。一人暮しだろ?」

 わりにではなくくせにというニュアンスで聞こえる。

 さて、どう答えたものか。一瞬、考え込むがこの程度なら答えて支障はないだろうと判断する。わざわざ確認することはないだろうし、それなら家の事を知られる心配もない。

「ここ、親戚の持ちモンなんだよ」
「へぇ、随分親切な親戚がいるんだな」
「あぁ」
「けど、学生の一人暮しってのはなかなか大変だろ?」
「いや、それほどでもねぇぜ」
「いやいや、謙遜すんなって。勉強して、家事して…バイトもやってんのか?」
「まーな」

 つっても、最近家事はほとんど椿がやってるが。

「大変だよなぁ?ほら、友也。学生の一人暮しは色々大変なんだ。一ヶ月以上もご迷惑をおかけしたんだから、ちゃんとお礼するんだぞ?」

 椿はため息をつくだけで、なにも言わない。何かを躊躇っているようにも見え、その姿に僅かに苛立ちを感じた。

 ここにいたいと、言ったばかりなのに何故なにも言わないのか。

「いくらお前がここで家事手伝ってたとしても、負荷にはかわんねぇんだ。学生さんってのは色々入り用だからな。いくら金があっても足りやしない」

 家事が楽になったという理由に先手を打たれる。金銭面というきわめて現実的な問題を持ち出してきやがった。椿は黙したまま、静かに言葉を聞いている。

「ほら、これ以上迷惑にならないうちにお礼言って帰るぞ」
「おい、こらおっさん」

 黙り込んだままの椿にも、勝手なことをベラベラと捲し立てる目の前の男にも、腹がたった。

「あ?誰がおっさんだって?」
「あんただよ、あんた」
「ざけんな。オレはまだ二十四だ」

 トメと同じか。十分おっさんじゃねぇか。オレはまだ十代だ。

「誰が、いつ迷惑つったよ?」
「へぇ?シキ君は友達でもなんでもない人間一人養うつもりなんだ?学生の分際で」

 どんな関係か答えなかったこと、根に持ってやがるな。

「言っとくけどな、こいつの一人や二人増えたとこでこっちは痛くも痒くもねぇんだよ。迷惑だ邪魔だってなら、とっくに追い出してる。他人がいて迷惑だってのはてめぇの考えだろうが。勝手に決めつけて押し付けてんじゃねぇよ」

 これまで余裕を見せていた忍が、何が逆鱗に触れたのか、眉尻をつり上げた。

「知ったような口きいてんじゃねぇよ。ガキが。何も知らねぇくせに」

 低い声が響く。

 確かに、こいつの事などほとんど知らない。けどそれが何だってんだ。

「てめぇにゃ友也は任せらんねぇつってんだよ。働いて、てめぇで稼げるようになってから物言えってんだ。大体なんだってお前なんかに預けなきゃなんねぇんだよ。ダチじゃねぇつなら関係ねーだろ」

 興奮した趣の物言いを鼻で笑ってあしらう。

「一ヶ月以上居座られてて、関係なくはねーだろ、関係なくは。大体……」

 何でなんて、それこそ関係ない。理由なんて必要ねぇ。

 そう、啖呵を切ろうとしてふと我にかえった。隣に座る椿を見る。

「……そういやお前、何でここにいんだ?」
「……え?今更?」

 邪魔にならないからここにいたければいればいい。家事は任せられるし、こいつを描くのも気に入っている。

 けど、もともとは風邪でダウンして治るまで休みたいという話だった。流石にもう完治しているはず。なら、何でこいつはここにいたがっているのか。

 困ったような、それでいてさっぱり吹っ切れた笑みを浮かべてから、椿は忍に向き直った。

「忍。シキはオレが具合悪いところを助けてくれたんだよ」
「ほー、ならそれこそ丁重に礼して、これ以上迷惑かけねぇようにしねぇとな」

 迷惑じゃねぇって、何度言や理解すんだ。話を聞く気はねぇようだ。

「忍。オレはシキに拾われたんだ。だから今はシキのものだよ。いらないって言われたら仕方がないけど……」
「いる」

 言葉を区切って見つめてきた椿に即答する。椿が満足そうな笑みを浮かべ、何故だかその表情に気が晴れた。

「………友也。お前は物じゃねぇだろ」

 苛立ちを隠しきれていない声が割り込む。いい気味だ。椿が平然と言葉を返した。

「そうだね。オレは物じゃない。だから、どこにいるかは自分で決めたい」
「友也っ…」
「オレはここにいたい」

 きっぱりと言い切った椿に、忍が口を閉ざす。

「これが、オレのわがままだよ」

 沈黙が訪れた。





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あきゅろす。
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