デート ■■■■■ どんな反応をするかと思っていたら、無反応だった。 変な奴。 目を覚ましたら勝手に帰るかと思っていが、もう少し休んでいきたいと言い出した。一応承諾はしたが、もう少しというのはどれくらいなのだろうか。 まぁ、少しは少しなのだろう。そう思っていたのだが、さすがに目の前の状況には首をかしげるしかない。 何で風邪、ぶり返してんだ? 昨日、ほとんど一日中寝ていたが、もうほとんど完治しているものと思っていた。大事をとって休んでいるだけなのだと。 けれど、今朝リビングに入るとソファの上で苦しそうにしていた。拾ったときと同じ、もしかしたらそれ以上に。 何でだ? 無言で凝視していると、まぶたがわずかに開いた。すぐに視線をそらされる。 「……………………」 まぁ、いい。 「薬、いるか?」 まぶたを押し開け、こちらを見る。しばらく、無言で見つめ合う。今度はゆるくうなずいた。 薬をのむなら何か腹に入れなくてはならない。粥を作るため台所へと向かった。 できあがった粥と薬とをテーブルの上に置く。椿がのそのそと起き上がった。用意されたものをしばし見つめ、一言。 「………無理」 「………は?」 「今……食べ、たら…吐く」 「………好きにしろ」 空腹のまま薬を飲んで、どう問題があるかなど知らない。だから、食べられないならばそのまま飲んでしまえばいい。自分ならば確実にそうする。 だから、食べるか否かは本人に任せてリビングを後にした。 しばらくして飲み物をとりにリビングを通ると、苦しそうながらも眠っていた。テーブルの上を見ると、粥はほんの一口二口だけ減っている。結局食べたのか。 残った分は台所に片付けておいた。 椿が寝込んだまま数日が過ぎる。 看病、というほどのことはしていない。リビングに用があって、なおかつ椿が目を覚ましていた時のみ一言二言声をかけた。大抵は大丈夫と言われる、もしくは首を横にふられるのでほとんど何もしなかった。 食事の時も、特に気にすることなくソファに座った。何度か、椿がこちらをぼんやりと眺めながら、嬉しそうな顔をしていた。その表情がひどく印象に残っている。 「………汗、流したい…」 「……それは無理だろ」 「うん……わかってる」 なら言うな。 小さく息をつき、リビングを後にする。しぼったタオルを持って戻った。 「……ほら」 「あ………ありがとう」 受け取ったタオルに顔を埋め、気持ち良さそうに息を漏らすのが聞こえた。 そんなことをつらつら思い出しながら大学の構内を歩く。並木道、木陰の風がわずかに涼を運ぶ。 朝、家を出る時、椿は寝ていた。昨日の様子ではもう治っているように見えたが、実際はどうなのだろう。また、ぶり返すのだろうか。 身許不明の他人を一人残して家を出るのはどうかとも思ったが、課題を提出しなければならない。まぁ何となく、問題ないような気がして放置してきた。 何なのだろうか。あれは。 病人だけども手はかからないし静かだし。本当にただそこにいるだけの存在だ。 空気のよう、とでも言うのか。 いや、空気はなくては生きていけないがあれはいなくても平気だ。けれど他に例えようがない。 ………やっぱ幽霊か? そこでピタリと足を止める。 回れ右をして今来た道を引き返す。が、遅かった。後ろから名前を呼ばれた。 「あ、四季崎」 振り返らずに歩き続ける。 近づいてくる気配がするが無視する。別に早足で逃げるように歩いている訳じゃないので、すぐに追い付かれた。 「…………無視してる?」 「……………………」 「ねぇ、無視してるよね」 「……………………」 「ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど」 「……………………」 「もしかしてまだ怒ってる?」 わかってるなら声をかけてくんな。 「……………………」 「……………………」 「……かまってよ、しーちゃん」 がっと隣でしつこく付きまとってくる奴の首を、片手で絞める。 「おまっ…何でそれを…っ!?」 「えー、おにーさんに聞いたんだよ。てか苦しいって」 「………」 軽く叩かれた手を離し、憮然と睨み付けるとにっこりと笑った。 「やっと振り返ってくれた」 まったく悪びれた様子のない態度にため息がこぼれる。腹をたてるのがバカらしくなってきた。 「……で?」 きびすを返し、歩き出しながら話の続きを促す。 「ん?」 「用は?」 「あぁ、デートしよう」 「……………………」 「デート、しよ」 「断る」 「大丈夫。相手オレじゃないから。今からデートしよう」 人の返事をまるっと無視して、腕をつかむとぐいぐいとひっぱる。 「デートしてくれたらさっき無視したの許してあげる」 許してくれなくて結構だ。つか腹をたてていたのはこっちなのに何で立場が逆転してんだ?。 だからこいつと関わるのは嫌なのだ。 <> [戻る] |