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お悩み相談室7




 年末年始の忙しい時期を過ぎ落ち着いたを通り越し、むしろ反動で閑散としている頃、神社を訪れる人がいた。

 竹箒で掃き掃除をしていた巫女さんは、その姿を目にすると笑みを浮かべる。

「明けましておめでとうございます」
「ああ、明けましておめでとう」
「今年もアレのこと、よろしくお願いしますね」
「……いや、それ、よろしくされたくねぇ」

 嫌そうに顔をしかめる姿に、巫女さんはクスクスと笑う。

「初詣ですか?」
「あー…いや、それはもう済ませた」
「まぁ」
「今日はシャーウッド来たから、ついでに」
「そうですか」

 ついでに参拝に来たというよりは、ついでに寄っただけなのだろう。お参りする気配はない。

「そう言えば、うちの宣伝をしてくださってるようで。ありがとうございます」
「あ?」
「前に八重垣君、来てくれましたよ。五月女さんですよね?ここの話をしたの」
「あー…そういや。つっても話のついでで、宣伝した訳じゃねぇぞ」

 だから気にするなと、男は手をふる。

「そういやお守り見せられたな。初詣も来たつってたし」
「来てたんですか?それは気づきませんでした」
「悟誘ったが断られたってんで、一人で来たとか」
「あぁ、あいつは来たがらないでしょうね」

 その時の表情が、手にとるように思い浮かんだ。

 くだらない用の時には押しかけてくるくせにと巫女さんはまったくと息を吐く。その様子に男は軽く笑い、それから自身も重たくため息を吐いた。

「……シキ達も、来たつってたな」
「‘達’?」
「……同居人」
「あぁ……正式に住み着いてるらしいですね」
「聞いたのか?」

 男が眉をひそめる。巫女さんは、苦笑を浮かべた。

「前にあいつが来た時、やっぱり同居人と言っていたので」
「あー…」
「何度か、それっぽい子といるの見かけましたよ。年末には一緒にお節の材料買ってたみたいですし」
「あー…」

 最初のあー…は納得のため語尾が上がり、二度目のそれは嘆息のため語尾が下がった。

「関係は、なかなか良好のようで」
「いや、まぁ、それ自体は悪いこたねぇんだがな。…………クリスマスの話は聞いたか?」
「クリスマス?いえ」

 十二月はたまたま姿を見かけただけ。その前月に軽く話を聞く機会はあったが、あくまでも軽く。名前があがったという程度だ。

「いつもシャーウッドでパーティーしてますよね?今年は違ったんですか?」
「違いはしねぇ、けど……」
「けど?」
「シキが途中で帰った。悟の恋人が途中参加した」

 それならまだ、と巫女さんは首をかしげる。男は言葉を続けた。

「悟の恋人と一緒にシキの同居人が来た。シキが帰ったと聞いて、同居人は走り去った」
「……ん?」
「オレは参加してなかったから聞いた話だがな」

 虚ろな表情の男を、巫女さんは首をかしげたまま見つめる。

「いまいち状況が。サキさんと椿君でしたっけ?って親しいんですか?」
「仲いいな。そもそも一緒に来たのだって、その前に別の集まり参加してたからだし。……名前、聞いてたのか?」
「ええ。まぁ、ちらっと。別の集まりって」
「仲間内だとか。椿は手伝いみたいだが。元々、知り合いだったらしい」
「あらまぁ。……走り去ったって、やっぱり」
「だろうな」

 はぁーっと、男が重たげなため息を吐く。

 自身も息を吐き出しそうになっていた巫女さんは、苦笑を浮かべるに留めた。何か問題があるわけではないのに、どうして疲労感があるのか。

「お疲れさまです」
「いや、何もしてねぇし」

 男は頬をひきつらせた。

 気にはしてしまっているが、なるべく見ざる聞かざるを貫きたいのだ。関わっているような言葉をかけられるのは不本意だった。

「何もしてなくても、お疲れのようでしたので」
「いや、まぁ、それはそうなんだが」

 思いっきり顔に納得がいかないと書かれており、巫女さんはクスクスと笑った。その様子に、男もわずかに表情を緩める。

「でも、何だかんだうまくいってるみたいじゃないですか。聞きましたよ、その辺りのメンバーで前に食事したって」
「あー…うまく、いってんの、か?」
「険悪にならず、問題もなかったならうまくいってますって」
「……そうか」

 それならいいんだがと、安堵の色を見せた。

「そう言えば、八重垣君とサキさんがやけに仲のいい印象なんですが」
「あー…元々ヤエ経由で知り合ったからな。そりゃそうだろ」
「友達いたんですね。なら八重垣君と椿君も?」
「いや、そりゃいるだろ。そっちはシキんとこ住み着いてからだな。友達になったつってヤエが喜んでた」

 呆れたような言葉を、巫女さんは肩をすくめただけで流す。彼女の中で自称愛人の交遊関係はひどく狭い認識だった。ほぼ皆無と言っていいほどに。言いはしないが。

「友達」
「ああ」

 男が頷く。

 そうか、友達かと巫女さんは呟いた。彼女の中で……以下略。だから友達ができたのは喜ばしいことだろう。そうやって少しずつ色々なことに触れていければ良い成長に繋がると、どこか親のような事を考えた。実際にはほぼ他人で知人ですらないのだが。

「……変な話なっちまったな。そっちはどうなんだ?大学」
「え?……あぁ、それなりに有意義に……」

 問われ、答えかけた巫女さんが言葉を途切れさせる。どうしたのかと男が眉をひそめれば、大したことでないけれどとくすりと笑う。

「八重垣君が来た時も同じようなことを訊かれて、同じように答えてたので」
「同じようなこと?」
「ええ。興味あるみたいですね。大学」
「興味なぁ」
「いい傾向じゃないですか。勉強なら五月女さんが教えてあげればいかかです?」
「いや、オレに言うなよ」

 クスクスと、巫女さんが笑う。

「悟の方が適任だろ」
「いえ。あいつ、教えるのはからきしですよ」

 そうに決まっていると、巫女さんは断じた。勉強できるできないと、教えるのが上手い下手は別の話なのだ。

「だとしても、もう覚えちゃいねぇし」
「なら、現役に期待した方がいいんですかね。友達だそうですし」
「あー…どうなんだろうな」
「期待できなさそうなんですか?」
「一人はちょいちょい授業サボってるらしいし、一人は留年決定してる」

 男がどこか遠い眼差しで告げる。巫女さんはあらまぁと答えた。

「まぁ、やる気があればどうにかなりますよ」
「だな。……じゃあ、そろそろ。悪いな。邪魔して」
「いえ、五月女さんなら歓迎しますよ」

 軽く笑い、立ち去る男の背を見送る。その姿が見えなくなってから、巫女さんは指折り数えた。

 夏休みからだから、大体約半年。

「……半年……半年かぁ」

 そうして、箒の柄に額を押し付け、長い長いため息を吐く。





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