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…………4




 恋人同士とその友人。というよりは三人で付き合っているかのような錯覚を覚える時もある。実際、誰と誰が付き合っているのかと訊ねられることもしばしばだ。そんな時には曖昧に笑って事実を述べる。自分だってこの関係がよくわからない。ただ、考え始めると辛くなるだけだから考えないようにしてるだけ。

「なー恵はどっか行きたいとこあるか?」
「……?あぁ、卒業旅行?海外とか良いんじゃない?働き始めたら時間とれなくなるんだし」

 彼はテーブルの上に大量の旅行パンフを広げ。頭を悩ませていた。

「やっぱしそーだよな。…でもなぁ…」
「……そんなに悩むんなら直接本人に聞いてみれば?」

 こんなとこで時間を無駄にするよりは一緒にいく人物に相談したほうがよっぽど合理的だ。しかし彼はパンフから顔をあげると眉をしかめた。

「だからこうして聞いてんだろ」
「…………?」

 意味がわからない。

「えっと……雅則と華江が二人で行く卒業旅行について悩んでるんだよね?」

 念のため確認の意味を込めて当たり前の事を訊ねる。彼はあっさりと否定した。

「いんや。オレとお前」
「何でっ!?」
「何でって……え?何が?」
「…………」
「…………」

 会話が止まり見つめ合うこと数秒。先に口を開いたのは彼だった。

「……もしかして恵、オレと行く気なかった?」
「なかったよ。当たり前じゃん。てっきり華江と二人で行くものとばかり」
「んだよ〜そんなこと気にしてたのか。大丈夫だって華江とは行かないから」
「大丈夫じゃないっ!何で行かないのっ!?」
「……お前、まさか聞いてないのか?」
「な…何を?」

 急に真面目な顔になった彼に思わず後込みしてしまう。

「実は華江のやつ……」
「私が何?」
「っ!?」

 突如背後から聞こえた声につい必要以上に驚いてしまった。

「ご……ごめん。驚かせちゃった?」
「いや。大丈夫」

 ふりかえると彼女がいた。若干やつれて見える。

 ……もしかして

「華江、具合悪い?」
「え?いや、別にそんなこともないけど?何で?」
「今、雅則が華江と卒業旅行に行かないって言ってたから何かあったのかと……」
「…………」
「……華江?」
「あ……あはは……大…大丈夫。大丈夫。何でもないから」
「……?」

 乾いた笑い声をあげる彼女に眉をひそめる。セリフもどこか棒読みだ。彼に説明を求めようと振り向くとにやにやと笑っていた。

「卒業できないんだよ。そいつ」
「えっ!?」
「あっ!ばらすなって言ったのに」
「こないだ単位危ないからって一緒に勉強したよね!?落としてたの!?」
「違うよっ!?そっちは大丈夫だったよっ!……ただ……その、卒論すっかり忘れてて……ちょっとヤバい…かも?」
「…………」
「わーん!恵が恐いー。だから知られたくなかったのにー」
「なー、だからオレら二人で行こうって」
「え?もしかして卒業旅行?ずるいっ、私もっ」
「華江っ!その前に卒論っ!!」

 そんな騒ぎがあったものの何とか彼女の卒業も決まり卒業旅行が決行された。それも結局三人で。もう仕方がないと諦めに似た気持ちで参加したが、夜、一騒動起きた。

 宿の部屋割りについて。

 当たり前のように自分が一人で、二人が一緒だと思っていたらいや、男女で分かれよう。ずるい仲間外れにする気かと。喧喧囂囂。

 どれが誰かは推して測るべし。

 議論が白熱し出した頃、彼がよしわかったと手を打った。

 両手を大きく広げて、

「二人まとめて抱いてやるっ!!」
「―――っ!?」

 思わず彼を力の限り殴り付けた。拳で。

「今のは……」

 大の字に延びた彼を前に彼女がポツリと呟く。

「雅則が悪い」

 当たり前だ。

「……じゃあ、隣行くから」
「えっ?」
「ソレの介抱お願い」
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
「ん?」

 慌てた様子で引き留められ、荷物を持ったまま立ち止まる。

「恵、一人で寝る気?」
「もちろん」
「でも……」

 困ったように倒れている彼を見つめる。その様子に苦笑した。

「華江はさ、彼女なんだから少し優しくしてあげてよ。したらすぐ元気になるよ」
「恵〜」

 なおも泣きついてくるような彼女におやすみと告げると問答無用にドアを閉めた。

 二人は付き合っているのだから一晩を過ごすのに何の遠慮がある。隣の部屋に二人きり。確かにそれは考えただけで胃が痛くなる。

 けれど、それ以上に、一緒の部屋になった時に聞かされるのろけの方が嫌だった。





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あきゅろす。
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