仕方ない
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罰が当たったんだ。仕方がない。だから、心配なんかさせちゃいけないのに。
最近、シキの様子がおかしい。
時々、ため息をついている。ぼんやりとしていることも多い。何か、悩み事でもあるのだろうか。話してくれれば力になるのに。
どうにもならないように、描きたいと溢していることがある。その直前まで描いていても。それでもまだ足りないのだろうか。大学でだって、描いてばかりだと思っていたのだけど。
それとも、自分の描きたいものを描けていないのだろうか。
ただ描き足りないってだけなら、まだいい。もし、何か嫌なことがあって、それで気をまぎらせたくて絵に没頭しようとしているのだったら。
様子がおかしくなったのは、あの先生に会ってからなのだ。関連してるんじゃって疑ってしまう。意味もなく、握手を求められたりもした。人肌恋しくなるほど気が弱ってるようにも見えて。
「また何か考え事か?」
「………」
「ぼんやりしてる」
そう指摘してきた戸市君は、なぜか楽しげだ。
「それ。卵焼き混ざってるのしらす?」
「うん。気になるならどうぞ」
「お。あんがと。ならお礼に肉団子を一つあげよう」
「え?いらない」
言うより早く、取りかえられてしまった。
「………わりにあわない」
「なにおう。貴重な肉をやったのに、一つじゃ足りないだと?」
「いや、そっちじゃなくて」
わかってるくせに。視線で訴えるも、戸市君はケラケラ笑っている。
「最初の内はこいつどうしてやろうって思ったけど、急に凝り始めたよな」
「あぁ、うん。まぁ」
呟き、手元の弁当箱を見つめる。
確かに、最初はタッパーに食べ物を詰めただけだった。シキには不思議そうにされ、戸市君には呆れた視線を向けられた。
「………楽しくなってきちゃって」
「ふぅん?弁当作るのが?」
「………そんなとこ」
まぁ、自分のはどちらかと言うとついでだけど。深く掘り下げられても困るので、話を打ち切る。
「………早く食べないと、時間なくなるよ」
「一城の方が食うの遅いじゃん」
「でも戸市君の方が量多い」
「ならとんとんか」
そうなるのか。
「次は………LLか。こないだのテスト返ってくんのかぁー」
「………戸市君、聞き取りはできてるのに、綴りで減点されるから」
「漢字ですら怪しい時あるのに、ましてや英語だなんて。選択式なら自信あんのに」
一つ息を吐いて、戸市君はモソモソと箸を進めた。
オレも、気づかれぬようため息を一つ。
テストの点数自体は気にならない。ただ、答案用紙の返却そのものが、少し憂鬱だ。
ゆっくり箸を進めたとことで、時間稼ぎになりはしないのだけれど。
気が重いまま迎えたLLの授業。けれど、答案用紙は返却されなかった。オレの分だけ。
出席番号が一番だから、いつもは最初に名前を呼ばれる。けど、さぁ返却という段階になって、先生は手元をバタバタとさせた。少しして、諦めたように次の人の名前から呼び始めた。
最後の人の返却がすんでから、先生はまた手元をバタバタさせる。多分オレの答案を探してるんだ。
やがて、名前が呼ばれた。
「一城君。ごめん。一城君のを職員室に忘れてきたみたいなんだ。悪いんだけど、放課後取りに来てくれないかな?」
「………」
「それまでには見つけておくから」
返してもらわなくても構わない。
点数の予想はついている。違ったとしても、これから答え合わせをするのだから、必要なことはちゃんとわかる。
だから、職員室にいきたくない。言えるわけ、ないけれど。
「一城君?」
「………はい」
良かったと、先生が笑みを浮かべる。その表情を視界から追い出す。
そっと息を吐き、腕をさする。それでも落ち着かなくて、首筋や手首に触れた。息苦しさは消えなかったけれど。
視線が。
視線を、感じる。ただ煩わしいだけのではなく。早く教室に戻りたい。できれば帰りたい。あのソファで丸まって、シキの帰りを待ちたい。
職員室にいきたくない。でも、
大丈夫。職員室なら。答案を受け取るだけなのだし、すぐに済む。自意識過剰なだけだ。何も、気にする必要はない。
ぎゅっと、手首を握りしめて、息を詰める。
大丈夫。怖いことはない。神経質になりすぎているだけだ。そうに決まっている。だから大丈夫だと、言い聞かせる。勝手に苦手意識を持ってしまっているだけだ。
何にも、心配する必要はない。
それに、もし、嫌なことがあったとしても、今、息苦しさを感じてしまっていることだって、全部ぜんぶ仕方のないことなのだ。だって、
だって、オレはーーー
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