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……………6




「…………何で?」
「何でって…何が?」
「いや、だっておかしいでしょ。さすがにそれは」
「なんもおかしくないだろー?なぁ?」
「うん」

 雅則に同意を求められ肯定すると、彼はますます奇妙な顔になった。

「……今度のバレンタインの話をしてるんだよね?」
「うん。そーだよ」
「それで何で三人でって話になってるの?」
「何でって…」

 雅則と二人、顔を見合わせる。

「……何が?」
「…………」

 頭痛そうに押さえた彼に、心の中だけでごめんねと詫びる。いや、変なこと言ってんなー、ってのはわかってるよ。わかってんだけどさ。やっぱ一緒に過ごしたいじゃん。いくらバレンタインが恋人同士のためのものだとしても。

 付き合い始めたとはいえ、特に恋人らしいことはなかった。それまでとあまり変わらない関係。むしろ三人で過ごす時間が増えて嬉しいぐらいだ。

 クリスマスも三人で過ごした。バレンタインも当然三人でと計画しようとしたら、彼は納得できないと言い出した。二人で過ごせと。

 彼は事あるごとに私と雅則を二人きりにしようとする。私は付き合っているということを基本忘れているのに、どうやら彼は違うようだ。忘れていいのに。

「えー、恵何でいや?雅則がいるから?なら私と二人で会う?」
「えー、恵何でいや?華江がいるからか?ならオレと二人で過ごすか?」
「…………それ、どっちもおかしいから」

 疲れきったように彼はため息をついた。そしてしばらく考えるそぶりを見せてから切り札を口にした。

 それはまさしく切り札。

 もしくは、爆弾。

「…………バレンタインぐらいは彼女と過ごしたい」

 何を言っているのか理解できませんでした。

 カノジョトスゴシタイ?

 雅則の付き合おう発言以上に理解できない。というより、頭が理解するのを拒否してる。

 カノジョ?

 誰の?

「…………恵?」
「何?」
「何か今、恵に恋人がいるみたいに聞こえたんだけど?」

 気のせいかな?気のせいだよね?お願いだから気のせいだと言って。

「うん。いるよ」
「い…いないって言ったのにっ!?」
「いない?…あぁ、だってそれいつの話さ。今はいるよ」
「騙されたっ!!」
「騙してないって」

 でも騙されたっ。

 いないって信じてたのに。だって一度もそんな話聞いてない。素振りだってなかったのに。もしかして知らなかったのは私だけなのだろうか、雅則は、知っていたのだろうか。

 だとしたらものすごくショックだ。

 確認しようと隣を見て、軽く、言葉を失う。隣には私以上に衝撃を受けている人が居た。

 言葉もなく立ち尽くしている。目は驚愕に見開かれ。試しに、目の前で手を振ってみたけど、何ら反応はなかった。

 ショックのあまり、目を開けたまま気絶してるのだろうか。だとしたら軽く引く。

「雅則?どうかした?」

 彼が雅則の肩を軽く揺する。ハッと我にかえった。

「な……なんだよそれっ聞いてねぇぞっ!!」
「まぁ、言ってなかったし」
「オレらの間に隠し事なんてないと思ってたのにっ!!」
「別に隠してたわけじゃ…言ってなかっただけで」
「それを隠してるって言うんだよ!今度、紹介しろよな」
「やだよ」
「んなっ」

 ぎゃいぎゃいと言い合う二人、というか雅則が一方的にわめいてるだけなんだけど、を眺めながら少しだけ胸を撫で下ろす。よかった。私だけじゃなかった。知らなかったの。

 比べたって、仕方がないのはわかってる。付き合いの年月も、性別も違うのだから。どう足掻いたところで、今の雅則の位置に立つことはできない。それでも、少しでもその場所に近づきたい。

 出会う前のことなら仕方がないって、まだ諦めもつく。けど、今のことで雅則が知ってて私が知らないなんてことがあったら、悔しくてならない。

 彼に恋人がいたという事実は、何故だかとてもショックだった。けど、雅則も知らなかったのだから大丈夫と、自分に言い聞かせる。

 何がどう大丈夫なのかは、わからないけれど。

「……でも、恵に好きな人がいたなんて知らなかった」

 ポツリと、小さく呟くと、彼は少しだけ哀しそうな表情をした。









 恋人がいるという衝撃のカミングアウトの後も、それまでと変わりはなかった。てっきり、恋人優先されるかと思ったけどそういうこともなく。むしろ、こっちを優先してくれているみたい。

 恋人さんには悪いと思いつつも、それがかなり嬉しい。雅則はその人も一緒に誘えばいいとか言ってるけど、正直会いたくはなかった。どんな人なのか、気にはなるけど。

 大学の卒業が決まって、三人で記念旅行に行くことになった。危なかったけど。本当にギリギリで、卒業できないかもだったけど。何とか、無事に卒業できることになってよかった。でなきゃ私だけ仲間外れになるところだった。

 本当は、就職が決まってないから旅行になんか行ってる場合じゃないんだけど。まぁ、息抜きも必要だとごり押しして行けることになった。

 逆ハーレムとかいった雅則のことはぶん殴っといた。

 けど、宿の部屋割りでもめた。男女で分かれるって雅則の言い分は悔しいけどわかる。でも何で彼が一人部屋に行こうとするのかは理解できなかった。それならいっそ彼と同室の方がいい。てか、二人が同室ってのも悔しいし。

 結局、馬鹿言った雅則が彼に殴られて気を失った。なかなか良いパンチだった。

 自業自得だから全くもって心配にはならないけど、彼が部屋を出ていこうとしたのには慌てた。

「華江はさ、彼女なんだから少し優しくしてあげてよ。したらすぐ元気になるよ」

 違うよ。

 彼女だとか優しくだとかじゃなくて。雅則と同じ部屋に泊まって、何かあったんじゃと思われるのが嫌なんだよ。





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