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……………2




「ねぇ恵。お願いがあるんだけど良い?」
「…………何?」
「付き合ってほしいんだけど……」

 勇気を振り絞って、恐る恐る尋ねると彼はペンを持っていた手を止めて少し眉をしかめた。

「……今、もう十分付き合ってるよね?」
「……うぅ」
「今度は何?英語の長文読解?情報リテラシーのレポート?」
「あぁっ!英語忘れてたっ!」
「……まぁ、明後日だからまだ間に合うけど」
「は……早くこれ終わらせないと…」

 彼はふぅと息をつくと席を立った。

「飲み物買ってくるけど、何かいる?」
「ジュースを。何でも良いから糖分が欲しい〜」
「分かった」

 彼が離れていくとすぐに資料に目を落とす。細かい文字を見すぎて目がチカチカしてきた。

 提出物があるとすっかり彼に頼るようになってしまった。勉強を見てもらうのではなく見張っててもらうために。彼の履修していない授業のでも付き合ってもらってる。わからないからいても意味ないと言われたけど、そんなことはない。

 彼が一緒にいるだけで、集中力が増すのだ。これが他の友達とだとついお喋りしたりしてしまい全然進まない。

 もちろん、そんな理由で毎回のように付き合ってもらっちゃって申し訳ないとは思ってる。でも、その間彼だって自分の勉強をしてるのだから問題はないはずだ。多分。

 てか、進級がかかってるから大目に見てね。みたいな?

「はい」
「あ、ありがとう〜」

 彼は優しく微笑んで席に着いた。

「華江、次授業ないんだよね」
「え?うん」
「じゃあ、四限終わった後また来るね」
「あ、ありがとー。……あ、でもさっき言おうとしたのはそうじゃなくて…」
「ん?」

 手を膝の上に揃えて、首をかしげている彼の様子を窺いながら頼みごとをする。

「勉強は勉強でも教習所の方なの」
「教習所?」
「先週から通い始めたんだけど…一緒にどうかなって」

 一人だと全くもって授業に身が入らなかった。実技はともかく、このままでは筆記が足を引っ張って免許がとれない。

 困った時の恵頼み。

 確かまだとってないって言ってたし。でもそれなりにお金がかかるから頼み難い。

「合宿でとろうかと思ってたんだけど……」
「い、今なら割引が利くよ」
「…………割引」
「恵?」
「…………少し、考えさせて」

 考えた結果、どうやら割引に心動かされたようで了承してくれた。お陰様で免許がとれました。

 ……何故か後から入った彼の方が先に習得してたけど。別に良いんだけどね。何かやっぱ悔しい。

「あ、恵今からお昼?一緒に食べよ」

 返事を聞く前に自分の荷物をどけて、席を開ける。席に着いた彼がこちらを見て首をかしげた。

「……何か良いことあったの?」
「ううん。別に」

 言いつつも、ニヤニヤしているのは自覚をしている。

 先日から彼に聞きたくて仕方がないことがあったのだ。

「ね、恵。ゼミの希望もう出した?」
「……さっき出してきたとこだけど?華江は?」
「ふふっ、一番乗りで出したよ」

 いつも提出物はギリギリだけれど、今回だけは違う。紙が配られるやいなやすぐに提出したのだ。これはもう自慢するしかないではないか。特にいつも世話になっている彼に聞いてほしかった。

 本来は別に自慢するようなことじゃないけどね。

「早かったんだね。誰先生のゼミ?」
「ん?森先生」
「あ、同じだ。今、森ゼミ第一で出してきた」
「本当?やった」
「…………」
「…………今、私の提出物に付きうの増えるとか思った?」
「……いや、もし違うゼミでも付き合うのかなと」

 くっ、否定できない。

「よ、恵。一緒に食っても……」

 背後から突然知らない声が聞こえてきた。振り替えると知らない人がトレイを手に立っていた。

 目が合う。

 友達なのかな。

「……え〜と…もしかして邪魔だった?」
「いや。別に」

 そして彼に同席させても良いか尋ねられた。

「どーぞ。恵の友達?」
「こいつはは宮下雅則。高校からの腐れ縁。で、こっちは恵華江ちゃん。同じゼミで友達」
「恵?」
「そー、名前がきっかけで仲良くなったの。はじめまして」

 本当はそれだけじゃないけど。名前よかノート借りたりで親しくなったけどわざわざ言うことでもない。

「あぁ…はじめまして」

 どこか釈然としないと言うように、その人は眉をしかめていた。

「どうかしたの?」
「…………いや……今日ゼミ希望出すってたのに同じゼミ?」
「あぁ、私も同じとこ第一で出してたから。毎年希望者少ないらしいから、確実だよ」
「あ、なるほど」
「宮下君学部はー?ゼミ希望とかもう出したの?」
「経済。でもまだゼミ悩んでんだよな」
「期限ギリギリになって焦らないようにね」
「華江はいつも大変な目にあってるもんね」
「あ、ばらさないでよー」

 せっかく初対面の人だからちょっとお姉さんぶってみたかったのに。

「もしかして、恵がよく一緒に勉強してるのって華江ちゃん?」
「そうだよ」

 一緒に勉強してるっていうか。

 見てもらってるっていうか。

 見張ってもらってるっていうか。

 …………まぁ良いよね。美しい誤解はそのままで。

 そんな感じで昼食は終わり、授業のある私は先に別れた。特にこの日の出来事は意識していなかったけれど、彼からの連絡があったのは数日後。





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あきゅろす。
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