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「………いきなり呼び出すから何事かと思えば祭?」
「おー、たまにはいいだろ?」
「たまにはって…こないだそう言って花火見に行ったよね?」
「ま、いーからいーから」
「………」

 ま、いーんだけどね。

 ゆっくりと、大きく夜の空気を吸い込む。

 赤く灯された提灯。立ち並ぶ出店。祭囃子の音に、はしゃぐ子供たちの声。浴衣を着ている人も結構いる。非日常な雰囲気が気分を高揚させる。

「恵、飯まだだろ?何か食うか?」
「ん?んー…そう言えば、愛が朝、祭がどうとかいってたんだけど、ここのことだったのかな?」
「………来てるのか?」

 途端、嫌そうに顔を曇らせる。つい、苦笑してしまった。

「祭って言ってただけだから、ここじゃないかも」
「なら、いーけど…」
「恵ッ!!」
「………」

 タイミングよく話題の人物の声が聞こえ、言葉を失う。いるかもとは思ったけど、この人混みの中で、こうも早く出くわせてしまうとは。

「見て、見て、浴衣。どう?可愛いでしょ?似合うでしょ?」
「うん。かわいいね」

 駆け寄ってきた彼女に笑顔で答えると、当然だと胸を張った。そして腕に抱きついてくる。

「今バイト帰り?ね、ワタアメ買ってよ。あと、リンゴアメも食べたい」
「んなに食ったらデブるぞ」
「……げ、雅則。なんでいんの?」

 彼の悪態でようやくその存在に気づいたのか、彼女が顔をしかめる。二人とも、機嫌の悪さを全く隠そうともしない。

「それはこっちのセリフですー。つーか何だよそのカッコ。七五三か?」
「はぁ?浴衣と着物の区別もつかないの?バッカじゃない?」
「似合ってねぇっつってんだよ。てか、いつまで恵に引っ付いてるつもりだ?いいかげん、離せよな」

 ぐいっと力づくで引っ張られ、今度は彼に抱き締められた。

 ……何なんだ。この状況。

「ちょっとっ!離しなさいよね、このホモ野郎!」
「残念でしたー。オレはホモじゃありませんー。ちゃんとかわいい彼女がいますー」
「げっ、ウソでしょ?信じらんない。その女、趣味悪すぎっ。てか、彼女いんならヒトの兄にちょっかいかけないでくれますー?」

 ギャースカと喚き合う二人に挟まれ、さてどうしようか。

(…………………)

 ふぅと、息を吐く。

「………雅則。離して」
「やーだー」

 やだって、子供じゃあるまいに。

「いいから離せ」
「………」

 きつく言えば素直に手を話した。よし。

「雅則、大人げない。相手は年下の、それも女の子なんだよ」
「けどっ……」
「けどじゃ、ない。同レベルで言い合いしてどうすんのさ」
「あはは、怒られてやんの」

 笑った彼女の方を向くと、すぐに口をつぐんだ。

「愛も。年上に対する態度言葉使いじゃなかったよね」
「……全然、年上っぽくないもん」
「……見えなくても、一応は年上なんだからそれなりの礼儀は持たなくちゃダメ」
「………」

 頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。彼も、ムスっとしている。

 まったく。

「で?愛はどうするの?」
「……どうってー?」
「オレは雅則に誘われて来たから一緒に回るけど、愛も一緒に回る?」
「なっ」
「その人が一緒なら、私はいい」
「わかった」
「そのかわり、お小遣いチョウダイ」

 むくれた顔が一転。満面の笑顔に変わる。

「……最初からそれ目当て声かけてきたね?」

「そんなことないもーん。かわいいかわいい妹に、少しぐらい恵んでよ」
「……まったく」

 ため息を吐きつつ、サイフから千円札を一枚取り出す。

「え〜、こんだけ〜?」
「多いくらいだよ。ムダ遣いしちゃダメだからね。後、遅くならないうちに帰るんだよ」
「は〜い」

 あまり信用できない返事を残して去っていく。

 横を見たら、彼はまだむくれていた。

「……お前、あいつに甘すぎ」
「そんなことないよ。てか、怒ってんだからね」
「……怒ってんのか?」
「怒ってるよ」

 当たり前じゃないかと、振り向きもせず先を行く。彼は慌てて追いかけてきた。

「恵、悪かった。謝る」
「………」

 何に対して怒っているのか、分かっているのだろうか。

「わざわざ呼び出しといて早々にケンカなんかしてたら空気悪いよな」
「………」
「よしっ!さっきのは無しだ。おもいっきし楽しむぞ。まずは射撃だ」

 バシンと手を打ち、朗らかに笑う彼に言葉を失う。

 どうして、普段はあれだけ鈍いくせに、こういう時だけは勘がいいのだろう。

 ずるいな。

 だから、離れられなくなる。





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