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まるで……




 ツバキのエリアは公園の一番奥だったので、正門の方へと適当に歩いてく。

 人はそれなりにいるけれど、園内が広いのであまり混んでいるようには感じない。植物は種類ごとにエリア分けがされている。ただ、柵などで区切ってあるわけではないので、ふらふらと歩いている分には緑の多い普通の公園のようだ。

 今の時期、花も実もないものも多かった。それでも、シキに尋ねれば色々と教えてくれた。名前と姿が一致してなかったものもあって、それが一致するのは楽しい。

 ゆっくりと、進んでいく。ベンチに座って、少し休んだりもした。

 サツキや薔薇のエリアは、今が見頃なだけあって他より人が多い。それでも、混雑しているように感じないのは、空間が広いからだろうか。

 細い道に入っていく。草木が茂っている。やがて、入ってきたところに戻った。

 くまなくは見て回っていないけれど、一通りは回ったのでそのまま外にでる。時刻はとっくに昼を過ぎていた。思ったよりも歩いていたようだ。

「昼、蕎麦でいいか?」
「うん。どこかお勧めのとことかある?」
「お勧めって訳じゃねぇけど、目星はつけてある」

 ならばとその店に向かったのだけれど、本日はすでに閉店していた。

「……早いね」
「まぁ、仕方ねぇか。ならこっちだ」

 他にも目星をつけていた所があったようで、そちらに向かう。昼時を過ぎていたから、空いていた。品切れになっていたものもあったけれど。

 席に着いたら、どっと足に重みを感じた。気づかない内に歩き疲れていたみたいだ。

「……疲れたか?」
「少し。楽しかったから気づかなかったけど」
「楽しかったか?」
「ん?うん」
「なら良かった」

 そう言って、シキが嬉しそうに笑うから、どう反応していいかわからなくなる。気持ちが落ち着かない。気づかれてしまわないよう、どうにか店の内装にと意識を向ける。

 蕎麦は、とても美味しかった。

 予想していたことだけれど、昼もシキに奢られた。シキの好きなようにさせると言ってしまった手前、何も言えない。ありがたく奢られておくことにした。

 でも、本当に何で奢りたがるのだろう。本来なら、今日の費用は全部オレが払っても良いぐらいなのに。

 だって、これじゃあ、このままじゃあまるでオレが賭けに勝ったみたいだ。賭けに勝ったのはシキのはずなのに。これじゃ、まるで……。

 それにしても、気をつけていたはずなのに、気付いた時にはシキの手に伝票があった。そのさりげなさから、奢りなれている……デートしなれている気がしてならない。確かに、前に女性に不自由しないとは言っていた。

 ……あまり、深く考えるのは止しとこう。今は付き合っている人いないんだし、気にしても仕方がない。

 食後は、近くの店をふらふらと見て回った。団子や飴、陶器に植木などがあった。食べ歩きできるものも色々とあった。普段なら食べたりはしないけれど、ついシキにつられてしまった。やっぱり、少し浮かれ気味なんだと思う。

「……そろそろ移動するか」
「移動?」

 ある程度の店を覗いて一息ついた頃、シキがそんなことを言った。少し早い気もするけどそろそろ帰るのかなと考えていた時だったから、意外でつい首を傾げてしまう。

「買いてぇもんがある」

 何を、と訊いても良いのだろうか。

 どうせすぐにわかるのだけれど、答えてもらえないことも多いし。

「……そういや、結局弁当箱どうしたんだ?」
「ん?あぁ、まだどうもしてないよ」
「ならそれもだな。どうせとりに行くのも買いに行くのも面倒なだけなんだろ」
「……そんなことない」

 確かにそうではあるのだけれど。そうも得意げに言われてしまうと、何となく肯定したくなくない。

「そんなことあるだろ」
「……まぁ、あった方が楽ではあるけど」
「ほらな」
「……シキは何買うの?」

 シキが楽しそうに笑うから、何かもう良いやってなって、さっき気になったことを訊いてみた。途端、シキは口を閉ざしてじっと見つめてくる。そうして、やおらふいと顔をそらす。

「……弁当箱」
「いや、流石に自分で使う物は自分で買うよ」

 いくら何でもそこまで出してもらうわけにはいかない。

 急に歩き出してしまったシキを、慌てて追いかけて告げる。シキはちらりとこちらを見て、すぐにまた前を向いた。

「いや、オレの」
「シキの?」
「……大変なら、勝手に適当に詰める」

 それは、つまり、

「……いるなら、用意するよ」

 シキがぴたりと足を止め、見つめてきた。ふっと浮かべた笑みが嬉しそうに見えるのは、都合の良い思いこみだろうか。

「なら、頼む」
「……ん」

 朝も、昼も、夜も。シキの食べる物をすべてオレが作る。そう考えると何だかとても満たされるものがあるなんて、そんなこと言ったらきっと引かれる。自分でもそんな浅ましい考えに少し驚いた。

 再び歩き始めたシキについて行く。

 本当に、今日は何なんだろう。朝も思ったけれど、まるでご褒美みたいだ。貰えるようなことは何もしてないし、シキにそのつもりはないってわかっているけれど。

 二人で出かけたことは、今までにだってある。でも、今日のは何だか違う。どこがどう違うのかはっきりとはわからないけど、雰囲気が違う。今日のはまるで……、

 ……シキに、そんなつもりはないってわかってる。それなのにこんな風に思ってしまうのは悪いことだろうか。でも、口に出さなければ。心の中で思うだけなら良いんじゃないかって。

 だって、そう思ってしまうのを止められない。まるで、デートみたいだと。





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あきゅろす。
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