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パーティの出欠席




「抱いてみるか?」
「うん」

 別室から戻ってきたトメに、遠矢くんを抱っこさせてもらった。腕にずしりとした重みが加わる。しきりに体を捻らせているので、落とさないようしっかりと抱きしめるのに、結構力がいる。

 宥めるように体を揺すっていると、横からシキが手を伸ばしてきて遠矢くんの掌に触れた。そのシキの手を遠矢くんが握りしめて、不思議そうに眺める。ぶんぶんとオモチャのように振り回しながら。

 それを眺めるシキの口許はわずかに緩んでいて。何となく、距離が近く感じながらも、身動きはとれずにいた。

 あやしながら、しっかりと握られた手をぼんやり見つめる。

「………慣れてんな」

 聞こえた声に顔を上げると、トメが頬杖をつきながらこちらを見ていた。

「オレ、初めて抱っこした時、どうすれば良いかわからなくて。結構慌てたんだ〜」

 楽しそうなヤエの説明に、そういう意味かと微笑を浮かべる。

「従兄のとこに子供がいるから。それで」
「あぁ」

 納得がいったようにヤエが声をあげる。トメはへぇと相づちを打った。シキはかわらず遠矢くんを眺めていて、何だか落ち着かない。

「………シキ、代わる?」
「いい」

 興味があるのかと思って訊ねてみたけど、断られる。どうしようと、ヤエに助けを求めようとしてちょうど。遠矢くんがシキの指をぺしりと投げ捨てた。力の限りに身をよじらせ始める。

「うっ、ふぁっ」
「………あー、ぐずり始めた。お父さんの方が良いのかな?」

 そう言って、手をのばしてきたのはヤエで。しばらくヤエがあやしてみていたけどおさまる様子はない。やっぱお父さんの方が良いみたいと言って、トメの手へと渡った。

「オレが抱いてたら泣かないけど、寝るのはお父さんの方が良いんだって。現金だよねぇ」

 わずかに首をかしげて眺めていたら、ヤエが説明してくれた。言いながら、表情は楽しそうに笑っている。

「大きいから安心するのかね」
「あぁ…確かに」

 見ている身としては壊れてしまいそうで不安があるけど、抱っこしてもらっている身としては安定感があって落ち着くのかもしれない。現に、トメが数度揺らしただけで眠ってしまった。

 トメはこちらの会話に、何か言いたげな様子を見せた。けれどそれをため息に変え、遠矢くんを見下ろす。

 重さが消え、温もりは残ったままの腕を持て余し、湯飲みに手を伸ばす。何となしにシキに視線を向けると、ちょうどお茶を口にしていた。けれど、ふと遠矢くんに向ける眼差しは柔らかくて、子供が好きなんだとわかる。

 だからどうというわけではないんだけど。そうか。好きなのかと、繰り返す。その姿を視界から追い出すように、湯飲みに口をつけた。

「そういや椿クリスマスやっぱデート?」

 クリスマス。そういえばシキはどうするのだろう。普通に恋人さんと過ごすと思っていたけど、別れてしまったし。予定なく家で過ごすのかな。だとしたらどうしよう。

 とりとめのない思考を一旦脇に置き、ヤエの問いかけに答える。

「………ううん。向こうが塾あって」
「え?本当に?じゃあシャーウッド行く?」
「シャーウッド?」

 何故ここでその名前?と首をかしげたら、目が合ったままのヤエも同じように首をかしげた。

「あれ?シキから聞いてない?」

 何かあるのだろうかとシキを見ると、わずかに肩をすくめて口を開いた。

「クリスマスパーティーやんだよ」
「オレも少し顔出すし、椿も来るでしょ?」
「えー…っと」

 どうしようってどうしようもないのだけれど。この流れだとシキも出席するのだろう。もっと早く知っていれば、違ってたというわけでもない。それでも、どうしようだとか思ってしまった。

「別件で……パーティーの準備から手伝う約束してるから」
「えーっ?………ってもしかしてそれサキの?」
「うん」

 あちゃーという風にヤエがちゃぶ台の上につっぷす。

「サキ?」
「友達とパーティすんだってー。それの手伝いでしょ?」
「うん」

 訝しげに問いかけてきたトメに、ヤエが答えた。と言うか。ちゃんと本人に確認してなかったけど、サエさんやっぱりこっちに来るんだ。

「友達と?悟はどーすんだ?」
「んー?だからシャーウッドに…って、ならちょうどいいのか」

 はたとヤエが身を起こす。何がちょうどいいのかと首をかしげ、シキと目が合った。わずかに顔をしかめている。

「……遅くまでかかるのか?」
「………うん。そっちは?」
「顔出すだけのつもりだったが……どうすっかな」

 遅くまでってか去年は朝までだった。サエさんの回りは祭り好きな人が多いから大いに盛り上がる。しかもきちんと時間を決めての集まりじゃないから、バイト終わりに来る人もいるし。

 シキが帰ってこないと思っていた。前の学祭の時みたいに眠れなくなるかと。だからちょうどいいやと思っていたのに。

「……ゆっくり、楽しんできなよ」
「お前がいねぇのにか?」
「………っ」

 志渡さんは喜ぶ。きっと六郷さんだっている。二人が揃っているのを見るのは辛いかもしれないけど。それでも。

 そう思っての言葉だったのに、シキの台詞に息を飲む。言って、シキは何てことないようにお茶を含む。深い意味はないってわかってる。けれど見てられなくて、湯飲みに視線を落とした。

 だって。何で。オレがいようがいまいが、シキには関係ないはずなのに。今の言い方じゃまるで望んでくれてるみたいじゃないか。

「………んだよ」
「えー…ごちそうさま?」
「あ?」

 不審げなシキの声に顔をあげると、ヤエが呆れたような顔してこっちを見ていた。目が合うとにっこりと笑う。

「まぁ、相手サキじゃ仕方ないか。気が向いたら顔ぐらい見せに来てよ。オレも途中参加だし」
「ヤエはその日もバイト?」
「うん。昼間だけどね。その後そのメンバーで食事するけど、早く終わりそうだから」
「そうなんだ」
「師しょ…メインのバイトの上司は教会行くから、突然呼び出される心配もないし」

 安心して楽しめるんだーと楽しそうに言う。その姿に微笑ましくなった。

「悟にも会いたいし。トメは仕事らしいけどねー」
「仕方ねぇだろ」
「まぁ、今年は遠矢くんもいるし、東子さんもそんなに寂しくないよね」

 ヤエが眠っている遠矢くんの頬をつつき、トメがしかめっ面でそれを見ている。仲が良いなぁと眺めていると、隣で湯飲みをちゃぶ台に置く音がした。

 湯飲みに手をそえたまま、シキが口を開く。

「椿」
「ん?」
「……向こうには顔出すのか?」

 向こう?首をかしげてすぐ、七里塚の家のことだとわかった。

「うん。和ちゃんにプレゼント渡したいし」
「そうか」

 ちらりとこちらを見てすぐに湯飲みに視線を戻す。一瞬だけ向けられた眼差しは何か言いたげに思えて。でも訊ねることはできず、同じように湯飲みを見つめる。

 ヤエとトメの楽しそうな会話が、何となく遠く感じられた。





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あきゅろす。
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