オマケ・友達 ■□■□■ 欲しい物と言うか気になる物と言うかがあるんだけど、よくわかららなくてどうすればいいかなと相談してみた。 悟は自分に合ったものを選べば良いと言い、トメはオレに聞くなと言った。東子さんは自分もよくわからないからと謝り、サエには訊くだけ無駄なので訊いてない。 バイト仲間には何となく訊けない。バカにされるとかはないだろうけど、本当に、何となく。師匠はタイミングが悪かった。変にテンションが高い時だったから、まともな返事をもらえてない。 シキにも訊いてみようかと思い、その前に椿に会ったから話してみた。そしたら、探すのに付き合うと言ってくれた。 うわぁいと喜び、その日はオレも椿も用があるからまた後日約束をした。めずらしく椿が待ち合わせ場所と時間を指定し、向かった先にはなぜかサエもいた。 二人でベンチに並んで座っている。 しかもなぜか手を繋いで。いや。繋いではない。サエが椿の手首握ってる。何してんだろ。 サエに訊いて、まともな答えが返ってくる方が少ない。それはわかってたけど、椿まで見ればわかることしか教えてくれないとは。 言いたくないのかな。それなら仕方がないけど。具合悪いとか、どの程度の信憑性なのだろう。何か、色々と、気になる、けど。 サエの制服姿のインパクトに比べたら、ねぇ。違和感しかないんだよな。罰ゲームにしか見えない。女装的な。だって、ずっとサエのこと男だと思ってたし。初めて制服姿見たとき、どんな羞恥プレイなのかと。 まぁ、それはおいといて。 サエを見送ってから、椿と本屋に向かう。本屋って、あんまり来ないから物珍しいんだよね。すいすい進む椿についていく。目当ての学参売り場にはすぐついた。 何回か、自分で見てみたけどさっぱりわからなくて。合うものを選べば良いと言われても、どれが自分に合うのかがわからない。 「………高校の勉強がしたいんだっけ?」 「うん」 「一年辺りからで良いの?ならここら辺から始まるけど」 「……………」 渡された参考書を開いてみる。とても日本語には見えない。 「そっちは説明多いけど、こっちは問題が多いみたい。暗記ならここら辺にあるやつとかかな?数学は……」 「………椿」 「うん?」 「頭、パンクしそう」 不思議そうに首を傾げた椿が、次いで申し訳なさそうな表情になる。せっかくすすめといてもらって何だけど、でもじっくり読んでも理解できる自信がない。 「ごめん。つい…ちょっと、楽しくなっちゃって」 「ううん。オレこそごめんね。てか前も思ったけど椿って勉強好きなの?」 「好きって言うか……とりあえず科学は楽しいよ」 オレの手から参考書を受け取って、中をパラパラと捲り軽く目を通す。それから棚に戻した。 「ほら、師田先生。文化祭の時の」 「ん?うん」 「担当が科学で。結構面白いんだ」 「そうなんだ?」 「うん。………最終的に高校卒業程度として、スタートはどこら辺が良い?」 棚からこちらに視線を戻す。どこ。どこからだろうか。と言うか、今のオレの学力はどの程度なのだろう。 「ち、中……小……中……………小学校?」 「いきなり全教科は大変だよね。一科目に絞る?まずは習慣作った方が良いだろうし」 そう、言いながら椿は場所を移動し始めた。少し呆気にとられて、それから慌てて後をついていく。 「え?それだけ?」 「ん?」 「何かもう少しあるかと思った」 「………?あぁ、だってほら。サエさんの周り、色んな人がいるから」 「あ、そっか」 直接会ったことはないけど、それは知っている。クリスマス手伝いに行ったって言ってたし、多少の関わりがあるのか。なら、納得かな?あまり、椿の出入りするような場所には思えないけど、サエがいるなら平気だろうし。 あ、そうだ。 「そう言えば、椿はイチって知ってる?」 「………何で?」 首を傾げた椿が、じっと見上げてくる。 「や、ちょっと興味あって」 「サエさんは何て?」 「笑うだけで教えてくれない」 「じゃあ、オレからは何も言えないな」 あまりにもあっさりとして簡潔な答え。 「ヤエ、どの科目をやりたい?」 「え?あ、どれだろう?」 もう少しつっこんで訊いてみようとしたら、椿が足を止めて棚を見上げた。つられるようにして見れば、先程より低年齢向けのコーナーだった。 「目的があった方が頑張れると思うけど……何かある?」 「何か」 「ニュースに詳しくなりたいとか、旅行したいとか、実験したいとか……料理好きなら家庭科とか?」 家庭科。そうかそれも勉強の対象になるのか。 「あ、あれ読みたい」 「ん?」 「あれ。沙羅双樹の花の色」 「平家物語?」 「うん」 「じゃあ、国語だね。語彙とか読解なら中学レベルからでも平気なんじゃない?」 そう言って、来た道を少し戻る。 「ここら辺か」 「色々あるね」 「うん。まず覚えて理解したいならそこら辺かな?とにかく問題解いてみてわからなかったら説明、なら問題集だし」 「これは?」 何となく目についた一冊を手にしてみる。椿が横から覗き込んできた。 「……一通りのが載ってるね」 「じゃあこれにしてみようかな」 バラバラの買うより、お得な感じがするし。そう思って椿を見ると僅かに首をかしげてた。 「ダメ?」 「ううん。てか、使うのヤエだし」 「いや、そうだけどさ」 何か不安になるじゃない。 「ただちょっと、何冊か見比べてみた方が良いんじゃないかなって」 「そう?同じじゃないの?」 「少しずつ違うよ」 そんなもんなのだろうか。 とりあえず、今手にしてるのに目を通してみる。それから似たようなやつに手を伸ばしてみた。あぁ、本当だ。載ってる問題が違うからだけでなく、何か違う。 何冊が手にとってみて、中をじっくり見て、問題数は少な目だけど解説がしっかり載ってるやつを選んでみた。 「椿、これにする」 「そう」 別の参考書を読んでいた椿に報告すると、今度は首をかしげられなかった。その事になんだか安堵する。 「………目的あった方がってさっき言ってたけど、椿は何かあるの?」 「ん?………オレは単純だから」 ふっと、寂しげな笑みが浮かんだ。 「単純に、良い点とって、誉められたかっただけだよ」 「……………そっか」 「他に何か買うものある?」 「え?あ、料理本みたい。あと、ハンドクリーム」 今使ってるやつがもうすぐなくなって、いつも買ってる店はここのすぐ近く。冬場になると荒れやすくなるから、消費が早くてしかたがない。肌には気を使わなきゃならないからなおのこと。 そう言えば、椿も家事してんだよね。 「椿は?ハンドクリーム」 「………ある、よ」 うん?何か歯切れが悪いような? 「どこのメーカーの?」 なぜか椿は考えるそぶりを見せた。何だろう。教えたくないのかな?首をかしげて返事を待っていると、不意に椿は唇に人差し指を当てた。 「内緒」 ん?ん? 僅かに照れくさそうなその様子に、ますます疑問符が浮かぶ。しかもはっと気づいた様に口許から手を離して、でもなんかその手をもて余して。 な、何なんだろう。気になる。てか、内緒って。それイイ。 < [戻る] |