花の色は
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
これは自分のことだと彼女は言っていた。
放課後の、人のいなくなった教室の中で。窓からは僅かに赤味を帯び始めた日が差し込んでいた。運動部のホイッスルが聞こえていた。
部活になんて入っていなかったけど、よく遅くまで残ってお喋りをしていた。もっと遅くなって暗くなった校舎は少し怖かったけど、とても楽しかった。
その日は、何でか国語の教科書を開いていた。そこに載っていたのが彼女の読んだ言葉。私は確かにと納得していた。
鬼も十八、番茶も出花。
そういったのは彼だった。その言葉に彼女は顔を顰める。構わず彼は続けた。
花なんてどうせ散ってしまう。
醜く枯れていくのと、美しいうちにさっさと散っていくのとどっちがいい?
枯れた花にはそれなりの味わいがある。年相応の美しさを、理解することもできないの?
そう彼女はやり返した。
そんな二人のやり取りを聞いているのが好きだった。時々ついていけないような内容の会話をすることがあった。それでも対等にやり合っているその空気が居心地良かった。
不意に、二人の視線が向いてきた。戸惑っていると、そうやって笑っているけど自分はどうなのかと尋ねられてしまった。
いきなり話を振られて、少し困ってしまったけどゆっくりと考えて自分なりの答えを出した。
私らしいを笑われたけれど。
鍵を閉めて、マンションの廊下を行く。久しぶりにその友人たちを会う日だ。あれから何年もたち、新しい家族もできた。今日は遅くなると伝えてあるけれど、もう私なしでも夕食の準備ができる。心配はなかった。
それよりも早く会いたいと気持ちが急ぐ。最後に会ってからどれくらい経っただろうか。エントランスを出れば春の空が広がっていた。大きく息を吸い込む。焦っても仕方がない。あと数時間で会えるのだから。
月日の流れは人を変えていくという。けれどあの心地の良い空気だけはいつまでも変わらずにあった。それがとてもうれしい。
ふと、アスファルトの端、僅かに土の露出している箇所に黄色い花が見えた。笑みがこぼれる。
花が散ろうが、枯れようが構わない。それよりも、ただ、小さくても花を咲かせることができればそれで十分。
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