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……………7




 卒業してから彼は一人暮しを始めたので、よく遊びに行った。雅則と二人でだったり、一人でだったり。

 就活に失敗し、現在フリーターなのだが、おかげで時間の融通がきき会いやすくはある。どうにかしなくてはと思うものの、やる気は大分少ないわけで。のんびり先のことを考えることにしている。

 彼の部屋には写真が飾られていた。雅則がそれを見つけた時、顔をしかめて写真立てを倒した。彼はそれを見て呆れたようにしていたけれど。それ以来、雅則のいる時にはその写真立ては倒されている。

 だから、その写真を見たのは一人で遊びに行った時だった。

 彼と、もう一人。見知らぬ女の子が写っていた。化粧をバッチリして、目一杯おしゃれをしたその女の子は彼の腕に抱きつき、楽しそうに笑っている。彼も、穏やかな笑みを浮かべている。

 このコが彼の恋人なのだろうか。聞きたいけれど、何となく聞けずにいた。

 とても女の子らしいその人は自分とは正反対。

 化粧はあまりしないうえ、するとしても最小限のみ。十分とかからない。服装もラフなものが多く、スカートなどいつ以来はいていないのか。

 こういう人が彼の好みなら、自分は正反対なのだ。

 なんだかな。

 関係ないはずなのに気分が落ち込む。

「華江?どうかした?」
「あ、ううん。何でもないよ」

 淹れてもらったコーヒーを受け取る。口をつけ、ほぅと息をついた。そこで、ピポピポーンとインターホンが連打される音がした。

「あれ?お客さん?」
「…の予定はないんだけど」

 予定はないと言いつつも、心当たりはあるのか彼の顔はわずかにひきつっていた。

 誰だろ。雅則は今日仕事だし。恋人だったら顔をひきつらせる意味がわからない。

 彼が玄関に向かい、ドアを開ける音がした。そしてすっとんきょうな声が響く。

「めぐみっ!」

 うん?

 な、何で呼ばれたんだ?てか何でまた今さら名字で?わけがわからないものの、呼ばれたのでとりあえず玄関に向かう。

 玄関先では彼と、中に入ろうとしている人物が押し問答をしていた。

「その格好はっ!?」
「えー、今夏休みだしー、少しぐらいハメはずしたっていーじゃん。てか、これくらい普通だし」
「ハメはずしすぎっ」
「そんなことないよ。もー、頭固いなぁ」
「大体、今人来てるから…」
「私より大事な人なんていないでしょ?……もしかして雅則が来てるの?だったら追い出してやる」
「あ、ちょっ」
「ん?」
「あ」

 強引に上がろうとして来たその人と目が会う。

 写真の人だ。

「恵、もしかして、そのコ彼女っ!?」
「恵、もしかして、その女彼女っ!?」

 …………ん?

 なんか今、全く同じ台詞が聞こえたような…………?

「…………二人とも違う。ちゃんと紹介するからちょっと待って」

 頭痛そうにおさえた彼が呟いて、私は彼女と顔を見合わせた。

 もう一度リビングに戻って、彼は彼女に冷たい飲み物を用意して、それからさっき言った通り紹介をしてくれた。

「華江、妹の愛」
「…めぐみ?」
「愛されるコって書いてめぐみね」

 不適な笑みを浮かべる愛ちゃん。さっき叫んだのは妹の方の名だったのか。てか、もしかしなくても会った当初私の名前呼びにくそうにしていたのは、妹と同じ名前だったからか。

「愛、こっちは恵華江さん。雅則の恋人」
「えーっ!?趣味わるっ」
「………っ」

 悪かったな。どうせ女らしくないよっ!!

「何であんな奴と付き合ってんのーっ!?信じらんないっ!!」

 ん?そっちか。

 うん。まぁね。自分でも何で付き合ってんのかわからないんだよね。てか、はたして付き合ってると言えるのか。

「愛っ」

 彼に叱責されて、愛ちゃんは肩をすぼめた。

 んー、何か同じ名前って変な感じだな。自分が叱られたみたいだ。

「それで、何か用あったの?」
「え〜、ちょっと休憩しに」
「………」
「あとついでにこないだの写真渡そうと思って。デートした時の」

 デートて。

 彼は困ったと言うよりも、頭痛そうにしている。何か、この反応って雅則に対するのと似ているような気がする。

「わざわざ持ってこなくても、データ送ってくれれば……」
「だってそれじゃあちゃんと飾ったかわかんないじゃん」

 楽しそうな笑みを浮かべて、愛ちゃんがバックから写真の束を取り出す。写真たても一緒に。

「ね、ね、どれが一番かわいい?」
「んー…華江、何かごめんね。せっかく来てくれたのに」
「え?…あ、ううん。それより、二人でどっか行ったの?」
「うん。せがまれて、遊園地に」
「ねぇ、早く選んでよ。かわいい妹のとびきりかわいい写真っ」
「わかった……わかったから」

 私も、一緒になって写真を見させてもらったけど、何か、何て言うか……

 愛ちゃん、超ブラコン。

 二人で写ってる写真は、ほとんど腕組んでたり抱きついてたり。その写真を見ている間もずっとベタベタしていた。挙げ句の果てが。

「………ふっ」

 目があった瞬間に見せた勝ち誇った笑み。

 何か、ムカつくっ!

「……何か、本当にごめんね」

 帰りがけに彼が声をかけてくれたけど、気にしてないと答える他ないではないか。

「……それより、もしかして愛ちゃんて雅則と仲悪い?」
「……うん」

 やっぱり。雅則は愛ちゃんの写真見て倒してたし、愛ちゃんは来たときと雅則追い出すって言ってたし。

「……会う度にケンカになるんだよね」

 それは多分、ケンカと言うより彼の取り合いなのだと思う。





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