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オマケ・光太の話2




 白い花の木の下で、友也が一人の生徒に何度も頭を下げられていた。プリントの束を抱え校舎に戻るそいつ、多分同じ学年、とすれ違うようにして友也の元に向かう。

「お待たせ。今のは?」
「窓からプリントばらまいちゃったみたいで。拾うのを手伝ってたんだよ」
「ふぅん」

 相槌を打ち、それから辺りを見る。

「結構広いな」
「まぁ、中学は人数少ないとはいえ、あわせて六学年分だし」
「だな。一番奥だっけか?」
「みたい」

 話ながら、駐輪場の中を進んでいく。

 結局、電車通学は辛いから自転車通学にしようということになった。自転車で通えない距離ではない。次の休みに道を確認する予定だ。

「………光太まで付き合うことなかったのに」
「でも自転車の方が体力つきそうだし。それに、何かあった時のこと考えるとやっぱまだ一人で行かせるのは不安だ」

 電車なら、一人の時に具合悪くなっても、他の乗客や駅員さんがいるから大事に至る心配はない。でも、自転車だと、万が一人通りのない所で具合悪くなったりしたら。

 人が多くて具合が悪くなったのだから、自転車なら平気だと友也は言う。嘘ではないんだろう。でも、その前は寝不足で保健室送りになったんだから、安心なんてできるわけない。

「………そこら辺か」
「裏門から入った方が近そうだね」
「だな」

 少し話して、急いで部活に向かう。正式に入部するかどうか、すごく悩んでいる。

 雰囲気はいいし、信頼できる先輩はいるし、強くなりたいし、とても魅力的ではあるのだ。ただ、それで肝心な時に友也に傍にいられなかったら、本末転倒なわけで。

 やっぱり一旦は見送って、大丈夫だって安心できるようになってから入部しようか。気にすることないとは言われるけど、気になって集中できなかったら他の部員の迷惑になるし。でも、今のまま近くにいても、何かあった時、役に立てるのだろうか。

 そうやって悩む内に、友也が科学部に顔を出すようになった。

 科学部も結構遅くまでやってる部活らしく、一緒に帰れる機会が増えたのは嬉しい。わりと楽しんでるみたいだったから入部するのかと思ったけど、そのつもりはないのだという。

「入ればいいのに」

 言ったら、友也は困ったような笑みを浮かべた。

「楽しいんだろ?」 
「うん。でも、興味のあるテーマの時だけ、隅で聞いていられれば充分だから」

 そういうものなのだろうか。

 小学校は一年とちょっとしかいなかったあげく、休みがちだったせいもあって、馴染む前に卒業になってしまった。だから中学では友達ができれば良いと思っていた。部活に入れば、自然と仲の良い奴ができると思ったのに。

 学外には仲の良い奴がいるみたいだけど、学校にいる時間の方が長いんだ。学内にも親しい奴がいた方が楽しいし、オレも安心できる。

 そんなことを考えていたせいで、そもそもどうして科学部に顔を出すようになったのか。今、昼はどうしているのかといったことに、気を向けられなかった。

 友也がまた保健室のお世話になったと聞いて、様子を見に行った。そしたら、ちょうど廊下の先を曲がるのが見えた。向こうは確か何もなかったはず。慌てて追いかける。

「………わざわざ、すまない」
「いえ」

 ん?この声は、先輩?

 思わず、足が止まる。

 何で先輩と友也が。このまま顔を出して良いのか、戻った方がいいのか。悩む内に会話は進む。

「その、思い出させるのも悪いとは思うんだが、あれからどうだ?」
「大丈夫です。今は自転車で通学してるので」
「そうか」

 ホッとしたような声。

「………ああいった場合、本当なら女性専用車両を薦めるべきなんだろうが」
「まぁ、無理ですから」
「ああ」

 ………ん?

「だが、滅多にないのだろうが、女性以外が被害にあうことがあるのだから、どうにか対応してもらいたいな」
「それはちょっと、難しいかと」

 被害?

 一体、何の、話を。嫌な想像に、心臓がドクドク脈打つ。

 だって。気分が悪くなったって。人が多かったから、具合が悪くなったんだって、そう言っていたのに。今の会話じゃ、まるで………

「………噂の事は」
「はい。多分、大体は」
「………本人の耳にまで入っているのか」
「ちょっとした嫌がらせみたいなものですから。この状況だけでなく、オレの耳に入れることも目的かと」

 嫌がらせ?噂?

「………嫌がらせ。あの事とは」
「多分、関係ないかと。正確に把握してるわけではないですけど、時期がずれてますので。先輩が、目立たないよう助けてくれましたから」
「そうか。いや、だから良かったとも言えないが」

 立っているのが辛い。壁に腕をつく。眩暈がする。

「でも、そういうわけなので、先輩が気にすること、ないですよ」
「気にしないなんて、できるわけないだろ。何か、力になれることは………」
「何も。何もせずにやり過ごすのが、最善なので。物理的、身体的な害があるわけではないですし」

 ガンガンと耳鳴りがする。二人は、何の話をしているのだろう。理解したくない。だって。何で。何が。

「精神的な害はあるだろ」
「実は、それもあまり」
「………………答えられないことなら、答えなくても良いんだが………その、男に告白されたというのは」
「それは………デマですね。孤立させたかったんだと思います」
「そうか。良かった。てっきり、オレの他にも………あ」

 世界が、ぐらりと揺れた。





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あきゅろす。
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